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現場で従業員が熱中症になったら|守谷・常総・つくばみらい・取手|事業者が問われる責任と、いま整えるべき体制

労働問題・労災(使用者側)

現場で従業員が熱中症になったら
— 事業者が問われる責任と、いま整えるべき体制

屋外・製造・建設・物流の現場を持つ事業者の方へ
弁護士 吉津和輝 / 茨城県弁護士会所属
弁護士 吉津和輝(よしつ かずき)
茨城県弁護士会所属(登録番号57714)/2018年12月弁護士登録
主な取扱分野:企業法務・労働問題(使用者側)・労災対応・顧問業務
屋外作業や、空調の効きにくい倉庫・工場、炎天下の建設現場など、暑い現場を抱える事業者・現場責任者の方へ。2025年(令和7年)6月から、職場の熱中症対策が事業者に義務づけられました。もし現場で従業員が熱中症になったとき、会社は「行政」「民事」「労災」という三つの場面で責任や対応を問われることがあります。本記事では、事故が起きたときの初動と、平時に整えておくべき体制を、使用者側の立場から整理します。
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弁護士 吉津和輝(茨城県弁護士会所属)/〒302-0128 茨城県守谷市けやき台3-28-7
Q 従業員が熱中症で倒れたら、会社の責任になりますか?
A
結論として、責任を問われることがあります。事業者は労働契約法第5条により従業員の安全に配慮する義務(安全配慮義務)を負っており、熱中症についても「行政」「民事」「労災」の三つの場面で対応が生じ得ます。

熱中症とは、高温多湿の環境などで体温の調整がうまくいかなくなり、めまい・けいれん・意識障害などを引き起こす健康障害のことです。業務に起因して発症した場合には、労働災害(労災)として労災保険の給付対象になり得ます。

ここで注意したいのは、労災保険の給付とは別に、会社が安全配慮義務を尽くしていなかった場合には、労災保険で填補されない部分(慰謝料など)について、従業員本人やご遺族から民事の損害賠償を請求されることがある、という点です。さらに、後述のとおり労働基準監督署による行政上の対応も加わり得ます。事業者が向き合う責任は、次の三つの方向に分かれます。

① 行政
労基署の是正指導・作業停止命令、罰則規定の対象となり得る
② 民事
安全配慮義務違反による損害賠償(慰謝料等)を請求され得る
③ 労災
業務起因なら労災保険の給付対象。手続・報告が必要になる
— 図:従業員の熱中症で事業者が向き合う3つの責任 —
【根拠】労働契約法(平成19年法律第128号)第5条:「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。」
Q 2025年6月からの「義務化」で、事業者は何をしないといけないのですか?
A
結論として、労働安全衛生規則第612条の2により、「報告体制の整備・周知」と「悪化防止措置の内容・手順の策定・周知」という二つの措置が事業者に義務づけられました。

具体的には、熱中症を生ずるおそれのある作業を行うときに、次の二つをあらかじめ用意し、作業に従事する人へ周知しておくことが求められます。

① 報告できる体制:熱中症の自覚症状がある作業者や、熱中症が疑われる作業者を見つけた人が、その旨を報告できる連絡先・担当者などの体制を作業場ごとに決めておくこと。
② 悪化を防ぐ手順:作業からの離脱、身体の冷却、必要に応じて医師の診察・処置を受けさせることなど、症状の悪化を防ぐための措置の内容と実施手順を、作業場ごとに定めておくこと。

対象となる作業の目安(暑さ指数WBGT28度以上または気温31度以上で、連続1時間以上または1日合計4時間を超えて見込まれる作業)は、省令の条文そのものではなく、厚生労働省の通達(令和7年5月20日付基発0520第6号)で示されています。この義務は、企業の規模や屋内・屋外を問わず適用されます。
【根拠】労働安全衛生規則(昭和47年労働省令第32号)第612条の2(熱中症を生ずるおそれのある作業)第1項・第2項〔要旨〕。あわせて、労働安全衛生法(昭和47年法律第57号)第22条は、事業者に対し高温等による健康障害を防止するため必要な措置を講じる義務を定めています。
⚠️ この義務に違反した場合、労働安全衛生法第22条に違反するものとして、同法第119条の罰則規定(六月以下の拘禁刑又は五十万円以下の罰金)の対象となり得る場面があります。過度に不安になる必要はありませんが、体制を整えておくことが有効です。
Q きちんと対策していたのに熱中症が起きた場合も、賠償責任を負いますか?
A
結論として、安全配慮義務は「結果責任」ではありません。必要な措置を講じ、その実施を記録していれば、賠償責任が否定される場合があります。

安全配慮義務の違反があるかどうかは、大きく分けて「事故を予見できたか(予見可能性)」と「防ぐための措置を尽くしていたか(結果回避義務)」という観点から判断されます。したがって、熱中症が発生したこと自体で直ちに賠償責任が生じるわけではありません。

最高裁は、使用者が、労働者の労務提供の過程で、その生命や身体等を危険から保護するよう配慮すべき義務(安全配慮義務)を負うとしています。もっとも、その具体的な内容は、労働者の職種・作業内容・作業場所などの具体的な状況によって異なると判示しています。熱中症に即していえば、暑さ指数の把握、作業時間や休憩の管理、水分・塩分の補給、教育、急変時の対応などを実際に行い、それを記録に残していたかが判断を分けます。

ポイントは、「実施していた」だけでなく「実施していたと後から証明できる」ことです。記録が残っていない対策は、紛争の場面では“やっていなかった”と扱われてしまうおそれがあります。
【参考裁判例】最高裁判所第三小法廷 昭和59年4月10日判決(昭和58年(オ)第152号、民集38巻6号557頁。いわゆる川義事件)。使用者が労働者に対して安全配慮義務を負うことと、その内容が具体的状況によって定まることを示した判例です。
Q 現場で熱中症が疑われる人が出たら、まず何をすべきですか?
A
結論として、まず作業からの離脱と身体の冷却を最優先し、意識障害・けいれん・呼びかけに応じない等があれば、ためらわず119番通報します。並行して状況を記録し、必要に応じて所轄の労働基準監督署へ報告します。

熱中症は、初期症状を見逃したり対応が遅れたりすると、短時間で重症化することがあります。現場で「おかしい」と気づいたら、次の流れで動くことが基本です。

1
離脱・冷却
涼しい場所へ移し、衣服をゆるめ、身体を冷やす
2
判断・救急
意識障害・けいれん等があれば119番、受診させる
3
記録・報告
状況を記録し、必要に応じ所轄労基署へ報告
— 図:熱中症が疑われたときの初動フロー —

会社として特に大切なのは「③記録」です。いつ・どこで・誰が・どのような症状で・どう対応したかの記録は、その後の労災の手続、損害賠償の場面、行政対応のすべてで土台になります。

⚠️ 従業員が死亡または休業した労働災害では、労働者死傷病報告などの手続が必要になる場合があります。手続の要否や様式は事案によって異なりますので、所轄の労働基準監督署や社会保険労務士にご確認ください。
Q 労基署の調査・是正指導や、遺族からの損害賠償請求にどう対応すべきですか?
A
結論として、労働基準監督署からは是正指導や作業停止命令等がなされることがあります。損害賠償を請求された場合は、労災保険給付との調整や賠償範囲の検討が必要になるため、早い段階で弁護士に相談することが有効です。

労働基準監督署の調査には、事実に基づいて誠実に対応することが基本です。違反が確認されると是正指導がなされ、危険が急迫している場合などには、労働安全衛生法第98条に基づき、作業の全部または一部の停止などが命じられることもあります。作業停止は事業への影響が大きいため、指摘の内容を正確に把握し、改善の内容と時期を具体的に示していくことが重要です。

民事の損害賠償請求を受けた場合は、労災保険で填補される部分と、慰謝料など労災保険ではカバーされない上乗せ部分の切り分け、過失相殺の検討、示談交渉といった専門的な対応が必要になります。感情的な対立が深まる前の初期対応が、その後の結論を大きく左右します。

【根拠】労働安全衛生法(昭和47年法律第57号)第98条(使用停止命令等)は、都道府県労働局長または労働基準監督署長が、一定の違反の事実があるときに、作業の全部または一部の停止等を命ずることができる旨を定めています。
なお、損害賠償が訴訟に発展した場合、県南(守谷・取手・常総・つくばみらい・坂東など)の事案は、水戸地方裁判所土浦支部が管轄エリアとなります。訴訟に至る前の交渉段階からの見通しの立て方が大切です。
Q 事故が起きる前に、平時から備えておくべきことは?
A
結論として、有事に強いのは、平時に「体制・書面・記録の型」を整えている会社です。手順の整備・記録様式の準備・急な事態のときの相談窓口の確保が、責任の軽減と早期解決につながります。

Q2で述べた義務化された報告体制と悪化防止手順は、「作って、周知して、記録に残す」ところまで実行して初めて意味を持ちます。あわせて、次のような平時の備えが有効です。

・就業規則や作業マニュアルへ、熱中症対策の内容を反映しておく。
・点呼、暑さ指数、休憩、水分・塩分補給などの記録様式をあらかじめ用意しておく。
・急変時の初動フローと緊急連絡先を、現場の誰もが見える形で共有しておく。
・研修などを通じて、現場の一人ひとりが初期症状と対応を理解している状態にしておく。

こうした平時の整備と、万一のときの初動・交渉・行政対応を継続的に支えるのが、顧問弁護士の役割です。当職は、使用者側の労務・労災対応の経験を踏まえ、現場の実情に合わせた体制づくりと、いざというときの対応をご一緒します。

守谷・県南エリアの実情

守谷市はTX(つくばエクスプレス)沿線の物流適地として大型倉庫や製造業が集まり、県南(取手・常総・つくばみらい・坂東など)には、屋外での作業を伴う建設業や運送業・製造業も多い地域です。空調の効きにくい大型倉庫や、炎天下の建設・運送の現場では、夏場の暑熱リスクが特に高くなります。地域の作業実態に合った労務体制の整備について、当職がご相談に応じます。

CONTACT

現場の状況や作業内容をお聞きしたうえで、いま整えるべき体制と、万一のときの対応を具体的にご説明します。使用者側の労務・労災対応について、当職にご相談ください。

弁護士 吉津和輝
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参考資料・情報源

労働契約法(e-Gov法令検索)
労働安全衛生法(e-Gov法令検索)
労働安全衛生規則(e-Gov法令検索)
・厚生労働省「職場における熱中症対策の強化について」(令和7年5月20日付基発0520第6号ほか)
最高裁判所第三小法廷 昭和59年4月10日判決(川義事件・裁判所ウェブサイト)

更新履歴

・2026年7月10日:記事を公開しました。

本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別事案への法的アドバイスではありません。具体的なご相談は弁護士にお問い合わせください。なお、本記事の内容は令和8年(2026年)7月時点の情報に基づいています。法律・実務の取り扱いは今後変更される可能性があります。
公開日:2026年7月10日|最終更新日:2026年7月10日