デジタル遺産(暗号資産・ポイント・マイル)は相続できるか
— 種類別の扱いと、見落とさないための生前対策
主な取扱分野:相続・遺産分割、遺言、家族法、企業法務。相続・遺産分割の取扱経験に基づき執筆しています。
| Q | 「デジタル遺産」とは何を指し、相続できるもの・できないものはどう分かれますか? |
| A |
「デジタル遺産」に法律上の定義はありませんが、相続できるかどうかは、①財産権として承継できるか(民法896条本文)、②一身専属権として承継が否定されるか(同条ただし書)、③各サービスの利用規約、という3つの要素で決まります。
「デジタル遺産」とは、亡くなった方がインターネット上やスマートフォン・パソコン内に保有していた、財産的価値のある電子データ・アカウントを広く指す言葉です。法律上の明確な定義はありません。 相続の基本ルールは民法896条にあります。相続人は相続開始の時から被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継しますが、被相続人の「一身に専属したもの」は承継しません。つまり、故人の財産上の権利は原則すべて相続人に引き継がれる一方、その人だけに認められた権利は引き継がれない、という枠組みです。デジタル遺産が相続できるかは、この枠組みと、各サービスが利用規約でどう定めているかを重ねて判断します。
— 図1:デジタル遺産の種類別・相続の可否(概要) —
SNSアカウントや有料サービスの購読(サブスクリプション)なども広い意味ではデジタル遺産に含まれますが、財産的価値の観点から特に問題になるのは上表のものです。ポイントが相続できない理由は、次のQ4で詳しく整理します。
【根拠】民法(明治29年法律第89号)第896条
相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する。ただし、被相続人の一身に専属したものは、この限りでない。 |
| Q | 暗号資産(ビットコイン等)は相続できますか?秘密鍵がわからない場合はどうなりますか? |
| A |
暗号資産は財産的価値を持つものとして相続の対象になります(資金決済に関する法律2条14項が「暗号資産」を定義)。ただし秘密鍵やパスワードがわからないと、法律上は相続財産でも事実上引き出せないという実務上の大きな壁があります。
暗号資産とは、資金決済に関する法律(平成21年法律第59号)2条14項で、代価の弁済のために不特定の者に対して使用でき、不特定の者との間で購入・売却ができる財産的価値であって電子的に移転できるもの、などと定義されています。財産的価値がある以上、現金や有価証券と同様に相続財産となり、相続人が複数いれば相続財産は共有となって(民法898条)、遺産分割協議の対象になります。 実務で決定的に重要なのは「どこで管理されているか」です。管理形態によって、相続手続のしやすさが大きく変わります。
— 図2:暗号資産の「管理形態」による違い —
なお、海外の取引所で管理されている場合は、日本の法制度が直接及ばず、相続手続の対応が難しいケースがあります。取引所の口座があるか自体が分からないときは、当職のような弁護士が関与し、弁護士会照会(弁護士法23条の2)を通じて取引所に保有の有無を照会することも考えられます。
【根拠】弁護士法(昭和24年法律第205号)第23条の2第1項
弁護士は、受任している事件について、所属弁護士会に対し、公務所又は公私の団体に照会して必要な事項の報告を求めることを申し出ることができる(第2項で弁護士会が照会を行う)。
暗号資産は相続税の課税対象になります。相続税の申告期限は相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月です(相続税法27条1項)。具体的な評価方法や申告は税務の専門的判断を要しますので、詳しくは税理士にご相談ください。
⚠️ スマートフォンのロックが解除できず、暗号資産や電子マネーの存在自体を把握できないケースが見られます。メーカーや通信キャリアへの問い合わせでは対応が難しいことが多く、ロック解除は専門業者への依頼を検討することになります。
|
| Q | 相続放棄を考えています。暗号資産の秘密鍵を知っていると、放棄に影響しますか? |
| A |
暗号資産に大きな含み損があるなど負債性がある場合、相続放棄(民法915条・939条)や限定承認(民法922条)の検討が必要になることがあります。また相続放棄をしても、放棄時に暗号資産を現に占有している場合には一定の保存義務が残る点に注意が必要です(民法940条1項)。
相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内に、単純承認・限定承認・相続放棄のいずれかを選ぶ必要があります(民法915条1項。この期間=熟慮期間は、家庭裁判所の判断で伸長できる場合があります)。相続放棄をすると、その相続に関しては初めから相続人とならなかったものとみなされます(民法939条)。
— 図3:相続放棄の流れと、放棄後にも残る義務 —
暗号資産で特に問題になるのは次の2点です。 ① 価格変動と負債性 暗号資産は価格変動が激しく、証拠金取引などで損失を抱えている場合もあります。相続財産全体で債務超過となるおそれがあるときは、相続放棄や、得た財産の限度でのみ債務を弁済する限定承認(民法922条)を検討する必要があります。 ② 放棄後の保存義務 民法940条1項は、相続放棄をした者が放棄の時に相続財産を「現に占有している」ときは、相続人や相続財産の清算人に引き渡すまでの間、自己の財産と同一の注意をもって保存しなければならないと定めています。秘密鍵を管理しているなど暗号資産を事実上支配している場合、放棄後の取り扱いも慎重に判断する必要があります。
【根拠】民法(明治29年法律第89号)第915条第1項・第922条・第939条・第940条第1項
915条1項:相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から三箇月以内に、相続について、単純若しくは限定の承認又は放棄をしなければならない。/922条:相続によって得た財産の限度においてのみ被相続人の債務及び遺贈を弁済すべきことを留保して承認できる(限定承認)。/939条:相続の放棄をした者は、初めから相続人とならなかったものとみなす。
⚠️ 相続放棄・限定承認は期限が短く、いったん単純承認と扱われる行為(相続財産の処分等)をすると放棄できなくなることもあります。負債の可能性がある場合は、早い段階で弁護士にご相談ください。
|
| Q | ポイント(楽天ポイント・Vポイント・PayPayポイント等)はなぜ相続できないのですか? |
| A |
多くのポイントは、各サービスの利用規約で相続・譲渡が禁止されているため、原則として相続できません。会員が死亡した時点でポイントが失効する扱いとするサービスが一般的です。
理屈としては、ポイントは会員資格を持つ本人に対して付与されるサービス上の地位であり、民法896条ただし書の「一身に専属したもの」にあたるとして相続の対象外と説明されることがあります。もっとも、これは法律上確定した解釈というより、各事業者が利用規約で相続・譲渡を明確に禁止していることによって、実質的に相続できない扱いになっている、という側面が強いといえます。 したがって、ポイントの扱いは「サービスごとの規約次第」です。一部のサービスでは家族間でのポイント合算・移転を認めている場合もあります。相続できるかどうかを一律に決めつけるのではなく、そのサービスの規約を確認する、という姿勢が大切です。
ポイントの規約は改定されることがあり、インターネット上の解説は古くなっていることがあります。相続の場面では、必ず各サービスの公式サイトで最新の規約を確認してください。
|
| Q | 航空会社のマイル(ANA・JAL)は相続できますか?期限や分割はどうなりますか? |
| A |
ANA・JALはいずれも会員規約で会員死亡時の相続を認めており、所定の手続により法定相続人が有効なマイルを承継できます。ANAは申請期限(会員の死亡日から180日以内)を定めており分割相続は不可、JALは分割相続が可能で明確な日数制限は定めていないとされます(いずれも規約は変更され得ます)。
ANAはANAマイレージクラブ会員規約で、JALはJALマイレージバンクの規約で、それぞれ会員が死亡した場合に法定相続人がマイルを承継できると定めています。通常、マイルの共有・譲渡は制限されていますが、死亡による承継は例外として扱われます。実務上の主な違いは次のとおりです(詳細は各社公式サイトでの確認が必須です)。
JALのように分割相続が可能な場合、誰がどれだけ承継するかを遺産分割協議書に記載しておくと、後の紛争を防げます。マイルは長年の出張や旅行で相当額が積み上がっていることがあり、相続手続の中でも見落とされやすい資産です。故人のマイレージ会員登録の有無を早めに確認することをお勧めします。
⚠️ マイルには有効期限があり、相続手続の完了時点で有効なマイルが承継の対象になります。手続の期限・必要書類は変更され得るため、必ずANA・JALの公式サイトの相続手続ページで最新情報を確認してください。
|
| Q | PayPay・Suica・WAONなどの電子マネーは相続できますか? |
| A |
電子マネーの残高は「前払式支払手段」(資金決済に関する法律3条1項)としてチャージ済みの前払残高にあたるものが多く、暗号資産やポイントと比べると相続財産として扱いやすい側面があります。ただしQR決済系・交通系・小売系で扱いが分かれ、手続方法は各事業者で異なります。
Suica・PASMOなどの交通系電子マネーや、WAON・nanacoなどの小売系電子マネーの残高は、あらかじめ現金をチャージして使う「前払式支払手段」です。資金決済に関する法律3条1項は、前払式支払手段を、対価を得て発行され、代価の弁済や物品・役務の請求に使用できる証票・番号等と定義しています。チャージ残高は現金の代替という性質があるため、相続の場面でも財産として扱いやすくなります。
電子マネーの残高が多額の場合は、早めに各社の問い合わせ窓口に相続手続の方法を確認してください。QR決済アプリには残高のほか、送金・チャージ履歴が資産把握の手がかりになることもあります。
|
| Q | デジタル遺産をめぐって相続人間で揉めています。遺産分割調停はどこに申し立てるのですか? |
| A |
相続人が複数いる場合、相続財産は共有となり(民法898条)、話し合い(遺産分割協議)がまとまらなければ家庭裁判所の遺産分割調停を利用します。調停は、相手方(他の相続人)の住所地を管轄する家庭裁判所、または当事者が合意で定めた家庭裁判所に申し立てます(家事事件手続法245条1項)。
暗号資産や電子マネーの残高も遺産分割の対象です。とくに暗号資産は価格変動が激しいため、「いつの時点の価格で評価するか」で相続人の取り分が大きく変わり、争いになりやすい財産です。相続税の計算は相続開始日(死亡日)の時価が基準ですが、遺産分割の話し合いは死亡から数か月後になることもあり、その間の価格変動が争点になることがあります。 当地(茨城県南部)にお住まいの相続人が相手方となる場合、遺産分割調停の窓口となる家庭裁判所はおおむね次のとおりです。
【根拠】民法898条/家事事件手続法(平成23年法律第52号)第245条第1項
民法898条:相続人が数人あるときは、相続財産は、その共有に属する。/家事事件手続法245条1項:家事調停事件は、相手方の住所地を管轄する家庭裁判所又は当事者が合意で定める家庭裁判所の管轄に属する。
TX(つくばエクスプレス)沿線では、相続人が東京都内など県外にお住まいのケースも少なくありません。その場合は相手方の住所地の家庭裁判所が窓口になることがあります。管轄は事案により異なり、事件の種類によっては提出先が異なる場合もあるため、申立先に迷う場合は弁護士にご相談ください。
|
| Q | 見落とさないために、生前にできる対策はありますか? |
| A |
デジタル遺産は紙で残らないため、相続人が存在を把握できないまま失われるリスクがあります。「デジタル資産リストの作成」「暗号資産の国内取引所への集約」「エンディングノート・遺言への記載」などの生前対策が有効です。
有効な生前対策として、次のようなものが挙げられます。 ・デジタル資産リストを作る 利用している取引所・サービス名・おおよその残高・登録メールアドレス等をまとめておきます。パスワードそのものの書き置きは情報漏えいのリスクがあるため、安全な管理方法(パスワード管理ツール等)を検討してください。 ・暗号資産は国内の取引所に集約する 個人ウォレットの暗号資産は、相続人がアクセスできないと事実上失われます。可能な範囲で国内の暗号資産交換業者の口座で管理すると、相続手続がしやすくなります。 ・ポイントは生前に使い切るか移転する 相続できないポイントは、生前に使い切るか、移転・合算できるサービスを活用して家族に移しておきます。 ・エンディングノート・遺言書に記載する デジタル資産の存在と保管場所をエンディングノートに書いておく、または遺言書で特定の相続人に承継させる旨を記載しておくと、把握しやすくなります。遺言書は事案により適切な方式が異なりますので、作成をお考えの場合はご相談ください。 ・マイルの手続期限を家族に伝える 相続できるマイルには申請期限があります。家族が期限内に手続できるよう、事前に伝えておきます。
相続放棄の熟慮期間は3か月です(民法915条1項)。暗号資産の損失など、負債が付随するデジタル資産がある場合は、放棄の検討も含めて早めに専門家に相談してください。
|
| Q | 家族が亡くなり、デジタル遺産があると気づきました。何から対応すればよいですか? |
| A |
①故人のスマホ・PCの確認 → ②取引所・各社への相続開始の連絡と必要書類の確認 → ③マイル等の期限確認 → ④相続税申告への計上、の順で進めるのが基本です。
1. 故人のスマホ・PCを確認する インストールされているアプリ(取引所アプリ・電子マネーアプリ等)やメールの受信履歴から、デジタル資産の存在を把握します。 2. 各社に相続開始を連絡し、必要書類を確認する 国内の暗号資産交換業者・電子マネー事業者・航空会社に連絡します。一般に戸籍謄本・除籍謄本・相続人全員の印鑑証明書・遺産分割協議書等が必要です。 3. マイル等の期限を確認する ANAのように申請期限がある手続は、早めに公式サイトで確認します。 4. 相続税申告に計上する 暗号資産・電子マネーの残高は相続税の対象です。相続開始日の時価で評価し、申告期限(相続の開始を知った日の翌日から10か月)内に申告します(相続税法27条1項)。相続税の評価・申告は税理士に、遺産分割協議や相続放棄の検討は弁護士にご相談ください。
【根拠】相続税法(昭和25年法律第73号)第27条第1項
相続又は遺贈により財産を取得した者は、(基礎控除額を超え相続税額があるとき)その相続の開始があったことを知った日の翌日から十月以内に、申告書を納税地の所轄税務署長に提出しなければならない。
相続財産の全体像が見えない、暗号資産の取引所口座があるか分からない、といった場合は、弁護士会照会(弁護士法23条の2)など、弁護士が関与してできる調査手段があります。
|
守谷市・取手市・つくばみらい市などTX(つくばエクスプレス)沿線は、都内へ通勤する共働き・現役世代の多い地域です。こうした世帯では、スマホ証券・暗号資産取引所・QRコード決済の利用が生活に浸透し、資産の相当部分が紙の通帳ではなく「スマホの中の見えない資産」として存在しています。相続が起きたとき、遺族が故人のスマホロックを解除できず、暗号資産や電子マネーの存在に気づけないまま——という事態が起こりやすいのが、この地域の特徴です。さらに、相続人が東京都内など県外に住んでいるケースも多く、遺産分割調停が必要になった場合の管轄(相手方=他の相続人の住所地の家庭裁判所)が分かりにくいという事情もあります。故人が現役世代であればあるほど、暗号資産・キャッシュレス残高・マイルといったデジタル遺産を「見落とさない」ことが、相続手続の最初の一歩になります。
「故人が暗号資産を持っていたようだが手続がわからない」「デジタル資産を含む遺産分割で揉めている」「生前にデジタル資産の対策をしておきたい」——デジタル遺産の相続に関するご相談を承っています。まずは状況をお聞きした上で、見通しと進め方をご説明します。相続放棄の検討など期限のある手続もありますので、お早めにご相談ください。
📞 050-3623-1320
守谷市・取手市・つくばみらい市・常総市・坂東市など、TX(つくばエクスプレス)沿線・常磐線沿線の地域からのご相談に対応しています。お住まいの地域のページもご覧ください。
守谷市の法律相談 › 取手市の法律相談 › つくばみらい市の法律相談 › 常総市の法律相談 › 坂東市の法律相談 › 弁護士 吉津和輝 トップページ ›守谷市・取手市・常総市・つくばみらい市・龍ケ崎市・牛久市・つくば市・土浦市・野田市・我孫子市・北柏をはじめ、茨城県南部・千葉県北西部の方からの、デジタル遺産(暗号資産・電子マネー・マイル)の相続・遺産分割に関するご相談もお受けしています。弁護士 吉津和輝(茨城県弁護士会所属)までお気軽にどうぞ。
・民法(e-Gov法令検索)
第896条・第898条・第915条・第922条・第939条・第940条
・資金決済に関する法律(e-Gov法令検索)
第2条第14項(暗号資産の定義)・第3条第1項(前払式支払手段の定義)
・相続税法(e-Gov法令検索)
第27条第1項(申告期限)
・弁護士法(e-Gov法令検索)
第23条の2(弁護士会照会)
・家事事件手続法(e-Gov法令検索)
第245条第1項(家事調停の管轄)
・裁判所「茨城県内の管轄区域表」(管轄裁判所の確認)
・ANA・JALのマイル相続手続については、各社公式サイトの相続手続ページで最新の会員規約・申請期限をご確認ください。
・2026年7月10日:専門性・情報量を強化し全面改訂(暗号資産の秘密鍵・相続放棄後の保存義務・弁護士会照会・遺産分割調停の管轄などを追記、条文根拠を一次資料で再確認)。
・2026年4月5日:初版公開。
本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別事案への法的アドバイスではありません。具体的なご相談は弁護士にお問い合わせください。なお、本記事の内容は令和8年(2026年)7月時点の情報に基づいています。法令・各社規約・実務の取り扱いは今後変更される可能性があります。マイルの申請期限・分割の可否など各社規約に関する記載は、必ず各社公式サイトで最新情報をご確認ください。
公開日:2026年4月5日|最終更新日:2026年7月10日
