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クリニックのいわゆるお局問題、どう対応? ― 注意しにくい古参スタッフと他スタッフへの安全配慮義務

顧問弁護士・クリニック

クリニックのいわゆるお局問題、どう対応? ― 注意しにくい古参スタッフと他スタッフへの安全配慮義務

弁護士 吉津和輝(茨城県弁護士会所属)
弁護士 吉津和輝(よしつ かずき)
茨城県弁護士会所属|2018年12月弁護士登録 市川法律事務所所属
取扱分野:使用者側労働問題・医療機関法務・企業法務・顧問弁護士業務

クリニック院長の方へ。在籍が長く経験豊富で、現場はあの従業員がいるから回っている。でも、若手看護師や医療事務があの従業員と合わずに次々辞めていく——いわゆるお局の問題は、クリニック院長が抱える独特のジレンマを生みます。辞められたら診療が困難になるから注意できない。しかし本人には自覚がなく、放っておくと連鎖退職が止まらない。そして放置していると、院長自身が安全配慮義務違反・パワハラ防止措置義務違反のリスクを負う——。本記事では、守谷・取手・つくばみらい周辺のクリニックを念頭に、この三すくみのジレンマを法的に整理し、段階的・現実的な対応の道筋を示します。

目次
  1. なぜクリニックで「注意しにくい構造」が生まれるのか
  2. お局本人に自覚がない場合の向き合い方
  3. 放置すると院長が負う3つの法的リスク
  4. 「辞められたら困る」ジレンマの整理
  5. 現実的な段階対応の進め方
  6. 守谷・取手・つくばみらいで意識すべきこと
Qなぜクリニックではいわゆる古参スタッフに注意しにくい構造が生まれるのでしょうか。
A
結論として、①人材の代替困難性、②業務の属人化、③院長との密接な関係性、という3要素が重なることで、経験豊富で長く勤めている古参スタッフに対して院長が指導しにくい構造が生まれます。これはクリニックという小規模医療機関特有の現象です。

院長が古参スタッフに対して「注意できない」と感じる理由は、感情的な問題だけではなく、構造的な要因に基づいていることが多いです。

注意しにくい構造を生む3つの要因
① 人材の代替困難性
・クリニック規模では看護師1名の採用に検討を要する
・地域の看護師採用市場が狭い(茨城県南等の地方都市)
・同等の経験者を新規採用する難易度が高い

② 業務の属人化
・院内オペレーション全体を把握している唯一のスタッフ・情報の独占化
・患者の情報・取引先との連絡網を一手に掌握
・マニュアル化されていない暗黙知が多い

③ 院長との関係性
・開業時から勤務する功労者としての立場
・前院長(親族)の代から継続勤務している場合
・院長の配偶者・親族が事務長を務めている場合
・医師と看護師の世代差(院長より年長)

「院長の家族・親族がクリニックのスタッフとして働いている」ケースでは、労働契約関係と家族関係が重なるため、他のスタッフに対するのと同じ基準で注意することが心理的に困難になります。開業時から支えてきた配偶者や、前院長時代から勤続している親族看護師長などが典型例です。

構造的に注意しにくい=適法に放置してよい、ではない
院長の心理的・経営的な「注意しにくさ」は十分に理解できるものですが、それは法的には放置を正当化する理由になりません。他スタッフの就業環境を守る義務は、使用者としての立場から発生する法的義務であり、個別の人間関係によって免除されるものではありません。
Qお局さん本人に自覚がない場合、どう向き合えばよいですか。
A
結論として、抽象的な注意では行動変容が起きにくいです。具体的事実を指摘する段階的アプローチが現実的です。指摘の事実を残すことも重要です。「あなたが問題」という人格的指摘ではなく、「○月○日のことにより、こういう結果になってしまっているのですが、どうすればよいと思いますか。」という事実ベースの指摘が機能しやすくなります。

いわゆるお局と言われる方の多くは、自分の言動を「新人のためを思っての指導」「クリニックのために行っている」と認識しています。長年の経験に裏打ちされた自負があり、それを真っ向から否定する注意は反発を招きます。

自覚のない本人への向き合い方のコツ
・「あなたが悪い」という人格的な指摘は避ける
・「新人看護師の定着が課題」などという経営的な軸で話を切り出す
・具体的な事実(日時・発言内容)を記録ベースで示す
・「クリニック全体の体制変更」という枠組みで改善を求める
・一度で変化を期待せず、複数回の面談を前提とする

抽象的な「他のスタッフが困っている」という指摘ではまず反発を招きます。本人の頭の中では「適応できないのはあの新人で、私は悪くない」と変換されるためです。経験のある古参スタッフの実務能力はほぼ間違いなく高いです。一方、実務能力が高い分、新人の能力を的確に見抜いています。教えている中で、新人にも差が出ていくため、どうしても、合う新人と合わない新人が生じることがあります。

 やってはいけない向き合い方
・他スタッフの面前での注意・叱責
・感情的な言葉・人格を否定する表現
・過去の言動を蒸し返す長時間の説教
・本人の経験・貢献を否定する発言
・一方的な配置換え・シフト変更(説明なく)

もっとも、思い切って、院長がこれらを行うと、今度は院長自身がパワハラの加害者として告発されるリスクが生じますし、急に職場に来なくなるなどの反発が懸念されます。「注意しにくい構造」の中で急に感情的な行動に出ることは、ジレンマを余計に深くします。このような板挟みの中で経営している院長先生のストレスは非常に高いです。

Q注意しにくいからといって放置すると、院長はどのようなリスクを負いますか。
A
結論として、①労働契約法第5条の安全配慮義務違反、②労働施策総合推進法第30条の2のパワハラ防止措置義務違反、③連鎖退職による経営損失、という3つのリスクを負います。このうち①②は、他スタッフからの損害賠償請求の根拠となります。

院長が「古参スタッフに注意しにくい」という事情は理解できるとしても、それは法的には放置を正当化する理由になりません。例えば、新人や若手から~さんに困っているといった相談をされたときに、病院の経営を優先し話は聞いても対応を怠ってしまうと、「クリニックや院長はあの人の味方だ」と感じられてしまい、退職のみならず、損害賠償請求等のリスクやその他病院に生じた問題をさらされるリスクも生じてきます。

【条文】労働契約法(平成19年法律第128号)第5条
使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。

裁判例の流れでは、使用者が職場内のハラスメント・いじめの存在を認識できた場合、それを放置することは安全配慮義務違反として損害賠償責任の根拠となり得るとされています。特に、表面化していなかったことにより、いじめが長期間にわたって、院長先生が周りのスタッフの話から薄々知っていたり、職場内の会議や他スタッフからの直接の情報提供によって使用者が状況を把握できる機会があった場合には、「認識していた・または認識することが可能だった」と判断される傾向があります。

【条文】労働施策総合推進法(昭和41年法律第132号)第30条の2第1項
事業主は、職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であつて、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。

労働施策総合推進法第30条の2は、事業主(クリニック院長)にパワハラ防止のための措置義務を課しています。中小企業も2022年4月1日から適用対象であり、クリニックも例外ではありません。いわゆるお局スタッフの言動がパワハラに該当しうる場合、院長がそれを放置することは、措置義務違反として労働局から指導・勧告を受ける可能性があります。

 院長が認識していた事実・認識可能だった事実がポイント
裁判実務では、使用者が職場内のハラスメントを認識していたか、認識することが可能であったかが重要な判断要素となります。他スタッフから院長への相談や退職理由の中で「古参スタッフの言動」が繰り返し言及されているのに対応を取らなかった場合、「認識していた/認識可能だった」と判断される傾向があります。
放置による経営面の実害
・連鎖退職による採用コスト増(紹介料・教育コスト)
・診療時間短縮・休診日増加による減収
・地域内の評判低下による新規採用のさらなる困難化
・残ったスタッフの疲弊による医療事故リスク増
・患者満足度の低下による来院数減少

これらのリスクは、後から徐々に顕在化するため、放置が続く院長の意識には上りにくい一方、累積して許容限度を超えると、クリニック経営そのものを脅かす規模になり得ます。

Q「辞められたら困る」ジレンマを、どう整理すべきですか。
A
結論として、「辞められるリスク」と「放置するリスク」を両方テーブルに乗せて検討することが重要です。短期的には前者のリスクは大きいですが、後者のリスクも想定以上に大きいことを認識することが重要です。早期の対処を怠ると問題が蓄積されていき、後者は顕在化した時点で既に病院のトラブルになってしまいます。

院長の頭の中では、ジレンマは以下のように感じられています。

院長の認識 辞められた場合 放置する場合
問題が顕在化するタイミング 即時・明確 徐々に・見えにくい・後でいきなり
影響の及ぶ範囲 院長自身の業務負担が過大 他スタッフ全員・法的責任
コントロール可能性 低い(本人の意思次第で退職) 高い(院長の行動次第)
金銭的規模

採用コスト・代替人員採用の難しさ

損害賠償・連鎖退職の可能性

この比較をすると、実は「放置のリスク」の方がコントロール可能な分、早期に手を打つべき性質だと分かります。院長の意識では「辞められるリスク」の方が重く感じられますが、それは目先の見えやすさによる認知の偏りともいえます

ジレンマを解くための視点転換
・「辞めさせる」のではなく「行動を改善してもらう」のが第一目標
・本人が辞めるかどうかは本人の判断であり、院長が操作するものではない
・早期に改善要請を伝えた方が、結果として本人の変化が期待できる場面もある
・本人が反発して退職を選んだ場合でも、放置して連鎖退職が生じるより、経営的には早い回復につながる場合がある
・改善要請を経ずに突然の退職勧奨をすると違法リスクが高まる

また、院長が「一人で抱え込む」状況自体がリスクを高めます。弁護士・社労士等の第三者を交えることで、感情的判断を避けつつ客観的な手続を進めることが可能になります。

Q具体的に、どのような段階で対応を進めればよいですか。
A
結論として、①事実の記録化、②本人への個別面談と書面による改善要請、③院内体制の整備、④改善が見られない場合の配置変更等、の4段階で進めます。各段階で書面による記録を残すことが、適法性と実効性の両面で最も重要です。

突然の処分・配置換えは、本人からパワハラ・不当配転の反撃を受けやすく、違法と評価されるリスクが高くなります。段階的に記録を積み上げる進め方が、結果として最も安全で効果的です。

【段階1】事実の記録化(いつから始めても遅くない)
・過去数年間の退職者の人数・在籍期間・退職理由
・退職者と当該スタッフの関係性(指導関係・部署)
・退職面談での発言内容(メモ化)
・現職スタッフからの相談・申告の内容と日時
・当該スタッフの具体的な言動(日時・場所・内容・同席者)
・院長からの注意・指導の履歴(口頭でも記録)
【段階2】本人への個別面談と書面要請
・感情的にならず、事実ベースで切り出す
・「新人定着が課題」といった経営軸で話す
・本人の言い分も聞く(弁明の機会を十分に)
・場合によっては改善を求める事項を書面化して交付
・面談内容は院長側でも議事メモを残す
・問題が大きくなりそうであれば、弁護士・社労士の同席も選択肢
【段階3】院内体制の整備
・就業規則・ハラスメント規程の整備・確認
・相談窓口の設置(院外の弁護士等を窓口とする方法も)
・パワハラ防止方針の文書化・周知
・新人スタッフへの面談機会の定期化
・指導・教育マニュアルの明文化
【段階4】どうしても改善が見られない場合の選択肢
・配置変更(シフト・担当業務の変更等)
・業務範囲の見直し(指導担当から外す等)
・退職勧奨(優遇措置などを提示)
・解雇は最後の手段として専門家と慎重に協議
段階4で特に注意すべきこと
配置変更・退職勧奨・解雇は、それぞれに法的制約があります。退職勧奨については裁判例の流れを踏まえ、回数・期間・言動等の態様によっては違法な退職強要として損害賠償請求の対象となります。解雇は労働契約法第16条により、客観的合理的理由と社会通念上の相当性がなければ無効となります。これらの措置は段階1〜3を踏んだうえで、弁護士と協議して進めるべきです。

クリニックの顧問契約については、顧問契約サービスの紹介ページもご参照ください。

Q守谷・取手・つくばみらいのクリニックで、特に意識すべきことはありますか。
A
結論として、TX沿線は看護師採用市場が狭く「辞められるリスク」が体感的に大きく感じられる一方、地域のスタッフネットワークで評判も早く広がるため、早期対応しないと悪循環に陥りやすい地域特性があります。

守谷・取手・つくばみらいを含む茨城県南のTX沿線は、看護師・医療事務の採用市場が都心部と比較して狭く、1名の採用に時間を要することが珍しくありません。このため、院長が「あの人に辞められたら次の採用まで時間がかかるし、育てるのも時間がかかる。」という危機感を強く持ちやすく、問題放置の選択をしがちな地域特性があります。

TX沿線特有の悪循環構造
・採用困難だからこそ既存スタッフに依存
・既存スタッフを注意できず連鎖退職が発生、新人が定着しない。
・地域コミュニティで「あのクリニックは人がコロコロ変わる。退職した。」と評判化する可能性
・新規応募者がさらに減る可能性
・さらに人員が減ることによって院長の依存度が増し、問題放置が加速していく可能性
・悪循環が数年続くと、経営そのものに大きな支障を生じ出し、経営規模の縮小や事業の継続に大きな支障が生じる。その立て直しも古参スタッフとやることになり、根本的な原因が解決しない。

特に、守谷・つくばみらい・取手といった地域は、学校のママ友・地域SNS等もあったりするため、「若手が定着しない」原因についての評判が短期間で広がる傾向があります。この評判は院長の目には見えない形で形成されるため、気づいた時には採用困難がより深刻化している状態になります。

早期対応が地域経営に最も合理的
問題があるのではと感じた場合に、早期に段階的対応を始めることで、本人の改善・他スタッフの定着・地域評判の回復の3点セットは見込めます。逆に、数年放置した状態から動き出すと、すでに病院内の問題の状態化や地域内の評判形成が進んでおり、回復に要する時間が長くなります。院長の「辞められたら困る」という感覚と、実際の経営最適解が一致しないこともあります。

仮に訴訟に発展した場合の管轄は、原告(労働者)の住所地や不法行為地の裁判所となります(民事訴訟法第4条第1項・第5条第9号)。守谷市・取手市・牛久市・龍ケ崎市水戸地方裁判所龍ケ崎支部つくばみらい市・つくば市・土浦市水戸地方裁判所土浦支部常総市・坂東市水戸地方裁判所下妻支部が管轄候補となります。

📍 TX沿線の看護師ネットワークと院内評判形成

守谷市・取手市・つくばみらい市は、TX開業後に人口が急増したベッドタウンである一方、医療従事者コミュニティは地域内で比較的緊密です。看護師・医療事務のスタッフ同士が、保育園・子どもの習い事・地域の集まりを通じて横のつながりを持っているケースが多く、ある1つのクリニックの内部事情(院内の人間関係・退職率・院長の姿勢等)は、思った以上の速度で地域内に伝わることがあります。このため、問題を抱えたまま数年が経過すると、気づいた時には地域内での求人応募が減っているという現象が起きやすい環境です。

また、在籍が10年を超える古参スタッフは、地域内の他のクリニックスタッフとも長年の顔見知りであることが多く、問題のあるスタッフを放置していることが、その人自身の地域内ネットワークを通じて他クリニックにも知られている、という場合もあります。院内のことが院内で完結しない地域性は、対応を遅らせるほど不利に働きます。

「注意しにくい古参スタッフがいて、若手が辞めていく」——この状況は、クリニック院長一人では動きにくい領域です。弁護士・社労士という外部の専門家を入れることで、感情的対立を避けた段階的対応が可能になります。守谷・取手・つくばみらい・常総・柏エリアのクリニック院長の方で、状況整理と対応方針のご相談を希望される方は、まず状況をお聞きした上でご説明いたします。

弁護士 吉津和輝
茨城県弁護士会所属
📧 [email protected]
📞 050-3623-1320
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守谷市・取手市・常総市・つくばみらい市・龍ケ崎市・牛久市・つくば市・土浦市・野田市・我孫子市・北柏をはじめ、茨城県南部・千葉県北西部のクリニック院長・医療法人の方からの、お局看護師への対応・注意しにくい古参スタッフへの対応・安全配慮義務・連鎖退職対応に関するご相談もお受けしています。弁護士 吉津和輝(茨城県弁護士会所属)までお気軽にどうぞ。

更新履歴
  • 2026年4月24日:新規公開

本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別事案への法的アドバイスではありません。具体的なご相談は弁護士にお問い合わせください。なお、本記事の内容は令和8年(2026年)4月時点の情報に基づいています。法律・実務の取り扱いは今後変更される可能性があります。
公開日:2026年4月24日|最終更新日:2026年4月24日