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クリニックのカスハラ対応 — 応召義務との両立

労働問題・カスハラ・医療

クリニックのカスハラ対応
— 応召義務との両立・診療拒否の判断基準

診療拒否の判断基準・不退去への対応・2026年10月の義務化まで
弁護士 吉津和輝 / 茨城県弁護士会所属
弁護士 吉津和輝(よしつ かずき)
茨城県弁護士会所属|2018年12月弁護士登録
主な取扱分野:企業法務・労働問題(使用者側)・カスハラ対応・医療機関法務
クリニック院長の方へ。「待ち時間が長い」と怒鳴る患者、診療と関係ないクレームを長時間繰り返す患者、退去を求めても帰らない患者——クリニックのカスタマーハラスメント(いわゆるモンスターペイシェント)対応には、医師法の応召義務(応招義務)との兼ね合いという、他業種にはない難しさがあります。本記事では、守谷・取手・柏エリアのクリニックを念頭に、応召義務との関係を踏まえた診療拒否の判断基準、不退去・暴言への具体的対応、そして2026年10月に施行されるカスハラ対策義務化までを一つに整理します。
クリニックのカスハラ対応で弁護士に相談すべき3つのケース
1 診療と関係ないクレームを繰り返す患者の診療継続を断りたいが、応召義務が気になる 診療拒否が正当化されるかは緊急性・診療時間・信頼関係等の個別判断となるため、事案に即した見通しをご説明できます。
2 院内で大声・居座りをする患者への警告文書や診療をお断りする通知書を作りたい 表現を誤ると反撃を受けるリスクがあるため、記録の取り方から書面の文面まで整理するお手伝いができます。
3 2026年10月のカスハラ対策義務化に向けて、院内マニュアル・就業規則を整備したい TX沿線で開業が続く守谷・取手エリアでも、看護師・受付スタッフを雇用するクリニックは義務化の対象となるため、応召義務と両立する対応フローの設計をご一緒に検討できます。
上記のいずれかに当てはまる場合は、状況を整理するところから弁護士がお手伝いできます。まずはお気軽にお問い合わせください。
— 医療機関のカスハラ・患者対応のご相談を承っています —
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弁護士 吉津和輝(茨城県弁護士会所属)/〒302-0128 茨城県守谷市けやき台3-28-7
Q 応召義務があるので、どんな患者でも診療しなければならないのですか?
A
結論として、「正当な事由」があれば診療を拒むことは認められています。応召義務は医師個人が国に対して負う公法上の義務であり、患者に対する私法上の義務ではありません。

応召義務(応招義務)とは、診療に従事する医師が、正当な事由なく診察治療の求めを拒んではならないという、医師法第19条第1項に定められた義務のことです。

【根拠】医師法(昭和23年法律第201号)第19条第1項
「診療に従事する医師は、診察治療の求があつた場合には、正当な事由がなければ、これを拒んではならない。」

厚生労働省は、令和元年12月25日付「応招義務をはじめとした診察治療の求めに対する適切な対応の在り方等について」(医政発1225第4号医政局長通知。以下「令和元年通知」)で、応召義務の法的性質を整理しています。同通知によれば、応召義務は医師個人が国に対して負担する公法上の義務であり、患者に対する私法上の義務ではありません。勤務医が応召義務を負うのも、医療機関ではなく医師個人としてです。他方で、医療機関としても正当な理由なく診療を拒んではならないという運用が示されています。

応召義務違反に対する直接の刑事罰はありません。医師法上の行政処分の対象となり得るものの、応召義務違反のみを理由とする行政処分の実例は確認されていないとされています。

⚠️ 応召義務自体に刑事罰がないとしても、診療拒否によって患者の生命・身体に損害が生じた場合、別途、民法第709条の不法行為責任が問われる場面があります。過去の裁判例には、救急医療の場面で診療拒否の正当事由を認めず、医療機関側の損害賠償責任を認めたものが公表されています。「行政処分を避ける」だけでなく「民事賠償リスクを避ける」観点からの検討が必要です。
Q 診療拒否の「正当な事由」は、どのような要素で判断されますか?
A
結論として、令和元年通知は、①緊急対応の要否(病状の深刻度)を最も重要な考慮要素とし、これに加えて②診療時間・勤務時間内か否か、③患者と医療機関・医師の信頼関係を重要な考慮要素として挙げています。

令和元年通知が示す判断枠組みは次のとおりです。最も重要な考慮要素は、患者について緊急対応が必要であるか否か(病状の深刻度)です。緊急対応が必要な場合、診療しないことが正当化されるのは、医師の専門性・診察能力、その状況下での医療提供の可能性・設備状況、他の医療機関による医療提供の可能性(医療の代替可能性)などを総合的に勘案して、事実上診療が不可能といえる場合に限られます。

緊急対応が不要な場合には、同様の考慮要素をもとに、より緩やかに判断してよいとされています。そのうえで、診療を求められたのが診療時間内・勤務時間内か否か、および患者と医療機関・医師の信頼関係も、重要な考慮要素とされています。

1
緊急対応の要否
病状の深刻度。最も重要な考慮要素。緊急性があれば診療拒否は正当化されにくい
2
診療時間の内外
診療時間外・勤務時間外は正当事由が認められる方向に傾く(緊急時は別)
3
信頼関係
迷惑行為により診療の基礎となる信頼関係が喪失している場合。カスハラ対応の主戦場
— 図1:診療拒否の正当事由の考慮要素(出典:令和元年12月25日医政発1225第4号厚生労働省医政局長通知) —

また、同通知は個別事例の整理として、以前の受診の医療費に不払いがあっても、そのことのみでは診療しないことは正当化されない一方、支払能力があるにもかかわらずあえて支払わない場合等には、診療しないことが正当化されるとしています。

緊急性が低く、診療時間外で、信頼関係が破壊されている——といった事情が重なるほど「正当な事由」が肯定される方向に傾きます。逆に、緊急性が高い場合には、過去にトラブルがあった患者であっても応急対応が求められる点に注意が必要です。
Q 診療と関係ない暴言・長時間クレームを繰り返す患者に「もう来ないでください」と告げてもよいですか?
A
結論として、一律に可否を判断することはできませんが、記録に残る形で複数回の注意・改善要請を行ったうえで、なお迷惑行為が続き信頼関係の継続が困難な場合には、緊急性のない新たな診療を行わないことが正当化される方向の事情となります。

令和元年通知は、「診療内容そのものと関係ないクレーム等を繰り返し続ける等、診療の基礎となる信頼関係が喪失している場合」には、新たな診療を行わないことが正当化されるとしています。クリニックのカスハラ対応が問題となるのは、まさにこの「信頼関係」の観点です。

実務で信頼関係の破壊が問題となりやすい場面としては、診療内容と関係のないクレームを長時間繰り返す、院長・スタッフへの暴言・威圧行為が継続している、他の患者への迷惑行為(大声・威嚇等)が繰り返されている、「土下座しろ」「診断書を書き直せ」といった不当要求が続く、医師の指示に一貫して従わない、といったものがあります。守谷・取手・柏のような地域密着型のクリニックでは、医師個人を名指しした口コミサイト・SNSでの誹謗中傷が経営に直結する場面もあります。口コミへの対応はクリニックのGoogle口コミ対応の記事で詳しく解説しています。

ポイントは「いきなり追い出す」のではなく、記録に残る形で段階的に注意・改善要請を行うことです。対応メモ、注意書面の控え、職員間の引継ぎノート、院内での業務上必要な範囲の録音などが、後日の紛争で対応の正当性を裏付ける証拠となります。
⚠️ 上記に該当する場合でも、緊急対応が必要な場合は別です。急性症状で生命・身体に関わる状況での診療拒否は、応召義務違反や民事責任のリスクが高くなります。信頼関係の破壊を理由とする対応は、「新たな診療(継続診療)を行わない」という場面で用いられるのが基本で、緊急性のある症状には応急対応や他院への案内を検討する必要があります。
Q 院内で大声を出し、退去を求めても帰らない患者にはどう対応しますか?
A
結論として、退去を求める明確な告知を行い、応じない場合には110番通報を検討する段階的アプローチが基本です。院内は医療機関が管理する建造物であり、退去要求に応じない行為は不退去罪の対象となる場面があります。

クリニックの待合室・診察室は、医療機関の管理者(院長等)が管理する空間です。診療終了後に退去を求めたにもかかわらず、正当な理由なく居座り続ける行為は、刑法の不退去罪の要件に該当する場合があります。

【根拠】刑法(明治40年法律第45号)第130条
「正当な理由がないのに、人の住居若しくは人の看守する邸宅、建造物若しくは艦船に侵入し、又は要求を受けたにもかかわらずこれらの場所から退去しなかった者は、3年以下の拘禁刑又は10万円以下の罰金に処する。」

「退去しなかった者」という要件は、退去を求められたにもかかわらず退去しない場合を指します。つまり、明確な退去要求が先行していることが前提です。実務では、①診療終了の明確な告知、②退去を求める発言(複数回、可能ならスタッフの面前で)、③「退去されない場合は警察を呼ぶ」旨の予告、④対応記録(時刻・発言内容・対応者名)の作成、⑤それでも応じない場合の110番通報、という段階を踏むことが推奨されます。

「医療機関だから警察を呼んではいけない」ということはありません。通報の際は「患者が暴れている」といった評価的な表現よりも、「退去を求めたが応じない、不退去の疑いがある」と事実ベースで伝える方が、警察側も対応方針を決めやすくなります。事前に「どの段階で警察に連絡するか」のルールを院内で決めておくと、現場が判断に迷わずに済みます。

1
記録する
日時・内容・対応者・周囲の状況を書面化
2
警告する
改善されない場合の対応を明示して院内で注意
3
書面で通知
理由・今後の方針・代替医療機関を明記
4
警察対応
不退去・暴力行為時は110番通報・被害届等
— 図2:院内での段階的対応の流れ(具体的対応は事案により異なります) —
⚠️ 居座る患者にスタッフが物理的に触れる(腕を引く等)行為は、退去を促す意図であっても、患者側から暴行罪(刑法第208条)や傷害罪(同第204条)を主張されるリスクがあります。物理的接触を伴う対応は、原則として警察に委ねる方が安全です。
Q 診療をお断りする通知は、書面で行うべきですか?
A
結論として、書面で、診療継続が困難な理由・今後の対応方針・代替医療機関を具体的に示すのが一般的です。口頭のみの告知は、後日の証拠の問題を抱えます。

口頭で「もう来ないでください」と伝えるだけでは、後日、患者側から「言われていない」「侮辱された」等と主張された場合、事実関係をめぐって争いになる可能性があります。書面化すれば、①診療をお断りした事実と日付が記録に残る、②理由を客観的に整理できる、③代替医療機関の案内により応召義務の趣旨(患者保護)に配慮した対応を記録できる、④感情的なやり取りを避けられる、⑤後日の行政照会・訴訟における重要な証拠となる、という利点があります。

書面に盛り込む要素は、受診履歴・経緯(事実のみ淡々と)、問題行動の具体的内容(日時・内容・頻度を客観的に)、診療継続が困難な理由(信頼関係の破壊という観点から)、今後の対応(診療を行わない旨を明確に)、代替医療機関の案内(可能な範囲で)が基本です。

⚠️ 書面の表現は、客観的事実と対応方針の告知にとどめる必要があります。患者の人格を否定する表現や侮辱的・攻撃的な表現が含まれると、名誉毀損・不法行為の反撃を受けるリスクがあります。文面作成は弁護士の関与のもとで行うのが安全です。
Q スタッフへの暴言・威圧行為が続いています。院長として何をすべきですか?
A
結論として、院内ルールの整備・記録の作成・必要な場合の警察対応という段階的対応が基本です。使用者にはスタッフに対する安全配慮義務があり、対応ルールの事前整備が重要性を増しています。

看護師・受付スタッフは、患者との最前線の接点に立つ立場です。「待ち時間が長い」と受付に怒鳴る、電話で長時間クレームを続けるといった行為によるストレスは、スタッフの心身に大きな負担を与えます。使用者である医療法人・院長は、労働契約法第5条により、従業員に対する安全配慮義務を負っています。

【根拠】労働契約法(平成19年法律第128号)第5条
「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。」

スタッフが患者から繰り返し暴言・威圧を受けていることを知りながら何の対応も取らない場合、安全配慮義務違反等を理由とする責任が問題となる場面があります。院内で整備しておくことが望ましい事項としては、暴言・威圧行為の定義を明文化したマニュアル、受付・待合室での対応方針(複数スタッフ対応・対応者の交代等)、記録様式、警告・診療をお断りする判断基準と手順、警察への通報基準、スタッフのメンタルケア体制が挙げられます。こうした体制整備は、次のQ7で説明するカスハラ対策義務化の内容とも重なります。

顧問弁護士の活用場面を含め、クリニックの体制づくりについては顧問契約のご紹介ページもご参照ください。

Q 2026年10月のカスハラ対策義務化は、クリニックにも適用されますか?
A
結論として、適用されます。改正労働施策総合推進法によるカスハラ対策の義務化は、労働者を1人でも雇用するすべての事業主が対象で、2026年(令和8年)10月1日に施行されます。看護師・受付等を雇用する個人開業のクリニックも対象です。

カスタマーハラスメント対策の義務化を定めたのは、令和7年6月11日に公布された労働施策総合推進法等の一部を改正する法律(令和7年法律第63号)です。カスハラ対策と求職者等に対するセクシュアルハラスメント対策の義務化部分は、令和8年10月1日から施行されます。企業規模による適用の猶予はありません。

改正法におけるカスタマーハラスメントは、①顧客・施設の利用者その他事業に関係を有する者の言動であって、②社会通念上許容される範囲を超えたものにより、③労働者の就業環境が害されること、という3つの要素で整理されています。医療機関にとっての「顧客等」には、患者本人だけでなくそのご家族等も含まれ得ます。

事業主が講ずべき措置の具体的内容は、令和8年2月26日に公布された指針(事業主が職場における顧客等の言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針。令和8年厚生労働省告示第51号)で示されています。医療機関では、カスハラを許容しない方針の明確化・周知、相談窓口の整備、発生時の対応フローの整備などを、就業規則や院内マニュアルに反映する作業が必要になります。その際、応召義務との両立——つまり「カスハラには毅然と対応するが、緊急性のある症状への対応は確保する」という整理——を対応フローに織り込んでおくことが、医療機関ならではのポイントです。

施行日は2026年10月1日です。就業規則の改定や現場への周知には準備期間が必要となるため、体制整備は施行前から計画的に進めることが望まれます。
Q 守谷・取手・柏エリアのクリニックで、特に意識すべきことは何ですか?
A
結論として、代替医療機関の紹介体制を事前に院内で整理しておくことが、TX沿線では特に重要です。診療科によって代替先の選択肢が限られる地域事情があるためです。

診療をお断りする際は、応召義務の趣旨(患者保護)に配慮して、代替医療機関を案内することが実務上望まれます。ただし、TX(つくばエクスプレス)沿線の守谷・つくばみらい・取手地域では、心療内科・精神科など診療科によっては代替先の選択肢が限られ、新規受診までの待機期間が長くなる傾向が見られます。「代替先を案内できないから対応を決めきれない」という事態を避けるため、近隣および広域の代替医療機関リスト、電車でアクセスできる都内医療機関を含む広域リスト、紹介状の定型フォーマット、救急対応が必要な場面の判断基準を、平時から院内で整えておくことが現実的です。

また、診療をめぐるトラブルが民事訴訟に発展する場合、原告の住所地や不法行為地が管轄の候補となります(民事訴訟法第4条第1項・第5条第9号)。茨城県南部では、守谷市・取手市・牛久市・龍ケ崎市は水戸地方裁判所龍ケ崎支部、つくばみらい市・つくば市・土浦市は水戸地方裁判所土浦支部、常総市・坂東市は水戸地方裁判所下妻支部が管轄区域に含まれており、紛争化した場合の時間軸を見積もる際に意識しておく必要があります。

📍 TX沿線のクリニック事情と患者対応

守谷市・取手市・つくばみらい市は、つくばエクスプレス(TX)開業以降、ベッドタウンとして人口が増加し、駅前やモール内を中心に新規クリニックの開業が続いてきた地域です。柏・北柏方面から通院する患者も少なくありません。一方で、心療内科・精神科などの特定診療科は、都心部と比較すると選択肢が限られる傾向があり、この地域特性は「信頼関係が破壊された患者への対応を検討する際に、代替医療機関の紹介がスムーズに進まない」という現場の悩みにつながります。地域密着型のクリニックほど口コミ・SNSの影響も大きく、カスハラ対応と評判管理を切り離せないのがこのエリアの実情です。

患者が帰らない、クレームが止まらない、スタッフへの暴言が続く。こうした場面の対応は、応召義務・刑法・民事責任・労働法が複合的に絡む領域で、院長お一人の判断では負担が大きい場面が多くあります。2026年10月のカスハラ対策義務化も見据え、記録・警告・書面通知・警察対応の各段階を平時から設計しておくことが、院長とスタッフの双方を守ることにつながります。
CONTACT

守谷・取手・つくばみらい・常総・柏エリアのクリニック院長・医療法人の方で、カスハラ対応・応召義務との両立・院内体制の整備についてご相談を希望される方は、まず状況をお聞きした上で、想定される対応をご説明いたします。

弁護士 吉津和輝
茨城県弁護士会所属/〒302-0128 茨城県守谷市けやき台3-28-7
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更新履歴

2026年7月15日:応召義務・診療拒否に関する記事の内容を本記事に統合し、全面改訂(カスハラ対策義務化の指針公布・施行日確定を反映)
【元記事の公開日】:新規公開

本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別事案への法的アドバイスではありません。具体的なご相談は弁護士にお問い合わせください。なお、本記事の内容は令和8年(2026年)7月時点の情報に基づいています。法律・実務の取り扱いは今後変更される可能性があります。
公開日:【元記事の公開日】|最終更新日:2026年7月15日