過失運転致傷・ひき逃げで弁護士に依頼する意味
— 取調べ・示談・不起訴・公判弁護の実務
主な取扱分野:刑事弁護・交通事故・家族法・企業法務
| Q | 保険会社に任せていれば大丈夫では? 弁護士に依頼すると何が変わりますか? |
| A |
任意保険会社が扱うのは被害者への損害賠償(民事)の交渉に限られ、刑事責任を軽くするための活動は含まれません。取調べへの対応、刑事上の示談、検察官への意見書提出、公判での弁護活動は、保険会社の業務範囲外です。
交通事故で加害者が負う責任は、大きく次の3つに分かれます。①民事責任(被害者への損害賠償)、②刑事責任(罰金・拘禁刑などの刑事処分)、③行政責任(免許の停止・取消し)です。このうち任意保険会社が対応するのは①の民事責任のみで、②の刑事責任・③の行政責任は、それぞれ別の手続で進みます。
図:加害者が負う3つの責任と、それぞれの対応者
刑事責任について、弁護士が行う主な活動は次のとおりです。出頭前の事実関係の整理と供述方針の打合せ、被害者との刑事上の示談交渉(保険会社とは別枠)、検察官への意見書・嘆願書の提出、不起訴や略式起訴を目指す活動、公判になった場合の情状立証・弁論、そして執行猶予(刑法第25条)を目指す活動です。 保険会社の担当者は、加害者本人の刑事処分を軽くする立場にはありません。刑事手続を見据えた対応が必要な場面では、民事の賠償交渉とは別に、刑事弁護を担う弁護士の関与を検討する余地があります。 |
| Q | 過失運転致傷は、どのくらいの刑になりますか? 前科はつきますか? |
| A |
過失運転致傷罪の法定刑は、7年以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金です(自動車運転死傷行為処罰法第5条)。罰金でも前科は残りますが、不起訴となれば前科はつきません。
人身事故を起こしたときに加害者に問われる中心的な犯罪が、過失運転致傷罪です。「自動車の運転上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた」場合に成立し、法定刑は7年以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金と定められています。ただし、傷害が軽いときは、情状により刑を免除することができるとされています。
【根拠】自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律(平成25年法律第86号)第5条:「自動車の運転上必要な注意を怠り、よつて人を死傷させた者は、七年以下の拘禁刑又は百万円以下の罰金に処する。ただし、その傷害が軽いときは、情状により、その刑を免除することができる。」
「拘禁刑」は、従来の懲役・禁錮を一本化した刑で、2025年(令和7年)6月から施行されています。旧来の「懲役◯年」という表現に代わるものと理解して差し支えありません。 前科の有無は、最終的な処分によって決まります。罰金(略式起訴を含む)を科されれば前科として記録に残りますが、不起訴(起訴猶予など)で終われば前科はつきません。「事故を起こした=必ず前科がつく」わけではなく、示談の成否や事故の内容によって結論は分かれます。
表:主な運転致傷罪の法定刑(自動車運転死傷行為処罰法)
飲酒・薬物の影響下での運転、著しい高速度、妨害目的の運転、赤信号の殊更な無視などがあった場合は、より重い「危険運転致死傷罪」に当たり得ます。同じ人身事故でも、事故に至る態様によって適用される罪名と法定刑が大きく変わる点に注意が必要です。
どの罪名で立件され得るのか、罰金・不起訴・公判のいずれに向かう可能性があるのかは、事故の態様・被害の程度・示談の状況などによって異なります。個別の事案ごとの見通しについては、弁護士にご相談ください。 |
| Q | 現場から立ち去ってしまいました(ひき逃げ)。過失運転致傷とは別に罪になりますか? |
| A |
はい。ひき逃げは、事故そのものの過失運転致傷罪とは別に、道路交通法上の救護義務違反・報告義務違反という独立した犯罪を構成し、これらは併せて処罰の対象となります。「立ち去り」があると、量刑は重い方向に働きやすくなります。
道路交通法は、交通事故があったときは運転者等が「直ちに車両等の運転を停止して、負傷者を救護し、道路における危険を防止する等必要な措置を講じ」なければならないと定めています(救護義務。第72条第1項前段)。あわせて、警察官への報告義務も課しています(同項後段)。事故現場から立ち去る行為は、これらの義務に違反する行為です。
【根拠】道路交通法(昭和35年法律第105号)第72条第1項前段(抜粋):「交通事故があつたときは、当該交通事故に係る車両等の運転者その他の乗務員……は、直ちに車両等の運転を停止して、負傷者を救護し、道路における危険を防止する等必要な措置を講じなければならない。」
重要なのは、ひき逃げが「一つの罪」ではなく、複数の罪の組合せとして評価されるという点です。人身事故の場合、①事故そのものの過失運転致傷罪に加えて、②救護義務違反、③報告義務違反が、それぞれ別個の犯罪として問題になります。
図:人身事故で立ち去った場合に問題となり得る3つの罪
とくに②の救護義務違反は、その死傷が運転者自身の運転に起因するとき(=自分の運転で人にけがをさせて立ち去ったとき)は、10年以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金という重い刑が定められています。これらは併合罪として一括して審理され、処断刑の枠は個々の罪より重くなります。
【根拠】道路交通法第117条第2項(抜粋):救護義務違反について、「人の死傷が当該運転者の運転に起因するものであるときは、十年以下の拘禁刑又は百万円以下の罰金に処する。」/第119条第1項第17号:報告義務違反は「三月以下の拘禁刑又は五万円以下の罰金」。
つまり、事故そのものよりも「立ち去ったこと」が刑を重くする大きな要因になります。接触した感覚があったのに立ち去ってしまった、被害の有無が分からず現場を離れてしまった——そうした段階の方は、早い時期に対応方針を整理しておく実益があります。事故直後の行動に不安がある方は、警察から連絡が来る前の対応を扱った関連記事もご参照ください。 |
| Q | 取調べの前に弁護士に相談すると、どんな準備ができますか? |
| A |
事故当時の事実関係を時系列で整理し、自分に有利・不利な事情を把握したうえで、黙秘権をどこまで行使するか、供述調書に署名してよいかについて方針を立てられます。取調べ室への立会いは原則できませんが、取調べの前後のアドバイスは可能です。
取調べで作成される供述調書は、その後の捜査・公判を通じて中心的な証拠として扱われます。事故直後の混乱した記憶のまま、あるいは質問に押されるままに話した内容が調書に残ると、自分の認識と異なる調書ができあがり、後の手続で不利な立場に立たされる場面があります。だからこそ、取調べの前に方針を整理しておくことに意味があります。
図:取調べ前に弁護士と整理する4つの内容
取調べ室には、原則として弁護士は立ち会えません。そのため、取調べが終わった後に弁護士と内容を確認し、次回の取調べに向けて方針を調整する、という進め方が一般的です。取調べが始まる前でも後でも、相談する意味はあります。 |
| Q | 被害者との示談は、自分でやるのと弁護士に頼むのとで何が違いますか? |
| A |
加害者本人が直接連絡すると、かえって処罰感情を悪化させたり、発言が不利な証拠として扱われたりする場面があります。弁護士が代理人として、任意保険会社の賠償とは別に、宥恕(ゆうじょ)文言を含む刑事上の示談書を整える活動が可能です。
交通事故の「示談」には、性質の異なる2つがあります。任意保険会社が行う民事上の示談(損害賠償額の確定)と、刑事処分に影響する刑事上の示談(被害感情の緩和・処罰を望まない意思の確認)です。保険会社が進めるのは前者であり、後者は加害者本人または弁護士が対応することになります。
表:民事上の示談と刑事上の示談の違い
加害者本人が直接被害者に連絡を取ろうとすると、次のようなリスクがあります。被害者が加害者からの連絡を望まず、かえって処罰感情が悪化する場面があります。謝罪のつもりの発言が、後の手続で加害者の認識を示す証拠として扱われる場面もあります。過大な要求を受けても感情的に応じてしまい、後で紛争になる場面も考えられます。 弁護士が代理人として間に入ることで、被害者の感情に配慮した手順で謝罪・賠償の申入れを行い、やり取りを整理された書面で残し、示談金額について客観的な基準に照らして交渉する、といった対応が可能になります。
保険会社の対応と弁護士の対応は必ずしも排他的ではありませんが、治療中に刑事上の示談を進める場合など、保険会社からの賠償とは別に、加害者が示談金を用意する必要が生じるケースもあります。費用の見通しを含め、着手前にご確認いただけます。
なお、示談が成立していれば常に不起訴になるわけではありません。被害の重大性や事故の悪質性などによって結論は分かれます。この点はQ7で改めて整理します。 |
| Q | いつの段階で弁護士に依頼するのがよいですか? |
| A |
一般的には、早い段階であるほど取り得る選択肢は多くなります。供述調書の作成前に方針を整理できる段階が最も効果的ですが、書類送検の後や起訴状を受け取った後の依頼でも対応は可能です。段階ごとに、弁護活動の中心が変わります。
刑事手続は、警察からの連絡待ちの段階から公判まで、いくつかの段階を経て進みます。それぞれの段階で、弁護士が力を入れる活動は異なります。
図:弁護士に依頼する段階と、弁護活動の中心
在宅事件として書類送検された後、検察官から連絡がないまま数か月が過ぎ、ある日突然、裁判所から起訴状と公判期日呼出状が届く、というケースは実務上見られます。この段階からでも弁護人を選任できますが、第1回公判までの時間が限られるため、早期の対応が必要です。反省を法廷でどう伝えるか、どのような準備が効果的かについては、個別のアドバイスが必要になります。 |
| Q | 不起訴・略式起訴・正式起訴で、弁護活動と前科はどう変わりますか? |
| A |
不起訴なら前科はつかず、示談成立と検察官への意見書提出が活動の中心になります。略式起訴は罰金(前科あり)、正式起訴の後の公判では、情状立証や執行猶予の獲得を目指す活動が中心となります。
日本の刑事手続では、公訴(起訴)は検察官のみが行います(起訴独占主義。刑事訴訟法第247条)。そして検察官は、犯人の性格・年齢・境遇、犯罪の軽重・情状、犯罪後の情況などを考慮し、訴追を必要としないと判断すれば起訴しないことができます(起訴便宜主義。同第248条)。
【根拠】刑事訴訟法(昭和23年法律第131号)第248条:「犯人の性格、年齢及び境遇、犯罪の軽重及び情状並びに犯罪後の情況により訴追を必要としないときは、公訴を提起しないことができる。」
起訴する場合には、公開の法廷で審理する公判請求(正式起訴)と、書面審理で罰金を科す略式命令請求(略式起訴)の2つの方法があります。略式命令は、簡易裁判所が公判前に100万円以下の罰金又は科料を科す手続です(同第461条)。
表:検察官の処分と前科の有無
弁護活動の中心も、目指す処分によって変わります。不起訴を目指す段階では、被害者との示談成立、宥恕文言付き示談書の取得、検察官への意見書提出などが中心になります。罰金(略式起訴)にとどめる段階では、略式相当であることを検察官に理解してもらう活動が中心です。正式公判では、情状証人(家族・勤務先など)の準備、被告人質問のリハーサル、弁論要旨の作成、そして執行猶予の獲得を目指す活動が中心となります。 執行猶予は、3年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金の言渡しを受けた場合などに、情状により、1年以上5年以下の期間その刑の全部の執行を猶予する制度です(刑法第25条)。猶予期間を無事に経過すれば、刑の言渡しは効力を失います。
【根拠】刑法(明治40年法律第45号)第25条第1項(抜粋):一定の要件を満たす者が「三年以下の拘禁刑又は五十万円以下の罰金の言渡しを受けたときは、情状により、裁判が確定した日から一年以上五年以下の期間、その刑の全部の執行を猶予することができる。」
⚠️ 示談が成立していれば必ず不起訴になる、というものではありません。被害の重大性(死亡・重傷)、飲酒運転や無免許運転の有無、前科・前歴、事故態様の悪質性などを総合して、検察官が判断します。
現時点でどの処分に向かう可能性があるか、その見通しは事案ごとに異なります。個別の状況をお聞きしたうえでご説明します。 |
| Q | 守谷市・つくばみらい市で事故を起こすと、どこの警察・裁判所で手続が進みますか? |
| A |
刑事事件は、原則として事故が起きた場所(犯罪地)を管轄する警察署・裁判所で進みます。守谷市の事故は取手警察署が捜査し、公判は水戸地方裁判所龍ケ崎支部、略式罰金は取手簡易裁判所です。つくばみらい市の事故は常総警察署が捜査し、公判は水戸地方裁判所土浦支部、略式罰金は土浦簡易裁判所です。
刑事事件の土地管轄は、犯罪地、または被告人の住所・居所・現在地によります(刑事訴訟法第2条)。人身事故では通常、事故現場を管轄する警察署が捜査を担当し、その地域を管轄する裁判所で公判が開かれます。守谷市とつくばみらい市では、管轄する警察署・裁判所が次のように異なります。
表:守谷市・つくばみらい市の管轄警察署と裁判所
守谷市には独立した警察署がなく、隣接する取手市の取手警察署が守谷市を管轄しています。また、守谷市の刑事事件は、隣接する龍ケ崎市の裁判所ではなく、地方裁判所としては龍ケ崎支部、簡易裁判所としては取手簡易裁判所が担当します。地域によって窓口が分かれるため、出頭・出廷の準備の際は、実際にどの警察署・裁判所が対応するのかを確認しておくことが大切です。
上の表は「捜査を担当する警察署」です。逮捕された後に身柄を置かれる勾留・留置先の警察署は、これと異なることがあります。たとえば女性の被疑者は、女性用の留置施設がある警察署(当地域では牛久警察署など)に留置されることが多く、共犯者がいる事件では、口裏合わせ(罪証隠滅)を防ぐため、共犯者どうしを別々の警察署に留置することもあります。ご家族が接見(面会)や差入れに向かう際は、実際にどの警察署に身柄が置かれているかを確認する必要があります。
運転者が未成年の場合は、少年事件として家庭裁判所で扱われます。この場合、守谷市・つくばみらい市いずれの事件も、水戸家庭裁判所土浦支部で審理されます。なお、不起訴に納得できない被害者側が審査を申し立てる検察審査会も、いずれの地域も土浦に置かれています。 つくばエクスプレス(TX)沿線の守谷・つくばみらいエリアは、都内へ通勤する方が多く、事故後の刑事手続が仕事に与える影響を気にされる方が少なくありません。出頭日を勤務調整しやすい日に設定したい、水戸地方裁判所の各支部への出廷には移動時間を含めて半日〜1日単位の調整が必要になる——こうした実務的な事情も、地域の通勤事情を踏まえて一緒に検討できます。管轄裁判所は裁判所ウェブサイトの茨城県内の管轄区域表でも確認できます。 |
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人身事故の加害者となり、刑事手続に不安をお持ちの方へ。過失運転致傷やひき逃げ(救護義務違反等)は、保険会社が扱う損害賠償とは別の問題です。どの段階でご相談いただいても、現時点で取り得る選択肢と今後の見通しをご説明します。初回相談は面談またはZOOMで承ります(電話での初回相談は行っておりません)。
📞 050-3623-1320
守谷市・取手市・つくばみらい市・常総市・坂東市など、TX(つくばエクスプレス)沿線・常磐線沿線の地域からのご相談に対応しています。お住まいの地域のページもご覧ください。
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・自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律(e-Gov法令検索)
・道路交通法(e-Gov法令検索)
・刑法(e-Gov法令検索)
・刑事訴訟法(e-Gov法令検索)
・茨城県内の管轄区域表(裁判所)
2026年7月7日:内容を全面的に見直し。過失運転致傷・救護義務違反・報告義務違反の法定刑、管轄警察署・裁判所(守谷市・つくばみらい市)等を加筆・修正しました。
2026年4月25日:記事公開
本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別事案への法的アドバイスではありません。具体的なご相談は弁護士にお問い合わせください。なお、本記事の内容は令和8年(2026年)7月時点の情報に基づいています。法律・実務の取り扱いは今後変更される可能性があります。
公開日:2026年4月25日|最終更新日:2026年7月7日
