吉津和輝(登録番号57714 茨城県弁護士会所属) 市川法律事務所に所属する弁護士です。
はじめに
親や配偶者が亡くなったとき、相続人は遺産を受け取る権利を得ます。しかし、遺産の中には預貯金や不動産といったプラスの財産だけでなく、借金や保証債務といったマイナスの財産が含まれていることもあります。
「親が多額の借金を残して亡くなった」「親に負債があるのではないか」——そのような場合に検討すべきなのが相続放棄です。
この記事では、相続放棄の基本的な仕組みから手続きの流れ、よくある注意点まで解説します。
1. 相続放棄とは
相続放棄とは、被相続人(亡くなった方)の遺産に対する相続権を完全に放棄する手続きです。
相続放棄をすると、最初から相続人ではなかったとみなされます。これにより、借金などのマイナスの財産を引き継がずに済みます。
プラスの財産もマイナスの財産もすべて放棄
相続放棄は「借金だけを放棄する」ことはできません。プラスの財産もマイナスの財産も含めて、すべての遺産を放棄することになります。
2. 相続放棄ができる期間——「3ヶ月」の期限に注意
相続放棄は、自己のために相続の開始があったことを知った時から3ヶ月以内に家庭裁判所に申述する必要があります(民法915条)。
この3ヶ月の期間を熟慮期間といいます。
期限を過ぎてしまったら?
原則として、熟慮期間を過ぎると相続放棄はできなくなります。ただし、例外的に期間経過後でも相続放棄が認められるケースがあります。
たとえば、被相続人の死亡を相続開始から3ヶ月以上経過した後に初めて知った場合などです。このような場合は、弁護士に相談することをお勧めします。
熟慮期間の伸長
3ヶ月以内の判断が難しい場合は、家庭裁判所に申請することで熟慮期間を延長してもらうことができます。遺産の全容がわからない段階では、まず期間の伸長を申請することも選択肢の一つです。
3. 相続放棄の手続きの流れ
① 相続放棄申述書の作成
家庭裁判所に提出する相続放棄申述書を作成します。
② 必要書類の収集
主な必要書類は以下のとおりです。
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・相続放棄に共通するもの
1. 被相続人の住民票除票又は戸籍附票
2. 利害関係人からの申立ての場合,利害関係を証する資料(親族の場合,戸籍謄本等)
3. 伸長を求める相続人の戸籍謄本
・被相続人の配偶者の場合
4. 被相続人の死亡の記載のある戸籍(除籍,改製原戸籍)謄本
・被相続人の子又はその代襲者の場合
4. 被相続人の死亡の記載のある戸籍(除籍,改製原戸籍)謄本
5. 代襲相続人(孫,ひ孫等)の場合,被代襲者(本来の相続人)の死亡の記載のある戸籍(除籍,改製原戸籍)謄本
・被相続人の父母・祖父母等の場合
4. 被相続人の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍,改製原戸籍)謄本
5. 被相続人の子(及びその代襲者)で死亡している方がいらっしゃる場合,その子(及びその代襲者)の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍,改製原戸籍)謄本
6. 被相続人の直系尊属に死亡している方(相続人より下の代の直系尊属に限る(例:相続人が祖母の場合,父母))がいらっしゃる場合,その直系尊属の死亡の記載のある戸籍(除籍,改製原戸籍)謄本
・被相続人の兄弟姉妹及びその代襲者の申立ての場合
4. 被相続人の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍,改製原戸籍)謄本
5. 被相続人の子(及びその代襲者)で死亡している方がいらっしゃる場合,その子(及びその代襲者)の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍,改製原戸籍)謄本
6. 被相続人の直系尊属の死亡の記載のある戸籍(除籍,改製原戸籍)謄本
7. 代襲相続人(おい,めい)の場合,被代襲者(本来の相続人)の死亡の記載のある戸籍(除籍,改製原戸籍)謄本
申述人と被相続人の関係によって、追加で必要な書類が異なります。
③ 家庭裁判所への申述
被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に申述します。
④ 照会書への回答
裁判所から申述人に対して、照会書(確認のための質問書)が送付されます。内容を確認して回答・返送します。
⑤ 相続放棄申述受理通知書の受領
手続きが完了すると、相続放棄申述受理通知書が届きます。債権者から請求があった場合は、この通知書をもって相続放棄の事実を証明できます。
4. 相続放棄の注意点
① 遺産に手をつけてはいけない
相続放棄をする予定であっても、被相続人の預貯金を引き出したり、遺産を処分したりすると、単純承認したとみなされ(法定単純承認)、相続放棄ができなくなる場合があります。
また、被相続人の借金を被相続人の財産(預貯金等)から返済することも、相続財産の処分にあたる場合があります。「債権者から請求が来たので支払ってしまった」というケースも法定単純承認となる可能性がありますので注意が必要です。
葬儀費用の支払いのために預金を引き出すことは認められる場合がありますが、判断が難しいケースも多いため、事前に弁護士に相談することをお勧めします。
② 次の順位の相続人に相続が移る
相続放棄をすると、その方は最初から相続人ではなかったとみなされます。その結果、次の順位の相続人に相続権が移ります。
たとえば、子全員が相続放棄をすると、次の相続人(被相続人の親や兄弟姉妹)に相続権が移ります。借金の相続を避けるためには、相続人全員が相続放棄をする必要がある場合もあります。
③ 相続放棄は取り消せない
一度受理された相続放棄は、原則として取り消すことができません。放棄するかどうかは慎重に判断する必要があります。
5. こんな場合は相続放棄を検討しましょう
- 遺産よりも借金の方が明らかに多い
- 疎遠だった親族の相続人になり、関わりたくない
- 相続トラブルに巻き込まれたくない
逆に、遺産にプラスの財産もある場合は、相続放棄よりも限定承認(プラスの財産の範囲内でのみ借金を引き継ぐ方法)が適している場合もあります。
6. 弁護士に相談するメリット
相続放棄の手続き自体は、ご自身で行うことも可能です。しかし、以下のようなケースでは弁護士への相談をお勧めします。
- 3ヶ月の期限が迫っている
- 遺産の全容が不明で判断が難しい
- 相続人が多く、全員の放棄が必要
- 債権者からすでに請求が来ている
- 相続放棄すべきか、限定承認すべきか迷っている
特に期限が迫っているケースは早急な対応が必要です。お早めにご相談ください。
まとめ
| ポイント | 内容 |
|---|---|
| 相続放棄の期限 | 相続を知った時から3ヶ月以内 |
| 申述先 | 被相続人の最後の住所地の家庭裁判所 |
| 効果 | プラス・マイナス含めてすべての遺産を放棄 |
| 注意点 | 遺産に手をつけると放棄できなくなる場合あり |
| 次順位への影響 | 放棄すると次の相続人に権利が移る |
相続放棄は「3ヶ月」という期限が重要です。判断に迷っている場合も、まずは早めに弁護士にご相談ください。
本サイトの記事は一般的な情報提供を目的としており、個別事案への法的アドバイスではありません。具体的なご相談は弁護士にお問い合わせください。
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