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クリニックで患者が帰らない・クレームが止まらない時の対応 ― 応招義務と診療拒否

クリニックで患者が帰らない・クレームが止まらない時の対応 ― 応招義務と診療拒否

弁護士 吉津和輝(茨城県弁護士会所属)
弁護士 吉津和輝(よしつ かずき)
茨城県弁護士会所属|2018年12月弁護士登録 市川法律事務所所属

クリニック院長の方へ。診療の場で威圧的な態度を取り続ける患者、長時間クレームを続ける患者、他の患者に迷惑をかける患者への対応は、応招義務との関係で判断が難しい領域です。本記事では、守谷・取手・つくばみらい周辺のクリニックを念頭に、診療拒否の判断基準と日常対応の組み立て方を整理します。

目次
  1. クリニック院長にとって「応招義務」とは
  2. 長時間クレーム患者への対応を断れるか
  3. 患者が帰らない・居座る場合の対応
  4. スタッフへの暴言・威圧行為への対応
  5. 診療拒否の通知は書面で行うべきか
  6. 守谷・取手・つくばみらいで意識すべきこと
Qそもそもクリニック院長にとって「応招義務」とは何ですか。
A
結論として、医師個人が国に対して負う公法上の義務であり、患者に対する私法上の義務ではありません。ただし、診療拒否で患者に損害が生じれば、別途民事責任を問われる可能性はあります。

応招義務は、医師法第19条第1項に定められた医師の義務です。条文は以下のとおりです。

【条文】医師法(昭和23年法律第201号)第19条第1項
診療に従事する医師は、診察治療の求があつた場合には、正当な事由がなければ、これを拒んではならない。

従来、この応招義務の範囲については解釈が定まっていない部分が多く、現場の院長を悩ませてきました。厚生労働省は令和元年12月25日付「応招義務をはじめとした診察治療の求めに対する適切な対応の在り方等について」(医政発1225第4号医政局長通知。以下「令和元年通知」)により、応招義務の法的性質と診療拒否の正当事由を整理しています。

令和元年通知で整理された重要ポイント
・応招義務は、医師個人が国に対して負担する公法上の義務である
・患者に対する私法上の義務ではない
・勤務医が応招義務を負うのは、医療機関ではなく医師個人として
・医療機関自体も、正当な理由なく診療を拒んではならないという運用はある

応招義務違反に対して、直接の刑事罰はありません。医師法上の戒告等の行政処分の対象となりうるものの、応招義務違反のみを理由とする行政処分の実例は確認されていないとされています。

⚠️ 民事責任との関係に注意
応招義務自体に刑事罰がないとしても、診療拒否によって患者の生命・身体に損害が生じた場合、別途、民法第709条の不法行為責任が問われる場面があります。過去の裁判例では、救急医療の場面で診療拒否の正当事由を認めず、医療機関の損害賠償責任を認めたものが公表されています。

つまり、クリニック院長にとって応招義務の問題は、「行政処分を避ける」という観点だけでなく、「民事損害賠償請求のリスクを避ける」という観点からも検討する必要があります。

Q長時間クレームを繰り返す患者への対応を断ることはできますか。
A
結論として、緊急性がなく、かつ信頼関係が既に破壊されている場合には、診療拒否が正当化される場面があります。ただし緊急性がある場合は例外となります。

令和元年通知は、診療拒否の正当事由の判断要素として、次の3つを挙げています。

考慮要素 判断のポイント
① 緊急対応の要否 病状が深刻で緊急対応が必要な場合、原則として診療拒否は正当化されにくい
② 診療時間内か否か 診療時間外は、原則として応招義務を負わない(緊急性があれば対応が望ましい)
③ 信頼関係 迷惑行為・威圧行為の繰り返しで信頼関係が破壊されている場合、診療拒否が正当化される場面がある

モンスターペイシェントへの対応が問題となるのは、主に③「信頼関係」の観点です。令和元年通知は、「診療内容そのものと関係ないクレーム等を繰り返し続ける等、診療の基礎となる信頼関係が喪失している場合」には、新たな診療を行わないことが正当化されるとしています。

信頼関係の破壊が認められやすい場面の例
・診療内容と関係のないクレームを長時間繰り返す
・院長・スタッフに対する暴言・威圧行為が継続している
・他の患者への迷惑行為(大声・威嚇等)が繰り返されている
・院内の秩序を乱す行為が繰り返されている
・医師の指示に一貫して従わない
⚠️ 診療拒否が困難な場面
上記に該当する場合でも、緊急対応が必要な場合は話が別です。急性症状で生命・身体に関わる状況で診療を拒否することは、応招義務違反および民事責任のリスクが高くなります。信頼関係の破壊を理由とする診療拒否は、「継続診療を行わない」という趣旨で適用されることが多いです。
Q患者が帰らない・居座る場合、どのような対応が考えられますか。
A
結論として、退去を求める明確な告知を行い、応じない場合には警察への通報や不退去罪の適用を検討する段階的アプローチが基本です。

クリニックの待合室・診察室は、医療機関の管理者(院長等)が管理する空間です。診療終了後に院長・スタッフが退去を求めたにもかかわらず、正当な理由なく居座り続ける行為は、不退去罪の要件に該当する場合があります。

【参考条文】刑法(明治40年法律第45号)第130条
正当な理由がないのに、人の住居若しくは人の看守する邸宅、建造物若しくは艦船に侵入し、又は要求を受けたにもかかわらずこれらの場所から退去しなかった者は、3年以下の拘禁刑又は10万円以下の罰金に処する。

「退去しなかった者」という要件は、退去を求められたにもかかわらず退去しない場合を指します。つまり、明確な退去要求が先行することが前提です。

実務で推奨される段階的対応
① 診療終了の明確な告知
② 退去を求める発言(複数回、可能ならスタッフの面前で)
③ 「退去されない場合は警察を呼ぶ」旨の予告
④ 対応記録(時刻・発言内容・対応者名)の作成
⑤ それでも応じない場合は110番通報

警察は、医療機関からの通報であれば相応の対応を行う傾向があります。ただし、通報の際に「患者が暴れている」等の表現より、「退去を求めたが応じない、不退去の疑いがある」と事実ベースで伝える方が、警察側の対応方針を決めやすくなります。

⚠️ 物理的接触は慎重に
居座る患者に対してスタッフが物理的に触れる(腕を引くなど)行為は、仮に退去を促す意図であっても、患者側から暴行罪(刑法第208条)や傷害罪(同第204条)の告訴を受けるリスクがあります。物理的接触を伴う対応は、原則として警察に委ねる方が安全です。

クリニックの顧問契約については、顧問契約サービスの紹介ページもご参照ください。

Qスタッフに対する暴言・威圧行為には、どう対応すべきですか。
A
結論として、院内ルールの整備・記録の作成・必要な場合の警察対応という段階的対応が基本です。スタッフの安全配慮義務の観点から、対応ルールの事前整備が重要性を増しています。

クリニックで働く看護師・医療事務スタッフは、患者との最前線の接点に立つ立場です。患者からの暴言・威圧行為によるストレスは、スタッフの心身に大きな負担を与えます。

2025年6月11日に改正労働施策総合推進法が公布され、カスタマーハラスメント(カスハラ)対策が段階的に事業主の義務となる方向で整備されています。クリニックも事業主として、スタッフをカスハラから守る体制整備が求められる方向にあります。

院内で整備しておくことが望ましい事項
・暴言・威圧行為の定義を明文化したマニュアル
・受付・待合室での対応方針(複数スタッフ対応、対応者の交代など)
・記録様式(日時・発言内容・対応者・周囲の状況)
・警告・診療拒否の判断基準と手順
・警察への通報基準
・スタッフのメンタルケア体制

また、民法上、事業主である医療法人・院長は、従業員に対して安全配慮義務を負います。スタッフが患者から繰り返し暴言・威圧を受けていることを知りながら、何の対応も取らない場合、使用者責任や安全配慮義務違反を理由とする責任が問題となる場面があります。

【参考条文】労働契約法(平成19年法律第128号)第5条
使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。

「必要な配慮」の具体的内容は事案により異なりますが、カスハラに関する院内体制の整備は、この安全配慮義務の重要な一環と位置づけられます。

Q診療拒否の通知は、どのような形で行うべきですか。
A
結論として、書面で、診療拒否の理由・今後の対応方針・代替医療機関を具体的に示すのが一般的です。口頭のみの診療拒否は後日の証拠の問題を抱えます。

口頭で「もう来ないでください」と伝えるだけでは、後日、患者側から「言われていない」「侮辱された」等と主張された場合、事実関係をめぐって争いになる可能性があります。

書面化のメリット
・診療拒否の事実と日付が記録として残る
・拒否の理由を論理的・客観的に整理できる
・代替医療機関を案内することで、応招義務の趣旨に配慮した対応を記録できる
・感情的やり取りを避けることができる
・後日、行政照会・訴訟があった場合の重要な証拠となる

書面の内容として盛り込むべき要素は以下のとおりです。

記載事項 書き方のポイント
① 受診履歴・経緯 事実のみ淡々と。感情的表現は避ける
② 問題行動の具体内容 日時・内容・頻度を客観的に記載
③ 診療継続が困難な理由 信頼関係の破壊という観点から整理
④ 今後の対応 診療を行わない旨を明確に記載
⑤ 代替医療機関 近隣の医療機関を可能な範囲で案内
内容面での注意点
書面の表現は、あくまで客観的事実と対応方針の告知にとどめる必要があります。患者側の人格を否定する表現や、侮辱的・攻撃的な表現が含まれると、名誉毀損・不法行為の反撃を受けるリスクがあります。文面作成は弁護士の関与のもとで行うのが安全です。

 

Q守谷・取手・つくばみらいのクリニックで、特に意識すべきことは何ですか。
A
結論として、代替医療機関の紹介体制を事前に院内で整理しておくことが、TX沿線では特に重要です。診療科の偏在が地域特有の問題として存在するためです。

診療拒否を行う際、応招義務の趣旨(患者保護)に配慮するため、代替医療機関を案内することが実務上望まれます。ただし、TX沿線の守谷・つくばみらい・取手地域では、診療科によって代替先の選択肢が限られる場面があります。

TX沿線で代替先が限られる診療科の一般的傾向
・心療内科・精神科(予約が数か月先まで埋まっていることが多い)
・小児科の夜間・休日対応(広域的な救急体制に依存)
・美容医療領域
・特定分野の専門外来(生殖医療、疼痛クリニック等)

これらの診療科では、「代替医療機関を案内できないから診療拒否できない」という事態が起こりやすくなります。事前に、次のような準備を院内で整えておくことが現実的です。

院内で準備しておくべきこと
・近隣および広域の代替医療機関リストの整備
・電車アクセス可能な都内医療機関を含む広域リスト
・紹介状の定型フォーマット
・救急対応が必要な場面の搬送先判断基準

また、県南地域の三次救急は筑波大学附属病院・茨城県西部メディカルセンター等の医療圏連携の中で運用されており、緊急性のある患者への対応では搬送先の選択も課題となります。クリニック単独で完結しない対応判断は、顧問弁護士・地域医師会・行政窓口と連携して組み立てる必要があります。

📍 TX沿線のクリニック事情と患者対応

守谷市・取手市・つくばみらい市は、つくばエクスプレス(TX)開業以降、ベッドタウンとして人口が増加し、駅前を中心に新規クリニックの開業が続いてきた地域です。一方で、心療内科・精神科などの特定診療科は、都心部と比較すると選択肢が限られ、新規受診までの待機期間が長くなる傾向が見られます。この地域特性は、「信頼関係が破壊された患者の診療拒否を検討する際に、代替医療機関の紹介がスムーズに進まない」という現場の悩みにつながります。

また、茨城県南部では診療拒否をめぐるトラブルが民事訴訟に発展する場合、原告の住所地や不法行為地が管轄候補となります(民事訴訟法第4条第1項・第5条第9号)。守谷市・取手市・牛久市・龍ケ崎市は水戸地方裁判所龍ケ崎支部、つくばみらい市・つくば市は水戸地方裁判所土浦支部、常総市は水戸地方裁判所下妻支部が管轄候補となる点も、対応の時間軸を見積もる際に意識しておく必要があります。

患者が帰らない、クレームが止まらない、スタッフへの暴言が続く——こうした場面の対応は、応招義務・刑法・民事責任・労働法が複合的に絡む領域で、院長一人の判断では負担が大きい場面が多くあります。守谷・取手・つくばみらい・常総・柏エリアのクリニック院長の方で、対応方針についてご相談を希望される方は、まず状況をお聞きした上でご説明いたします。

弁護士 吉津和輝
茨城県弁護士会所属
📧 [email protected]
📞 050-3623-1320
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対応エリア

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更新履歴
  • 2026年4月24日:新規公開

本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別事案への法的アドバイスではありません。具体的なご相談は弁護士にお問い合わせください。なお、本記事の内容は令和8年(2026年)4月時点の情報に基づいています。法律・実務の取り扱いは今後変更される可能性があります。
公開日:2026年4月24日|最終更新日:2026年4月24日