不貞慰謝料を請求された場合のポイントを弁護士が解説
不倫の慰謝料を請求されたら
— 支払義務・減額・示談書の注意点を弁護士が解説
| Q | 内容証明で慰謝料を請求されました。書かれている金額をそのまま払わないといけませんか? |
| A |
いいえ。請求書に書かれた金額は、あくまで相手方の主張(言い値)です。支払義務の有無も金額も、法律上の要件と裁判実務の水準に照らして判断されます。
不貞慰謝料の法的根拠は、民法の不法行為に基づく損害賠償です。故意又は過失によって他人の権利・法律上保護される利益を侵害した者が損害を賠償するという仕組み(民法709条)で、精神的な損害(慰謝料)もその対象になります(民法710条)。つまり、そもそも不法行為の要件を満たすのか、満たすとしていくらが相当なのかは、内容証明が届いた時点では何も確定していません。 まず確認していただきたいのは、①請求の根拠として書かれている事実(時期・回数・態様)がご自身の認識と一致しているか、②相手方がどのような証拠を持っていそうか、③回答期限はいつか、の3点です。 動揺して相手方に電話をかけたり、謝罪の文面を送ったりすると、その発言・文面が後に不利な証拠として使われることがあります。返答の前に、一度立ち止まって状況を整理することが大切です。
【根拠】民法(明治29年法律第89号)709条「故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。」/同710条(財産以外の損害の賠償)
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| Q | そもそも、どんな場合に慰謝料の支払義務が発生するのですか? |
| A |
配偶者のある者と肉体関係を持ち、その相手が既婚者だと知っていた(故意)か、注意すれば気づけたのに気づかなかった(過失)場合に、不法行為として慰謝料の支払義務が生じ得ます。
不貞行為とは、配偶者のある者が、配偶者以外の者と自由な意思で肉体関係を持つことをいいます。最高裁は、夫婦の一方の配偶者と肉体関係を持った第三者は、故意又は過失がある限り、他方の配偶者が被った精神的苦痛を慰謝する義務を負うと判断しています(最高裁昭和54年3月30日判決)。 逆にいえば、二人きりで食事をした、好意を伝えるメッセージを送り合った、という段階では、法的な意味での不貞行為には直ちに当たりません。ただし、肉体関係の立証がなくても、行為の態様によっては夫婦の婚姻共同生活の平和を害したとして慰謝料が認められた裁判例もあり、「肉体関係さえなければ一切責任がない」と言い切れるわけでもありません。請求書に書かれた事実がどの類型に当たるのかの見極めが出発点になります。 |
| Q | 相手が既婚者だと知りませんでした。それでも払わないといけませんか? |
| A |
既婚者であることを知らず、かつ知らなかったことに過失もない場合には、不法行為(民法709条)の故意・過失の要件を欠くため、慰謝料の支払義務は生じません。
典型的なのは、独身だと偽られて交際していたケースです。マッチングアプリで独身と称していた、平日も休日も自由に会えていた、独身であることを裏付けるような説明を繰り返し受けていた——こうした事情があれば、故意・過失が否定される方向に働きます。 他方で、結婚指輪をしていた、週末や長期休暇に連絡が取れなかった、自宅を一切教えてもらえなかったなど、既婚を疑わせる事情を見過ごしていた場合には、「知らなかったことに過失があった」と判断され、支払義務が認められることがあります。 また、「知らなかった」という内心の事情は、当時のメッセージのやり取りや交際の経過など、客観的な資料でどこまで裏付けられるかという立証の問題も伴います。手元に残っているやり取りは消さずに保存しておいてください。 |
| Q | 「夫婦関係はもう終わっている」と聞いていました。それでも責任を負うのですか? |
| A |
肉体関係を持った時点で夫婦の婚姻関係がすでに破綻していた場合には、特段の事情のない限り、不法行為責任を負いません(最高裁平成8年3月26日判決・民集50巻4号993頁)。ただし「破綻」の認定は簡単ではありません。
最高裁は、不貞行為が不法行為となるのは「婚姻共同生活の平和の維持という権利又は法的保護に値する利益」を侵害するからであり、婚姻関係がすでに破綻していた場合には原則としてそのような利益がない、と説明しています。 注意していただきたいのは、「配偶者とはうまくいっていない」「離婚することになっている」と交際相手から聞かされていただけでは、破綻とは認められないのが通常だということです。裁判実務では、長期間の別居や離婚協議・調停の先行など、客観的・外形的な事情に基づいて厳格に判断される傾向にあり、破綻していたことの立証責任は、それを主張する側(請求を受けた側)が負います。 もっとも、交際相手の説明を信じたという経緯は、仮に破綻が認められなくても、慰謝料額の減額事由として考慮されることがあります(Q6参照)。 |
| Q | 「あなたのせいで離婚することになった。離婚の慰謝料も払え」と言われました。 |
| A |
不貞相手に対する「離婚に伴う慰謝料」の請求は、夫婦を離婚させることを意図して婚姻関係に不当な干渉をしたなどの特段の事情がない限り、認められません(最高裁平成31年2月19日判決・民集73巻2号187頁)。
不貞行為そのものによる慰謝料と、離婚に至ったことによる慰謝料は、法的には別のものです。最高裁は、離婚するかどうかは本来その夫婦の間で決められるべき事柄であるとして、不貞相手が「離婚させたこと」の責任まで当然に負うわけではないと判断しました。 ただし、この判例は不貞行為自体の慰謝料請求まで否定したものではありません。また、不貞の結果として相手夫婦が別居・離婚に至った事案では、そうでない事案に比べて不貞慰謝料の金額が高く評価される傾向があります。「離婚したのだから」という理由で当然に上乗せ請求が通るわけではない、という整理で理解してください。 |
| Q | 支払義務があるとしても、金額が高すぎる気がします。減額されるのはどんな場合ですか? |
| A |
相手夫婦が離婚していない、不貞の期間が短い・回数が少ない、関係の主導権が相手配偶者側にあった、といった事情は、金額を下げる方向に考慮されます。
裁判実務で慰謝料額に影響する主な事情としては、次のようなものがあります。
・相手夫婦が離婚や別居に至っていない(婚姻関係への影響が限定的) 最後の点について補足すると、不貞慰謝料は、不貞をした配偶者と不貞相手の共同不法行為(民法719条1項)として、両者が連帯して賠償責任を負う関係にあります。請求者はどちらに全額を請求することもできますが、同じ損害について二重に受け取ることはできません。そのため、配偶者側からすでに支払いがされている場合には、その分が調整されます。実際にも、当初200万円〜500万円といった請求を受けたものの、こうした事情を整理して交渉した結果、大きく減額された金額で解決に至る事案はあります。
【根拠】民法719条1項前段「数人が共同の不法行為によって他人に損害を加えたときは、各自が連帯してその損害を賠償する責任を負う。」
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| Q | 示談書が送られてきました。サインする前に何を確認すべきですか?「求償権の放棄」という条項もあります。 |
| A |
一度サインした示談書は、後から「金額が高すぎた」と覆すことは原則としてできません。①金額、②清算条項、③求償権の扱い、④口外禁止条項、⑤分割払いの条件、の5点は必ず確認してください。
特に重要なのが次の2つです。 清算条項——「本件に関し、本示談書に定めるほか、相互に何らの債権債務がないことを確認する」という条項です。これが入っていないと、支払い後に追加請求を受けるリスクが残ります。 求償権の放棄条項——求償権とは、連帯して責任を負う者の一人が賠償金を支払った場合に、もう一方(ここでは不貞をした配偶者)に対して、その負担部分の支払いを求めることができる権利です(民法442条1項)。相手夫婦が離婚しない場合、あなたが求償権を行使すると、支払ったお金の一部が結局その夫婦の家計から戻ってくることになるため、請求者側は示談条件として求償権の放棄を求めてくることが多くあります。放棄すること自体は選択肢の一つですが、放棄するのであれば、その分慰謝料額を引き下げる方向で交渉する余地があります。内容を理解しないまま放棄条項入りの示談書にサインするのは避けてください。
⚠️ 提示された金額が相場より相当高額であっても、いったん支払いを約束してしまうと、そのことだけを理由に約束を無効にすることは基本的にできません。サインは、内容の確認が済んでからにしてください。
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| Q | 払えないので無視しようと思います。放っておけば時効になりませんか? |
| A |
無視はおすすめできません。訴訟を起こされ、欠席したまま放置すると相手方の主張どおりの判決が出て、預貯金や給与の差押え(強制執行)に至る可能性があります。
不法行為に基づく損害賠償請求権の消滅時効は、被害者が損害及び加害者を知った時から3年、不法行為の時から20年です(民法724条)。しかし、内容証明が届いているということは、相手方はすでにあなたの氏名・住所を把握しています。時効の完成を待たずに訴訟を提起されるのが通常の流れであり、「3年逃げ切れば大丈夫」という考えは現実的ではありません。 訴訟になった場合、訴額が140万円以下であれば簡易裁判所、140万円を超えれば地方裁判所が第一審となります(裁判所法33条1項1号参照)。裁判所から届いた訴状も無視して答弁書を出さず期日にも欠席すると、相手方の言い分をそのまま認めた判決が出るおそれがあります。 経済的に一括で支払えない場合でも、減額交渉や分割払いの調整といった対応の選択肢はあります。「払えないから無視する」のではなく、「払えない事情を踏まえてどう解決するか」を早めに検討することが、結果的にご自身を守ることにつながります。
【根拠】民法724条(不法行為による損害賠償請求権の消滅時効):損害及び加害者を知った時から3年間/不法行為の時から20年間
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不倫の慰謝料を請求された場合、支払義務の有無・金額の妥当性・示談書の内容は、事案ごとの事情によって大きく変わります。「突然請求が来て、どう対応すればいいか分からない」という段階でも構いません。状況をお聞きした上で、考えられる対応の選択肢をご説明します。当職では、離婚・男女問題について初回の法律相談を無料で承っています(面談またはZOOM)。
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・e-Gov法令検索(デジタル庁):民法(明治29年法律第89号)709条・710条・719条・724条・442条、裁判所法(昭和22年法律第59号)33条
・最高裁判所第三小法廷
平成8年3月26日判決(民集50巻4号993頁)(裁判所ウェブサイト)
・最高裁判所第三小法廷
平成31年2月19日判決(民集73巻2号187頁)(裁判所ウェブサイト)
2026年3月27日 公開
2026年7月4日 全面改稿(最高裁判例・民法条文に基づく解説、求償権・消滅時効・示談書のチェックポイントを追加)
本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別事案への法的アドバイスではありません。具体的なご相談は弁護士にお問い合わせください。なお、本記事の内容は令和8年(2026年)7月時点の情報に基づいています。法律・実務の取り扱いは今後変更される可能性があります。
公開日:2026年3月27日|最終更新日:2026年7月4日
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