吉津和輝(登録番号57714 茨城県弁護士会所属) 市川法律事務所に所属する弁護士です。
はじめに
離婚の際、子どもの親権者をどちらにするかは、父母の間で最も激しく争われる問題の一つです。
「子どもは母親が有利と聞いたが本当か」「父親でも親権を取れるのか」「裁判所はどういう基準で判断するのか」——この記事では、親権者・監護者の指定にあたっての判断基準のうち、継続性の原則や連れ去り問題について解説します。
1. 親権者・監護者の指定とは
離婚の際、父母のどちらが子どもの親権者になるかを決める必要があります。協議で決まらない場合は、家庭裁判所の調停・審判で決めることになります。
また、離婚前の別居中など、親権とは別に監護者(実際に子どもを育てる者)を先に決める場合もあります。
2. 判断の基本原則——子の利益(子の福祉)
親権者・監護者を決める際の最も重要な基準は、**子の利益(子の福祉)**です。
「父母のどちらが親権を取りたいか」ではなく、「子どもにとってどちらの親のもとで育つことが最も幸福か」という観点から総合的に判断されます。
3. 判断にあたって考慮される事情
裁判所が親権者・監護者を判断する際には、以下のような事情が考慮されます。
父母側の事情
- 生活歴:学歴・職歴・婚姻・離婚・転居等の家庭生活や社会生活における主な出来事
- 就労状況:職業・勤務先・職務内容・勤務時間・通勤方法・時間等
- 経済状況:収入・支出・負債の有無・内容等
- 心身の状況:病歴・健康状態等
- 家庭状況:住居の状況・同居家族の状況等
- 監護補助者の状況:監護補助の実績・内容・子との関係等(祖父母等のサポートがあるか)
- 監護方針:今後の養育方針・監護環境および態勢・親権者に指定されなかった親と子との交流についての意向等
子ども側の事情
- 生活歴:過去の監護・養育状況
- 心身の状況:発育・健康状態・性格等
- 現在の生活状況:家庭での状況・保育所・幼稚園・学校での状況・非監護親との交流の状況等
- 紛争に対する認識の程度:子どもが争いをどう認識しているか
4. 重要な判断基準
① 継続性の原則
現在、子どもを実際に監護している親が有利とされる傾向があります。子どもの生活環境の安定を重視するためです。
そのため、別居後に子どもを手元に置いている親が、最終的に親権を取得しやすい傾向があります。
② 兄弟不分離の原則
複数の子どもがいる場合、きょうだいを引き離さないことが子の利益に適うとされる傾向があります。
③ 子の意思の尊重
子どもの年齢・成熟度に応じて、子ども自身の意思も考慮されます。特に10歳以上になると子どもの意思は重視され、15歳以上になると子どもの意思が強く尊重される傾向があります。
④ 非監護親との交流への寛容性
親権者に指定されなかった親(非監護親)との面会交流に積極的・協力的かどうかも考慮されます。相手方との交流を妨害しようとする態度は、マイナスに評価されることがあります。
5. 母親が有利は本当か
実務上は、乳幼児期は特に母親が監護者・親権者に指定されるケースが多いです。これは「母性優先の原則」と呼ばれることがありますが、現在の裁判実務では母性優先というより継続性の原則が重視されており、実際に監護を担ってきた親が有利という判断がなされてきてはいます。
つまり、父親であっても実際に子どもの養育を主として担ってきた場合は、親権者・監護者に指定される可能性はあります。
6. 親権争いで重要なこと
別居前・別居時の対応が重要
別居が始まる前後の対応が、その後の親権争いに大きく影響します。子どもの監護を行っている側は、継続性の観点から有利になる一方、不当な連れ去りと判断されるリスクもあります。
記録を残す
日々の育児の記録(送迎・食事・学校行事への参加等)を残しておくことが重要です。
5. 裁判例(監護の継続性・連れ去りについて)
【裁判例1】東京高判 昭和56年5月26日(判時1009-67)——継続性の原則
事案の概要 元々妻は子供を残して家を飛び出したが、その後家に一度戻った。その後、妻は離婚調停を申し立て、実家に帰る際、長男は妻と同行し、二男は夫のもとに残ることを希望したため、別々に養育されていた事例です。
判旨の要旨 母親による監護が適当な場合も多いが、本件では夫も適切に二男を養育しており、現在の安定した監護状態を変更することは適当ではないとして、現状を尊重し、長男の親権者を母、二男の親権者を父と定めました。
ポイント 継続性の原則が重視された事例です。父親であっても長期間継続して適切に監護していれば、親権者・監護者に指定される可能性があることを示しています。
【裁判例2】東京高決 平成11年9月20日(家月52-2-163)——無断連れ出しの違法性
事案の概要 夫は離婚調停を申し立てたが、調停不成立となった。夫は散歩と称して当時6歳の長女を無断で連れ出し、裁判所の引渡しの審判及び審判前の保全処分にも従わなかった事例です。その後の調査では、長女は母に対して強い拒否反応を示しました。
判旨 無断連れ出しや裁判所の決定を無視している間に現在の生活が安定しているからといって、安易に現状を追認すべきではない旨判断しました。
ポイント 「連れ去り勝ち」を安易に認めない姿勢を示した裁判例です。不当な連れ去りによって形成された監護状態は、そのまま追認されるわけではないことを示しています。
まとめ
親権者・監護者の指定は、子の利益を最優先に、父母双方の事情と子どもの事情を総合的に考慮して判断されます。特に継続性の原則は重視されています。
裁判例が示すように、無断での連れ去りは親権争いにおいて不利に働く可能性があります。
親権・監護権についてお悩みの方は、お早めに弁護士にご相談ください。
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