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介護事業所のカスハラ対応 — 利用者・ご家族からの暴言・過剰要求と2026年義務化への備え

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介護事業所のカスハラ対応 — 利用者・ご家族からの暴言・過剰要求と2026年義務化への備え

弁護士 吉津和輝(茨城県弁護士会所属)
弁護士 吉津和輝(よしつ かずき)
茨城県弁護士会所属|2018年12月弁護士登録(登録から7年)
主な取扱分野:企業法務・労働問題・カスハラ対応・医療機関法務・福祉事業者法務

介護事業所の経営者・管理者の方へ。利用者やご家族からの執拗な要求・暴言・身体的攻撃にお悩みではないでしょうか。介護現場のカスハラは他業種と異なり、ご利用者本人に加えてご家族からの問題行為が大きな割合を占める点に特徴があります。本記事では、現場で起きやすい場面ごとの法的対応と、2026年10月1日に施行される改正労働施策総合推進法によるカスハラ対策義務化への備えを、守谷・取手・常総・つくばみらい・柏など県南エリアの弁護士の視点から整理します。

目次
  1. 介護事業所のカスハラとは具体的に何を指す?
  2. 何もしないと事業所に法的責任は生じる?
  3. 家族から1日に何度も怒鳴られる、どう対応する?
  4. 暴言・暴力には警察を呼んでよい?
  5. 悪質な利用者・家族との契約を解除できる?
  6. 2026年10月の義務化、今から何を準備する?
  7. 相談した職員に不利益な扱いはできる?
Q介護事業所におけるカスハラとは具体的に何を指しますか?
A
結論として、利用者やご家族など事業に関係を有する者の言動が、社会通念上許容される範囲を超え、職員の就業環境を害するものをいいます。介護現場では、ご家族からの問題行為が大きな割合を占める点が他業種と異なる特徴です。

カスタマーハラスメント(カスハラ)とは、顧客等からの言動のうち、その内容や手段・態様が社会通念上許容される範囲を超えており、それによって労働者の就業環境が害されるものをいいます。2026年10月1日に施行される改正労働施策総合推進法では、次の3要素をすべて満たすものがカスハラとして定義されることになります。

介護現場の特徴として、ご利用者ご本人の言動だけでなく、そのご家族からの執拗な要求・暴言・クレームが大きな割合を占める点があります。要介護者本人への遠慮、認知症への配慮、サービス提供拒否禁止規定の存在など、一般のサービス業とは異なる事情があり、現場が抱え込みやすい構造的な課題があります。

介護現場で「カスハラに該当しうる言動」とされる代表例:①職員への身体的攻撃(叩く、引っ張る、物を投げる)、②長時間の拘束を伴う執拗な苦情、③人格を否定する暴言、④不合理な過剰要求、⑤性的言動、⑥SNS等での誹謗中傷。①は刑事事件にもなり得ます。ただし、客観的にみて社会通念上許容される範囲で行われる正当な苦情はカスハラには当たりません。
Q事業所として何もしないと、法的責任を負う可能性はありますか?
A
結論として、職員のカスハラ被害を放置すると、労働契約法第5条の安全配慮義務違反を理由に、事業所が職員から損害賠償を請求される場面があります。さらに2026年10月1日からは、カスハラ対策が雇用管理上の措置義務として法定されます。

労働契約法第5条は、使用者の安全配慮義務を定めています。

労働契約法(平成19年法律第128号)第5条(労働者の安全への配慮)「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。」

カスハラを長期間放置した結果、職員が精神疾患を発症して退職した、というケースでは、事業所が安全配慮義務違反を問われる場面があります。具体的には、損害賠償請求や労災認定後の使用者責任追及が問題となります。

加えて、改正労働施策総合推進法(令和7年法律第63号による改正)が2026年10月1日に施行されると、事業主には次のような措置を講ずる義務が課されることになります。措置義務に違反した場合、厚生労働大臣による助言・指導・勧告の対象となり、勧告に従わない場合は事業所名が公表される可能性があります。

また、介護事業者の顧問弁護士の役割として、こうした体制整備のサポートが含まれます。

Qご家族から1日に何度も電話で怒鳴られます。法的にどう対応できますか?
A
結論として、①対応ルールの整備と記録の徹底、②書面での申入れ、③刑事・民事手続の検討、という段階を踏むのが実務上一般的です。執拗なクレームは、態様により威力業務妨害罪の対象となる場面があります。

執拗な電話・面会要求への対応は、いきなり強硬手段に出るのではなく、段階的に進めることが原則です。

長時間にわたる電話や訪問、執拗な反復によって業務が妨害される程度に至ると、刑法上の問題となる場面もあります。

刑法(明治40年法律第45号)第234条(威力業務妨害)「威力を用いて人の業務を妨害した者も、前条の例による。」(前条=第233条:3年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金)

記録の取り方として、「酷い暴言を浴びた」のような曖昧な表記は避け、可能な限り発言内容そのままを書き留めることが重要です。事業所内の録音は、業務上の必要性に基づき行うものであれば、利用契約上の利用目的の範囲内として認められる余地があります。ただし個別事情により評価は分かれますので、運用ルールの整備にあたっては事前に弁護士にご相談いただくのが安全です。

Q暴言・身体的暴力には警察を呼んでもよいのでしょうか?
A
結論として、職員の身体や生命に危険が及ぶおそれがある場合、110番通報をためらう必要はありません。態様により暴行罪・脅迫罪・強要罪などの対象となる場面があります。

「介護の仕事だから多少のことは仕方ない」「認知症の方だから」という考え方が、職員を追い詰める原因になることがあります。職員の生命・身体・名誉感情等の人権は、業種を問わず守られなければなりません。

刑法第208条(暴行)「暴行を加えた者が人を傷害するに至らなかったときは、二年以下の拘禁刑若しくは三十万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する。」
刑法第222条(脅迫)「生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知して人を脅迫した者は、二年以下の拘禁刑又は三十万円以下の罰金に処する。」

もちろん、認知症やせん妄状態の利用者ご本人の行為については、その程度・態様によっては心神喪失または心神耗弱(刑法第39条)に当たり、刑事責任を問えない場面があります。しかし、それは職員を保護しなくてよい理由にはなりません。複数人での対応、配置転換、サービス内容の見直し、家族や医療機関との連携など、組織として職員を守る措置が求められます。ご家族による行為については、責任能力が前提となるため、刑事告訴等の法的手段の選択肢が現実的です。

Q悪質な利用者・ご家族との利用契約を解除できますか?
A
結論として、契約上の解除事由に該当する場合は契約解除が可能です。ただし介護保険サービスにはサービス提供拒否禁止規定があり、契約解除→退去までは現実的に時間を要するため、慎重な手順が必要です。

介護サービス事業者には、運営基準上、正当な理由なくサービス提供を拒んではならない旨の規定(指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準等におけるサービス提供拒否禁止規定)が定められています。そのため、契約解除を検討する際には、「正当な理由」の有無を意識した手順を踏む必要があります。

訪問介護やデイサービス等の居宅サービスでは、契約解除によりサービス提供を終了することが比較的容易ですが、特別養護老人ホームなどの施設サービスでは、契約解除後直ちに退去させることは現実的に困難な場面が多くあります。後継受入先の調整や、自治体・地域包括支援センターとの連携が必要になります。

契約書・重要事項説明書に解除事由を明確に規定しておくこと、利用開始時に職員へのハラスメント禁止について同意を得ておくことなど、事前の整備が決定的に重要です。すでに契約済みの利用者については、契約書の見直し・差替えのタイミングで対応していくことが現実的です。

 利用者の認知症の症状によっては、客観的に問題行動とみえても、解除の正当事由として認められにくい場面があります。施設・事業所の体制で対応可能な範囲か、それとも医療機関での治療や別形態のサービスへの切替が適切か、医療・介護専門職と弁護士で連携して判断することが必要です。
Q2026年10月の義務化に向けて、今から何を準備すればよいですか?
A
結論として、①方針の明確化と周知、②相談窓口の整備、③発生時の対応手順の明文化、④研修の実施が中心となります。労働者を1人でも雇用していれば適用されるため、小規模事業所も対応が必要です。

2026年10月1日に施行される改正労働施策総合推進法により、すべての事業主にカスハラ防止の雇用管理上の措置義務が課されます。職員が1人でもいれば対象となります。具体的な措置内容は、厚生労働大臣の指針(事業主が職場における顧客等の言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針/令和8年厚生労働省告示第51号)で示されています。

介護事業所特有の論点として、サービス提供拒否禁止規定との調整、認知症利用者の行為と家族の行為の区別、複数人訪問の検討、医療機関との連携、自治体(保険者)への報告のあり方などがあります。一般企業向けのひな形マニュアルをそのまま流用すると、運営基準との関係で齟齬が生じる場面もあるため、介護事業所の特性に合わせた整備が必要です。

東京都では「カスタマー・ハラスメント防止条例」が2025年4月1日に既に施行されています。茨城県では現時点で同様の独自条例の施行はありませんが、改正労働施策総合推進法の施行により全国一律で義務化されます。医療機関のカスハラ対応と共通する論点も多くあります。

Qカスハラ相談をしてきた職員に、不利益な扱いをしてもよいですか?
A
結論として、不利益な取扱いは禁止されています。配置転換・昇給停止・雇止めなどが「不利益取扱い」に該当する場面があります。

改正労働施策総合推進法では、労働者がカスハラに関する相談を行ったこと、または事業主の対応に協力した際に事実を述べたことを理由として、解雇その他不利益な取扱いをすることが禁止されます。これは労働施策総合推進法のパワハラに関する規定(同法第30条の2第2項)と同様の構造です。

現場では「相談した職員を別の利用者担当に配置転換した」という対応が、一見配慮にみえても、実態として相談者にとって不利益な扱いになっていないかが問題となる場面があります。担当変更が業務上の必要性に基づくか、相談者の意向と整合的か、という観点での検討が必要です。

この不利益取扱禁止は、相談窓口の信頼性を支える要となるルールです。「相談しても何も変わらない」「むしろ立場が悪くなる」と職員が感じれば、事案の早期発見が遅れ、結果として安全配慮義務違反のリスクが高まります。経営者・管理者の方には、相談窓口を「監視装置」ではなく「事業所を守る早期警報装置」として運用していただくことが重要です。
守谷・取手・常総・つくばみらいの介護事業所事情つくばエクスプレス沿線の守谷市・つくばみらい市は新興住宅地として若い世代の流入が続く一方、市街地周辺や常総市・取手市の旧市街地には高齢化が先行して進む地域があり、新旧の住民構成が混在しています。新興エリアでは「都内勤務でご両親と離れて暮らすご家族」からの遠隔での要求が現場の負担になりやすく、旧市街地では「長年の地縁を背景にした要求」が問題化しやすい傾向があります。茨城県においても訪問系サービスにおけるハラスメント対策が地域課題となっており、訪問系サービスの安全確保は事業所単独の課題ではなく地域全体の課題です。県南エリアの民事訴訟の管轄は支部ごとに分かれており、守谷市・取手市・龍ケ崎市・牛久市は水戸地方裁判所龍ケ崎支部、つくばみらい市・つくば市・土浦市は同土浦支部、常総市は同下妻支部、柏市・我孫子市・野田市は千葉地方裁判所松戸支部となります。

カスハラ対応は、現場の職員の安全と事業所の継続的運営の両方に直結する経営課題です。2026年10月の義務化を前に、就業規則の整備、相談窓口の設置、対応マニュアルの作成、職員研修の実施など、ご事業所の規模・サービス種別に応じた準備を進めていくことが望まれます。個別具体的な事案については、状況をお聞きした上でご説明します。守谷・取手・常総・つくばみらい・柏など県南エリア・千葉県北西部の介護事業所の方からのご相談をお受けしています。

弁護士 吉津和輝
茨城県弁護士会所属
📧 [email protected]
📞 050-3623-1320
対応エリア

守谷市・取手市・常総市・つくばみらい市・龍ケ崎市・牛久市・つくば市・土浦市・野田市・我孫子市・北柏をはじめ、茨城県南部・千葉県北西部の介護事業所(特別養護老人ホーム・介護老人保健施設・有料老人ホーム・サービス付き高齢者向け住宅・グループホーム・デイサービス・訪問介護・小規模多機能等)の経営者・管理者の方からのカスハラ対応・体制整備・契約書見直しに関するご相談もお受けしています。弁護士 吉津和輝(茨城県弁護士会所属)までお気軽にどうぞ。

参考資料・情報源

e-Gov法令検索(デジタル庁)
労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律(昭和41年法律第132号)
労働契約法(平成19年法律第128号)
刑法(明治40年法律第45号)
令和7年労働施策総合推進法等の一部改正について(厚生労働省)
・事業主が職場における顧客等の言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(令和8年厚生労働省告示第51号)

更新履歴
  • 2026年4月27日:初版公開(改正労働施策総合推進法・令和8年厚生労働省告示第51号に対応)

本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別事案への法的アドバイスではありません。具体的なご相談は弁護士にお問い合わせください。なお、本記事の内容は令和8年(2026年)4月時点の情報に基づいています。法律・実務の取り扱いは今後変更される可能性があります。
公開日:2026年4月28日|最終更新日:2026年4月28日