孫と会えない祖父母ができること
― 改正民法766条の2と面会交流の申立て要件
| Q | 孫と会えなくなった祖父母は、家庭裁判所に面会交流を申し立てできますか? |
| A |
令和8年4月1日施行の改正民法により、祖父母(子の直系尊属)からも家庭裁判所に父母以外の親族と子との交流(面会交流)について審判を申し立てるルートが開かれました。ただし、申立て自体ができるようになっただけで、家庭裁判所が交流を実際に定めるかどうかは「子の利益のため特に必要があると認めるとき」という厳格な要件で判断されます。
令和6年5月17日に成立した「民法等の一部を改正する法律」(令和6年法律第33号)は、令和8年4月1日に施行されました。この改正により、民法766条の2(離婚後の場面)が新設され、また民法817条の13(婚姻中別居の場面)も整備されました。条文の要点は次の2つです。第1に、家庭裁判所は「子の利益のため特に必要があると認めるとき」に、父母以外の親族と子との交流を定めることができるとしました。第2に、この交流の定めを求める審判を申し立てられる人として、父母のほかに「父母以外の子の親族」(祖父母・兄弟姉妹など)を加えました(具体的範囲はQ3で後述)。 条文上の正式な用語は、改正前の「面会及びその他の交流」から「親子交流」へと整理されていますが、これまで実務で使われてきた「面会交流」とほぼ同じ内容を指します。本記事では検索のしやすさを考慮して「面会交流」の語を中心に使い、条文を引用する箇所では条文どおりの「交流」「親子交流」と表記します。
【根拠】民法(明治29年法律第89号)第766条の2第1項:「家庭裁判所は、前条第二項又は第三項の場合において、子の利益のため特に必要があると認めるときは、同条第一項に規定する子の監護について必要な事項として父母以外の親族と子との交流を実施する旨を定めることができる。」
― 改正民法766条の2の枠組み ―
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| Q | 改正前の現行法では、なぜ祖父母から申立てができなかったのですか? |
| A |
改正前は、当時の民法に父母以外の第三者の申立権を認める根拠規定がなく、最高裁も民法766条の適用・類推適用による申立権を否定していました。今回の改正は、この「申立権の根拠規定がない」という条文上の障壁を、立法によって取り除いたものです。
最高裁判所第一小法廷令和3年3月29日には、関連する2件の決定があります。1件は祖父母からの監護者指定申立事件、もう1件は祖父母からの面会交流申立事件で、いずれも祖父母からの申立てを認めませんでした。面会交流の事件で最高裁は、「父母以外の第三者は、事実上子を監護してきた者であっても、家庭裁判所に対し、子の監護に関する処分として上記第三者と子との面会交流について定める審判を申し立てることはできないと解するのが相当である」と述べ、申立てを不適法として却下した原審の判断を支持しました。 ここで重要なのは、最高裁は「祖父母と孫の交流そのものを否定した」わけではない、という点です。最高裁が述べたのは「当時の民法には父母以外の第三者に審判申立てを認める規定がなく、民法766条の適用・類推適用によっても申立権を導けない」という条文論からの帰結であり、父母と祖父母が話し合いで交流方法を決めること自体は妨げられていませんでした。あくまで「祖父母が単独で家庭裁判所の手続に乗せる入口」が閉ざされていた、という整理です。 改正民法766条の2と817条の13第5項は、この「入口」を立法によって開きました。ただし、ここで注意したいのは、改正後も祖父母に「孫と会う権利」が当然のものとして与えられたわけではないということです。条文が定めたのは「家庭裁判所に申立てができる地位(申立権)」であり、実体判断としては「子の利益のため特に必要があると認めるとき」という厳格な要件をクリアする必要があります(Q4参照)。整理すると、改正によって「申立てルートが開かれ、実体審査の対象になった」というのが正確な理解です。
令和3年最高裁決定のうち「申立権の根拠規定が民法にない」という判示部分は、766条の2の新設により立法的に克服され、判例としての規範的意義は失われたと評価できます。もっとも、同決定が背景に置いていた問題意識(父母の応訴負担への配慮、子の福祉と父母の監護権の調整)は、改正後の「特に必要」要件の解釈(厳格運用の方向)にも影響を残す可能性があります。
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| Q | 申立てができる「父母以外の親族」とは具体的に誰のことですか? |
| A |
申立権が認められるのは、①父母、②子の直系尊属(祖父母・曾祖父母)、③子の兄弟姉妹、④それ以外の親族で過去に当該子を監護していた者、です。さらに父母以外の親族の場合は「他に適当な方法がないとき」という補充性の要件もあります。
民法766条の2第2項は、申立権者を次のように整理しています。父母は当然に申立てができます。それ以外の親族については、(a) 子の直系尊属(祖父母・曾祖父母)と (b) 子の兄弟姉妹は過去に子を監護していたかどうかに関係なく申立てができ、(c) これら以外の親族(おじ・おば・いとこなど)は過去に当該子を監護していた者に限って申立てができます。 加えて、父母以外の親族の申立てには、もう一つ重要な条件があります。「その者と子との交流についての定めをするため他に適当な方法がないときに限る」という補充性の要件です(766条の2第2項柱書の括弧書)。これは、まず父又は母の面会交流の中で祖父母が同席するなどの方法で交流を確保することを優先し、父母の協議や父母自身による申立てが期待しがたい場面(一方の親が死亡している、行方不明である等)に絞って祖父母等の単独申立てを認める趣旨と説明されています。
― 民法766条の2第2項:申立てができる者の範囲 ―
【根拠】民法第766条の2第2項:「前項の定めについての前条第二項又は第三項の規定による審判の請求は、次に掲げる者(第二号に掲げる者にあっては、その者と子との交流についての定めをするため他に適当な方法がないときに限る。)がすることができる。一 父母/二 父母以外の子の親族(子の直系尊属及び兄弟姉妹以外の者にあっては、過去に当該子を監護していた者に限る。)」
⚠️「他に適当な方法がない」という補充性要件をどう判断するかは、最終的には家庭裁判所の個別判断によります。父又は母の面会交流のなかで祖父母が同席することで実質的に孫と会える状況であれば、補充性が満たされないと判断される可能性があります。
兄弟姉妹(子の兄弟姉妹)にも申立権が認められましたが、未成年の兄弟姉妹は手続上単独で申立てを行うことが難しく、実務上の中心は祖父母からの申立てになると指摘されています。
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| Q | 「子の利益のため特に必要がある」とは、どのような場合ですか? |
| A |
民法766条の2は通常の面会交流(民法766条1項)よりも「特に必要がある」という厳格な要件を課しています。具体的な判断基準は今後の家庭裁判所の運用に委ねられますが、一般には過去の監護実績、祖父母と孫の親密な関係、現在の監護親と子の生活への影響などが考慮されると考えられます。
民法766条1項の通常の面会交流が「子の利益を最も優先して考慮」と規定されているのに対し、766条の2第1項は「子の利益のため特に必要があると認めるとき」と一段重い要件にしています。この差は、父母以外の親族との交流が、父母と子の交流に比べて、当然に認められるものではないことを示しています。 立法担当者や実務家の解説では、過去の祖父母による監護実績の有無や程度、祖父母と孫が形成してきた愛着関係、現在の監護親の意向、孫の年齢や意思等が考慮要素になると説明されています。共働き家庭で祖父母が日常的に保育・送迎を担っていたような事例では、過去の監護実績や愛着関係が認定されやすいといえます。一方、これまで疎遠だった祖父母が、夫婦関係の悪化を契機にはじめて申し立てるようなケースでは、要件のハードルが高くなることが予想されます。
改正法の趣旨として、祖父母等と子との交流は「これまで形成されてきた愛着関係の維持」を目的とするものであり、新たに関係を築くことまでは想定されていないという指摘も実務家からなされています。令和3年最高裁決定が背景に置いていた「父母の応訴負担への配慮」「子の福祉と父母の監護権との調整」といった問題意識は、改正後の「特に必要」要件の解釈にも影響を残す可能性があり、家庭裁判所の運用が比較的厳格になる方向で動くことも見込まれます。
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| Q | 息子(娘)夫婦は離婚しておらず、別居中です。この場合、祖父母はどうすればよいですか? |
| A |
改正民法817条の13は、婚姻中別居の場合の面会交流についても規定を整備し、第5項では祖父母を含む父母以外の親族からの審判申立てを正面から認めています。要件構造は離婚後の場面(766条の2)とほぼ同じで、「子の利益のため特に必要があると認めるとき」に限り家庭裁判所が交流を定める仕組みです。
従来、婚姻中(離婚前)に父母が別居している場合の面会交流については、民法に明確な規定がなく、家裁実務で個別に対応されてきました。改正民法817条の13は、この点をルール化したものです。第1項は、婚姻中別居の場合の面会交流は、まず父母の協議で定めるとし、第2項は、協議が調わないときに父又は母の請求により家庭裁判所が定めるとしています。第3項は、家庭裁判所が父又は母の請求により、いったん定めた内容を変更できると規定しています。 そして第4項が、第2項・第3項の請求を受けた家庭裁判所は、子の利益のため特に必要があると認めるときに限り、父母以外の親族と子との交流を実施する旨を定めることができると規定しています。さらに第5項は、第4項の定めについての第2項・第3項の規定による審判の請求は、父母以外の子の親族(直系尊属・兄弟姉妹は無条件、それ以外は過去に当該子を監護していた者に限る)もすることができると規定し、祖父母等が単独で申立てできることを明文で認めています。ただし、第5項ただし書により、当該親族と子との交流について「他に適当な方法があるとき」は申立てができないという補充性要件は、離婚後の場面と同じです。
【根拠】民法第817条の13第5項:「前項の定めについての第二項又は第三項の規定による審判の請求は、父母以外の子の親族(子の直系尊属及び兄弟姉妹以外の者にあっては、過去に当該子を監護していた者に限る。)もすることができる。ただし、当該親族と子との交流についての定めをするため他に適当な方法があるときは、この限りでない。」
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| Q | 面会交流の申立ては、どこの家庭裁判所に行いますか? |
| A |
家事審判事件の管轄は原則として子の住所地を基準とします。茨城県南部では、守谷市・取手市・牛久市・龍ケ崎市等は水戸家庭裁判所龍ケ崎支部、つくば市・土浦市・つくばみらい市等は水戸家庭裁判所土浦支部、常総市・坂東市等は水戸家庭裁判所下妻支部、千葉県北西部の柏市・流山市・野田市・我孫子市・松戸市は千葉家庭裁判所松戸支部の管轄となります。
家事事件手続法では、子の監護に関する処分の審判事件は、子の住所地を管轄する家庭裁判所の管轄に属するのが原則です。当職が主に対応している茨城県南部・千葉県北西部エリアの管轄を整理すると次のとおりです。
たとえばご相談者(祖父母)が柏市にお住まいで、孫が守谷市にいる場合、申立先は子(孫)の住所地である守谷市を管轄する水戸家庭裁判所龍ケ崎支部となります。逆に祖父母が守谷市で孫が流山市にいるなら、申立先は千葉家庭裁判所松戸支部です。
⚠️ 本記事の管轄区分は令和8年5月時点の情報を基にしています。家事事件の管轄区域は変更の可能性もあり、また個別事案によって特別な管轄ルールが適用される場合もあります。申立て前に裁判所ウェブサイトでご確認いただくか、弁護士にご相談ください。
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| Q | 申立てを検討している祖父母として、準備しておくとよいことはありますか? |
| A |
第1に「他に適当な方法がない」状態を整理すること、第2に「子の利益のため特に必要がある」を裏付ける過去の関わりの記録を整えること、第3に申立てより前にできる父母経由のルートを検討すること、の3点が中心になります。
第1に、補充性要件への準備です。父又は母(子と別居している実子)の面会交流の中で祖父母が同席する形が現実的な選択肢として残っているかどうか、その方法を試みた経緯があるかどうかを整理しておくと、補充性の主張がしやすくなります。実子(孫の父または母)との関係が良好であれば、実子の面会交流の場に祖父母同席を加える協議を先行させる方法は、現行制度のもとでも合理的なルートです。 第2に、「子の利益のため特に必要がある」を裏付ける記録の整理です。過去にどの程度・どの期間、孫の世話に関わってきたか(送迎・宿泊・保育園対応など)を裏付ける資料を可能な範囲で集めておくとよいでしょう。LINEや写真、カレンダー記録、保育園・学校とのやり取りなど、生活実態を示す資料は、過去の監護実績や愛着関係の裏付けとして意味を持ちうる材料です。 第3に、ご自身の状況(息子・娘が離婚済みか別居中か、孫の年齢、これまでの監護関与の度合いなど)によって、取るべきルートは大きく変わります。離婚後の場面なら民法766条の2、婚姻中別居の場面なら民法817条の13と、根拠条文も手続きの組み立て方も異なります。状況を整理したうえでの方針判断は、家事事件の取扱経験がある弁護士に一度ご相談いただくことをおすすめします。
改正法の規定は、附則第2条の定めにより、原則として施行前に生じた事項にも適用されます。令和8年4月1日より前の出来事についても、改正後の規定に基づいて家庭裁判所が判断することになります(ただし、附則に特別の定めがある場合や、改正前民法の規定によりすでに生じた効力を妨げる場合は除く)。
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当職が拠点とする守谷市・取手市・つくばみらい市は、つくばエクスプレス開業以後に都心通勤の共働き世帯が多く転入してきたエリアで、若い夫婦と祖父母世代の住まいが物理的に離れているケースが少なくありません。一方、常総市や牛久市など、もともとの茨城県南部の地域では三世代同居や近居が比較的多く残っており、祖父母が共働き家庭の保育送迎や夕方の預かりを長年担ってきたご家庭もあります。柏市・流山市・我孫子市など千葉県北西部も同様の構図で、世代間の関わり方が地域・家族ごとに大きく異なります。そうした背景があるからこそ、息子夫婦・娘夫婦の関係が悪化したときに「孫と会えない」状況が祖父母にとって深刻な問題として表れやすく、改正民法のもとでは、これまでの監護実績や愛着関係をどう客観的に裏付けるかが一つの鍵になります。
息子(娘)夫婦の別居・離婚にともなって孫と会えなくなったとき、祖父母としてとれる方法は、ご事情によって大きく異なります。状況をお聞きしたうえで、いま打てる選択肢と見通しをご説明します。初回相談は面談またはZOOMで承っております。
📞 050-3623-1320
守谷市・取手市・常総市・つくばみらい市・龍ケ崎市・牛久市・つくば市・土浦市・野田市・我孫子市・柏市・流山市をはじめ、茨城県南部・千葉県北西部の祖父母世代の方々からの面会交流・家事事件に関するご相談もお受けしています。弁護士 吉津和輝(茨城県弁護士会所属)までお気軽にどうぞ。
・e-Gov法令検索(デジタル庁)民法第766条の2・第817条の13
・民法等の一部を改正する法律(法務省)
・最高裁判所第一小法廷令和3年3月29日決定(監護者指定申立事件・民集75巻3号952頁)
・最高裁判所第一小法廷令和3年3月29日決定(面会交流申立事件・裁時1765号4頁)
・裁判所ウェブサイト(管轄裁判所の確認)
・令和8年5月27日:公開
本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別事案への法的アドバイスではありません。具体的なご相談は弁護士にお問い合わせください。本記事の内容は令和8年(2026年)5月時点の情報に基づいています。法律・実務の取り扱いは今後変更される可能性があります。
公開日:令和8年5月27日/最終更新日:令和8年5月27日
