養育費・婚姻費用の「情報開示命令」とは
— 相手の収入がわからないと悩む方へ
| Q | 情報開示命令とは何ですか? |
| A |
家庭裁判所が当事者に対し、収入や資産の状況に関する情報を開示するよう命じることができる制度です。令和8年4月1日に施行された改正家事事件手続法等で新設されました。
これまでの家事審判・調停では、相手が任意に源泉徴収票や預金通帳のコピーを提出しない限り、相手の収入や資産を把握する方法は実務上限られていました。調査嘱託や文書送付嘱託といった手段はありましたが、対象となる第三者・文書が特定されている必要があり、相手が「副業や別収入があるかどうか自体わからない」というケースでは使いにくいという指摘がありました。 改正により、家庭裁判所が必要があると認めるときは、申立てによって又は職権で、当事者に対し、収入及び資産の状況等に関する情報の開示を命じることができるようになりました(家事事件手続法152条の2の場合は「収入及び資産の状況」、離婚訴訟の財産分与に関する人事訴訟法34条の3第2項の場合は「財産の状況」が開示対象とされています)。これによって、養育費や婚姻費用の額、財産分与の対象を適正に算定するための前提となる情報を、より迅速に収集できる仕組みが整いました。
【根拠】家事事件手続法(平成23年法律第52号)第152条の2(令和6年法律第33号による改正、令和8年4月1日施行):家庭裁判所は、必要があると認めるときは、申立てにより又は職権で、当事者に対し、その収入及び資産の状況に関する情報を開示することを命ずることができる。
【補足】開示の対象となる「収入」には、給与所得だけでなく、副業・事業収入・不動産収入等、養育費等の算定の前提となる収入全般が含まれると考えられています。「資産」については、預貯金・有価証券・不動産等の財産が想定されます。
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| Q | どんな場面で使えますか?対象事件は? |
| A |
養育費・婚姻費用の家事審判事件と調停事件、それから離婚訴訟の附帯処分(養育費・財産分与)で使えます。
法務省「改正の概要」では、情報開示命令の根拠条文として「人事訴訟法34条の3、家事事件手続法152条の2」が明示されています。整理すると以下のとおりになります。
1養育費(子の監護に要する費用の分担)の審判・調停
改正家事事件手続法152条の2。離婚後や別居中に養育費の額を決めたい、増額・減額したいという家事事件で使えます。
2婚姻費用の分担の審判・調停
同じく改正家事事件手続法152条の2。別居中の生活費(婚姻費用)の額を決める事件で使えます。
3離婚訴訟の附帯処分(養育費・財産分与)
改正人事訴訟法34条の3。離婚訴訟の中で養育費(同条1項)や財産分与(同条2項)を求める場合に使えます。財産分与の場合の開示対象は「財産の状況」です。
— 情報開示命令の対象事件と根拠条文 —
つまり、「相手の収入が分からないと適正な養育費・婚姻費用が決まらない」という多くのケースで、新制度の利用を検討する余地があります。
【調停での運用について】調停事件も法律上は情報開示命令の対象とされています。もっとも、調停は当事者の合意による解決を目指す手続であるため、調停の段階で裁判所が職権で開示を命じたり過料を予告したりする運用がどの程度行われるかは、現時点では明らかではありません。実際には、調停が不成立になって審判に移行した段階や、当事者からの強い要請がある段階で情報開示命令が活用される場面が中心になる可能性も指摘されています。施行後の運用を注視する必要があります。
【根拠】家事事件手続法第152条の2(養育費・婚姻費用)、人事訴訟法第34条の3(離婚訴訟の附帯処分)。いずれも令和6年法律第33号による新設、令和8年4月1日施行。
【補足】このほか、扶養料の事件等についても情報開示命令の対象とされる方向で改正されていますが、施行後の運用や個別の条文適用の整理は今後の家事実務の蓄積を待つ必要があります。詳しくは弁護士にご相談ください。
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| Q | 相手が開示しない/嘘をついたらどうなりますか? |
| A |
正当な理由なく開示しなかったり、虚偽の情報を開示したときは、10万円以下の過料に処せられる可能性があります。
改正家事事件手続法152条の2第3項は、情報開示命令を受けた当事者が正当な理由なく情報を開示しなかったり、虚偽の情報を開示したときは、裁判所が決定で10万円以下の過料に処すると定めています。離婚訴訟の附帯処分での情報開示命令についても、改正人事訴訟法34条の3第3項に同じ趣旨の規定が置かれています。
⚠️ 過料は刑事罰(罰金)ではなく行政上の制裁ですが、裁判所の決定として課される点で相応のプレッシャーになります。前科にはなりませんが、家庭裁判所の手続の中で「相手は誠実に開示に応じなかった」という事情として残り、その後の判断にも影響し得ます。
【根拠】家事事件手続法第152条の2第3項:情報開示命令を受けた当事者が、正当な理由なくその情報を開示せず、又は虚偽の情報を開示したときは、裁判所は、決定で、10万円以下の過料に処する(令和6年法律第33号による改正、令和8年4月1日施行)。
もっとも、「開示しなかった」イコール「過料が課される」ではなく、「正当な理由」の有無は事案ごとに裁判所が判断します。たとえば、特殊な事情で資料が手元にない場合、裁判所が任意の働きかけを優先するケースもあり得ると考えられます。 |
| Q | 施行前に離婚した方も使えますか? |
| A |
施行日(令和8年4月1日)以後に家庭裁判所に申し立てる事件であれば、離婚や別居の時期にかかわらず情報開示命令を利用できます。
情報開示命令は、手続上の規定(家事事件手続法の規定)であり、その手続が始まる時点(申立て・職権発動)から先のルールを定めるものです。したがって、たとえば「数年前に離婚して養育費を取り決めたものの、その後相手が転職して支払が止まった」「子どもの進学に伴って養育費の増額調停を申し立てたい」というケースでも、施行日以後に家庭裁判所に申立てをすれば、新制度の対象になります。 逆に、施行前にすでに養育費・婚姻費用の調停・審判が確定して終了している場合でも、その後に新たな増額・減額の申立てを行えば、新しい手続の中で情報開示命令を利用できる可能性があります。
【補足】民法改正部分(先取特権・法定養育費等)は、施行前の取決め・離婚に対する適用に経過措置が置かれている部分があります。手続法上の情報開示命令とは別物として整理する必要があります。詳しくは法務省の改正法概要資料をご確認ください。
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| Q | 財産開示手続・第三者情報取得手続とは何が違いますか? |
| A |
情報開示命令は「養育費・婚姻費用の額を決める段階」で家庭裁判所が当事者に命じる制度、財産開示手続・第三者情報取得手続は「決まった養育費等を強制執行で回収する段階」で地方裁判所に申し立てる制度です。使う場面が違います。
— 情報開示命令と財産開示手続・第三者情報取得手続の使い分け —
たとえば「相手の収入がわからないので適正な養育費が決まらない」場合はAの情報開示命令、「養育費の額は決まっているのに支払われない、給与を差し押さえたいが勤務先がわからない」場合はBの第三者情報取得手続というイメージです。 令和6年改正では、養育費等の請求権について、財産開示手続・第三者情報取得手続・差押えを1回の申立てで連続的に行えるワンストップ化の仕組みも整備されました(改正民事執行法167条の17)。実際の運用は事案ごとに異なるため、どちらの制度を使うか・どう組み合わせるかは個別に検討が必要です。 |
| Q | 守谷・取手・柏で申し立てる場合、どの家庭裁判所ですか? |
| A |
家事事件手続法の定めにより、原則として相手方の住所地を管轄する家庭裁判所に申し立てます。当事者間の合意で別の家庭裁判所に申し立てる合意管轄も可能です。
当職の対応エリアでみた場合、相手方の住所地ごとにおおむね次の管轄になります。
水戸家庭裁判所 龍ケ崎支部
守谷市・取手市・牛久市・龍ケ崎市・稲敷市・北相馬郡利根町・稲敷郡河内町
水戸家庭裁判所 土浦支部
つくば市・つくばみらい市・土浦市・かすみがうら市・石岡市・稲敷郡阿見町・美浦村など
水戸家庭裁判所 下妻支部
常総市・下妻市・坂東市・古河市・結城市・筑西市など
千葉家庭裁判所 松戸支部
松戸市・柏市・我孫子市・流山市・野田市・鎌ケ谷市
— 対応エリアの管轄家庭裁判所(家事事件) —
つくばエクスプレス沿線・常磐線沿線では、申立人と相手方の住所が県境(茨城・千葉)をまたぐ事例も多く、その場合は相手方住所地の家庭裁判所が原則として管轄になります。たとえば、申立人が守谷市にお住まいで相手方が柏市にお住まいの場合、原則として千葉家庭裁判所松戸支部が管轄になります。
【補足】管轄が異なるからといってどちらの家庭裁判所でも自由に選べるわけではありませんが、当事者の合意による合意管轄や、事件の移送が認められるケースもあります。具体的な選択は弁護士にご相談ください。
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| Q | 弁護士に依頼するメリットはありますか? |
| A |
情報開示命令の申立てに当たっては、「なぜ情報開示が必要か」「どの範囲の情報を開示してほしいか」を裁判所に説得的に説明することが重要になります。代理人がいることで、開示された情報を踏まえた主張立証につなげる作業を分担できる場合があります。
新しい制度であるだけに、裁判所の運用は今後事案を重ねながら形作られていく面があります。当事者本人で申立てをすること自体は妨げられませんが、次の点で弁護士の関与が有用です。
①申立書面の説得力
「相手が源泉徴収票を出さない」「副業の収入があると聞いているが裏付けが取れない」など、開示の必要性を具体的に書面化するノウハウ。
②開示された情報の活用
開示された収入・資産情報をもとに、養育費・婚姻費用算定表へのあてはめ、修正要素の主張、加算事由の整理。
③過料が問題となる場面
相手が開示に応じない場合に、過料を求めるか別の方法を取るかの判断、運用が定まっていない論点での主張構成。
④強制執行段階との連携
情報開示命令で得た情報を、その後の任意交渉や、最終的に強制執行(民事執行法上の第三者情報取得手続等)に活かす設計。
当職は、家族法(離婚・親権・養育費・婚姻費用・財産分与・面会交流)の対応経験があります。新制度の活用方針も含め、事案に応じてご案内します。 |
TX(つくばエクスプレス)沿線・常磐線沿線は、ベッドタウンとして転入者が多く、夫婦の片方が東京都内に通勤しているケースが目立つエリアです。別居後に相手が東京都内へ転居したり、転職を機に勤務先がわからなくなったりというご相談を比較的多くお受けします。守谷市・取手市・つくばみらい市・牛久市など県南エリアにお住まいでも、相手方の住所地によっては千葉家裁松戸支部や東京家裁の管轄になることがあり、その場合の手続の進め方を含めて、初回相談時にご一緒に整理いたします。
養育費・婚姻費用について「相手の収入がわからない」「源泉徴収票を出してくれない」「すでに調停はしたが情報が足りない」など、お困りの方はご相談ください。状況をお聞きしたうえで、新制度の利用や、他に取り得る手続を含めて、見通しをご説明します。初回相談は面談またはZOOMで承っています。
📞 050-3623-1320
守谷市・取手市・常総市・つくばみらい市・龍ケ崎市・牛久市・つくば市・土浦市・野田市・我孫子市・柏市・松戸市・流山市をはじめ、茨城県南部・千葉県北西部の養育費・婚姻費用・離婚に関するご相談をお受けしています。弁護士 吉津和輝(茨城県弁護士会所属)までお気軽にどうぞ。
・e-Gov法令検索(デジタル庁)
・民法等の一部を改正する法律(父母の離婚後等の子の養育に関する見直し)について〔令和8年4月1日施行〕(法務省)
・民法等の一部を改正する法律案新旧対照条文(法務省、PDF)
・茨城県内の管轄区域表(裁判所)
2026年5月28日:公開(令和8年4月1日施行の改正家事事件手続法152条の2等に基づく情報開示命令制度について解説)
本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別事案への法的アドバイスではありません。具体的なご相談は弁護士にお問い合わせください。なお、本記事の内容は令和8年(2026年)5月時点の情報に基づいています。法律・実務の取り扱いは今後変更される可能性があります。
公開日:2026年5月28日|最終更新日:2026年5月28日
