否認事件の刑事裁判の流れ
— 公判前整理手続・証拠意見・保釈・審理期間
| 1 | 本人は否定しているのに、認める内容の供述調書が作られている その調書を証拠として扱ってよいかどうかは、公判で弁護人が述べる証拠意見によって扱いが変わります。記録を確認したうえで、取り得る対応をご説明できます。 |
| 2 | 起訴された後も身体拘束が続き、保釈をどう求めるか決めかねている 保釈の判断で考慮される事情は法律に定められています。ご本人の生活状況や身元引受けの体制を踏まえ、どの点を疎明できるかを一緒に整理します。 |
| 3 | 守谷市・取手市にお住まいで、審理がどこの裁判所で行われるのか分からない この地域の事件は龍ケ崎支部が基本ですが、事件の種類によって土浦支部や水戸本庁で審理されることがあります。期日ごとの見通しを最初に整理しておくと、ご家族の予定も立てやすくなります。 |
| Q | 否認事件とは何ですか。自白事件と何が違うのですか。 |
| A |
否認事件とは、起訴された事実の全部または一部について、被告人の陳述が公訴事実と一致していない事件のことです。「争うつもりがあるかどうか」ではなく「公訴事実と合っているかどうか」で決まるため、ご本人にその意識がないまま否認事件になることもあります。
刑事裁判の第1回公判は、人定質問のあと、検察官が起訴状を朗読するところから始まります。その後、裁判長が被告人に対して黙秘権などを告げたうえで、被告人と弁護人に被告事件について陳述する機会を与えます。ここでの陳述の内容によって、その後の進行が変わっていきます。この場面は一般に「罪状認否」と呼ばれています。 ここで見られているのは、ご本人が「争うつもりがあるかどうか」ではありません。述べた内容が、起訴状に書かれた公訴事実と合っているかどうかです。条文も、争うか争わないかを宣言させる手続とは定めておらず、「被告事件について陳述する機会を与えなければならない」としているだけです。そのため、ご本人としては認めているつもりで説明したことが、公訴事実の一部と食い違っていれば、その部分は争いのある事件として扱われることになります。
意図せず否認事件になり得る陳述の例(法律上の類型として)
・「持ち出したのは事実だが、返すつもりだった」→ 不法領得の意思を争うことになります ・「押したのは事実だが、けがをさせるつもりはなかった」→ 故意の内容を争うことになります ・「金額はもっと少なかった」「回数は1回だけだった」→ 公訴事実の一部を争うことになります ・「そのあたりはよく覚えていない」→ 公訴事実を認めた陳述とは扱われないことがあります
【根拠】刑事訴訟法(昭和23年法律第131号)第291条第5項:「裁判長は、第一項の起訴状の朗読が終わつた後、被告人に対し、終始沈黙し、又は個々の質問に対し陳述を拒むことができる旨その他裁判所の規則で定める被告人の権利を保護するため必要な事項を告げた上、被告人及び弁護人に対し、被告事件について陳述する機会を与えなければならない。」
否認は「全部やっていない」という形とは限りません。行為そのものは認めたうえで故意がなかったと述べる、正当防衛にあたると主張する、被害額や回数を争うといった、一部だけを争う形もあります。どこを争い、どこは争わないのかを整理することが、そのまま弁護方針の出発点になります。 逆にいえば、起訴状に書かれた公訴事実のどこが要点なのかを弁護人と読み合わせておかないと、法廷でご本人が事実関係を丁寧に説明したつもりが、結果として争点を作ってしまうことも、争うつもりだった点が陳述から抜け落ちてしまうこともあります。第1回公判の前に、起訴状の記載を一つずつ確認しておく作業が必要になるのはこのためです。
罪を認めている場合の進み方については、刑事裁判の流れ——自白事件の場合(罪を認めているケース)で解説しています。あわせてお読みいただくと違いが分かりやすいと思います。
— 図1:自白事件と否認事件の審理の違い —
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| Q | 起訴されてから第1回公判までの間、何が行われるのですか。 |
| A |
争いのある事件では、公判前整理手続に付されることがあります。公判前整理手続とは、第1回公判期日の前に、争点と証拠を整理して審理計画を立てるための非公開の準備手続のことです。
裁判所は、充実した公判の審理を継続的・計画的かつ迅速に行うために必要があると認めるときは、検察官・被告人・弁護人の請求により、または職権で、第1回公判期日の前に事件を公判前整理手続に付することができます。弁護人の側から「この事件は公判前整理手続に付してほしい」と求めることもあります。
【根拠】刑事訴訟法第316条の2第1項:「裁判所は、充実した公判の審理を継続的、計画的かつ迅速に行うため必要があると認めるときは、検察官、被告人若しくは弁護人の請求により又は職権で、第一回公判期日前に、決定で、事件の争点及び証拠を整理するための公判準備として、事件を公判前整理手続に付することができる。」
なお、裁判員裁判の対象となる事件は、法律上、必ず公判前整理手続に付されることになっています。
【根拠】裁判員の参加する刑事裁判に関する法律(平成16年法律第63号)第49条:「裁判所は、対象事件については、第一回の公判期日前に、これを公判前整理手続に付さなければならない。」
手続の中身は、おおむね次の順に進みます。
— 図2:公判前整理手続の基本的な流れ —
⚠️ 公判前整理手続に付された事件では、手続が終わった後は、やむを得ない事由によって手続の中で請求できなかったものを除き、証拠調べを請求することができません(刑事訴訟法第316条の32第1項)。どの主張をどの段階で出すかを、手続の中で組み立てておく必要があります。
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| Q | 否認事件の裁判は何回くらい開かれ、どのくらいの期間がかかりますか。 |
| A |
回数も期間も事案によって異なりますが、否認事件は自白事件よりも公判期日の回数が増える構造になっています。理由は、手続の仕組みそのものにあります。
第一に、公判前整理手続に付されると、その手続が終わるまで第1回公判期日が開かれません。書面のやり取りと打合せを重ねる期間が、起訴から公判までの間に入ることになります。 第二に、証拠の扱いが変わります。事実を争う場合、弁護人は検察官が取調べを請求した供述調書について「同意しない」という証拠意見を述べることがあります。その場合、法律で定められた例外にあたらない限り、書面をそのまま証拠として使うことができず、供述した人を法廷に呼んで証人尋問を行う必要が出てきます。 第三に、証人尋問は1人あたり相応の時間がかかるため、証人の人数が増えるほど期日を重ねることになります。証拠調べが終わった後に、検察官の論告求刑と弁護人の最終弁論、被告人の最終陳述を経て結審し、後日判決が言い渡されるという流れは自白事件と同じですが、そこに至るまでの期日数が違ってきます。
見通しは、起訴状の内容と検察官が請求している証拠の量・種類を見ないと立てられません。ご相談の際に記録を拝見できれば、どの部分に時間がかかりそうかをご説明できます。
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| Q | 否認していると保釈は認められないのですか。 |
| A |
「否認しているから保釈できない」という条文はありません。法律が定めているのは、罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるかどうかなど、条文に列挙された事由の有無です。
保釈には、条文上の除外事由に当たらなければ許さなければならないとされる権利保釈と、裁判所が職権で許すことができる裁量保釈があります。権利保釈の除外事由のひとつが、罪証隠滅を疑うに足りる相当な理由があるときです。争点の内容によっては、この点が議論になることがあります。
【根拠】刑事訴訟法第89条:「保釈の請求があつたときは、次の場合を除いては、これを許さなければならない。」(第4号)「被告人が罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき。」
一方、裁量保釈の条文には、身体の拘束が続くことによって被告人が受ける不利益として、健康上・経済上・社会生活上のものに加えて「防御の準備上」の不利益が明記されています。争う事件では打合せに時間を要するという事情も、考慮の対象として条文に位置づけられているということです。
【根拠】刑事訴訟法第90条:「裁判所は、保釈された場合に被告人が逃亡し又は罪証を隠滅するおそれの程度のほか、身体の拘束の継続により被告人が受ける健康上、経済上、社会生活上又は防御の準備上の不利益の程度その他の事情を考慮し、適当と認めるときは、職権で保釈を許すことができる。」
保釈の手続そのものについては、保釈の条件・流れで詳しく説明しています。
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| Q | 捜査段階で調書に署名してしまいました。裁判で争えますか。 |
| A |
署名した調書があっても、法廷でその内容を争うこと自体はできます。調書をどう扱うかは、公判で弁護人が述べる証拠意見によって変わります。
刑事訴訟法は、法律に定める例外にあたる場合を除き、公判期日の供述に代えて書面を証拠とすることはできないという原則を置いています。これを伝聞法則といいます。
【根拠】刑事訴訟法第320条第1項:「第三百二十一条乃至第三百二十八条に規定する場合を除いては、公判期日における供述に代えて書面を証拠とし、又は公判期日外における他の者の供述を内容とする供述を証拠とすることはできない。」
ただし、検察官と被告人が証拠とすることに同意した書面は、証拠とすることができます。実務上、多くの書証はこの同意によって証拠になっています。つまり、争う場合には、弁護人が証拠意見の場面で同意しない旨を述べることが出発点になります。
【根拠】刑事訴訟法第326条第1項:「検察官及び被告人が証拠とすることに同意した書面又は供述は、その書面が作成され又は供述のされたときの情況を考慮し相当と認めるときに限り、第三百二十一条乃至前条の規定にかかわらず、これを証拠とすることができる。」
なお、被告人自身の供述を録取した書面については、別に要件が定められています。被告人に不利益な事実の承認を内容とする書面については、その承認が自白でない場合であっても、任意にされたものでない疑いがあると認めるときは証拠とすることができないとされています(刑事訴訟法第322条第1項)。取調べのときにどのような状況だったかが、後から問題になる場面があるということです。 |
| Q | 守谷市・取手市で否認事件になった場合、裁判はどこの裁判所で行われますか。 |
| A |
取手市・守谷市は水戸地方裁判所土浦支部の管轄です(交通事故は龍ケ崎支部)。裁判員制度の対象事件は地方裁判所の本庁のみで取り扱われます。
裁判所が公表している「茨城県内の管轄区域表」によると、この地域の管轄は次のとおりです。争う事件では、事件の重さによって合議体で審理されることがあり、その場合は審理を行う裁判所が変わります。ご家族が傍聴に行かれる場合は、この点が移動距離に直結します。
— 図3:茨城県南・県西エリアの管轄(裁判所「茨城県内の管轄区域表」より) —
裁判員制度の対象事件は、地方裁判所の本庁のみで取り扱われ、支部では取り扱われません。守谷市・取手市にお住まいの方の事件でも、対象事件であれば水戸市の水戸地方裁判所本庁で審理されることになります。なお、事件の種類等によって管轄が異なる場合がありますので、実際の期日の場所は裁判所からの通知でご確認ください。
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| Q | 否認事件で弁護人は具体的に何をするのですか。 |
| A |
記録の検討、証拠意見の決定、証拠開示の請求、主張の明示、証人尋問、被告人質問、最終弁論という一連の活動を、審理計画に沿って組み立てていきます。
最初に行うのは、起訴状と検察官が請求している証拠を読み込み、ご本人から事実関係を聴き取ることです。「何が争点になり得るか」を特定しなければ、証拠開示の請求も主張の組み立てもできません。身体拘束が続いている場合は、接見を重ねてこの作業を進めます。 次に、検察官が請求した証拠のひとつひとつについて、同意するか、同意しないかを決めます。ここでの判断が、その後どの証人を呼ぶことになるかを決め、審理の回数と長さを左右します。あわせて、開示を求めるべき証拠がないかを検討し、必要な請求を行います。 公判が始まってからは、証人尋問での反対尋問、ご本人に対する被告人質問、そして最終弁論という形で主張を組み立てます。弁護人の選任方法(当番弁護士・国選・私選)の違いについては、当番弁護士と私選弁護人の違いをご覧ください。
逮捕直後の対応から、勾留・保釈、示談、判決後の前科の扱いまで、刑事事件に関する記事は刑事事件の記事一覧(目次)にまとめています。ご本人の状況に近いところからお読みください。
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守谷市・取手市は、つくばエクスプレスと常磐線で都内へ通勤している世帯が多い地域です。争う事件では審理が複数回にわたるため、期日のたびに勤務先を離れる必要が生じます。ご本人が保釈されている場合でも、期日の日程をどう組むかは生活に直結します。この点は、公判前整理手続の中で審理計画を立てる段階から意識しておく必要があります。
また、この地域の事件は土浦支部(交通事故は龍ケ崎支部)、裁判員制度の対象事件は水戸市の本庁で扱われます。守谷駅・取手駅から見ると、龍ケ崎、土浦、水戸の順に距離が延びていきます。ご家族が傍聴を希望される場合、この移動時間が積み重なることも、日程を検討するうえで考えておきたい点です。
争うかどうかを決めるためには、起訴状の内容と検察官が請求している証拠を確認する必要があります。当職は刑事弁護の取扱経験があり、記録を拝見したうえで、現在どの段階にあり、次に何が起きるのか、どのような選択肢があるのかをご説明します。ご本人が身体拘束を受けている場合のご家族からのご相談も承っています。初回のご相談は面談またはZOOMで承っております。
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・刑事事件の記事一覧(まとめ・目次)
・刑事裁判の流れ——自白事件の場合(罪を認めているケース)
・保釈の条件・流れ
・勾留からの早期釈放を目指す手続
・家族が逮捕された。まず何をしたらよいか
・前科が付くとどうなるのか
・弁護士 吉津和輝 トップページ
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2026年7月26日:初版を公開しました。
本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別事案への法的アドバイスではありません。具体的なご相談は弁護士にお問い合わせください。なお、本記事の内容は令和8年(2026年)7月時点の情報に基づいています。法律・実務の取り扱いは今後変更される可能性があります。
公開日:2026年7月26日|最終更新日:2026年7月26日
