家賃を払わない入居者に出て行ってほしい
— 守谷の賃貸オーナー・大家のための明渡し手続き
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弁護士 吉津和輝(よしつ かずき)
茨城県弁護士会所属/2018年12月弁護士登録(登録から約7年)
主な取扱分野:不動産トラブル・建物明渡し・債権回収・企業法務・契約書 |
| Q | 家賃を滞納している入居者の鍵を勝手に交換してもいいですか。荷物を運び出して締め出したいのですが。 |
| A |
結論として、入居者に無断で鍵を交換したり荷物を運び出したりすることは「自力救済」にあたり、原則として違法と判断されます。たとえ家賃滞納が続いていても、退去させるには裁判所の手続きを経る必要があります。
自力救済とは、裁判などの法的手続きによらず、自分の実力で権利を実現しようとすることをいいます。日本では、紛争の解決は裁判所の関与のもとで行うのが原則とされており、自力救済は基本的に認められていません。 最高裁判所も、私力の行使は原則として法が禁じるものであり、法律の定める手続きによったのでは権利侵害に対抗して現状を維持することが不可能または著しく困難と認められる緊急やむを得ない特別の事情がある場合に、必要な限度でのみ例外的に許されるにすぎない、と判断しています。家賃滞納はこの「例外」にあたらないと考えられています。
【参考判例】最高裁判所第三小法廷 昭和40年12月7日判決(事件番号:昭和38年(オ)第1236号、占有回収等請求事件、民集19巻9号2101頁)
そのため、無断での鍵交換・荷物の搬出・室内への立ち入りなどは、入居者の占有を侵害する違法行為と評価され得ます。下級審の裁判例では、こうした行為について不法行為(民法第709条)にあたるとして、オーナーや管理会社、家賃保証会社に損害賠償の支払いを命じたものが複数あります。行為の態様によっては、住居侵入罪などの刑事責任が問題となる場面もあります。
⚠️ 賃貸借契約書に「滞納があれば賃貸人は鍵を交換できる」といった条項(自力救済条項)が入っていても、こうした特約は公序良俗に反するものとして無効と判断された裁判例があります。契約書に書いてあるからといって、実力での締め出しが適法になるわけではありません。
家賃の回収や明渡しは、感情的に動くと逆にオーナー側がリスクを抱えることになります。遠回りに見えても、法的手続きを早めに始めることが結果的に早期解決につながります。 |
| Q | 何か月滞納したら契約を解除して退去を求められますか。 |
| A |
結論として、明確な月数の基準は法律にはありません。実務では、3か月分程度以上の家賃滞納があると「信頼関係が破壊された」と評価され、契約解除が認められやすいと考えられています。ただし最終的には個別事情で判断されます。
家賃滞納は賃料支払義務の不履行にあたり、契約解除の原因になり得ます。賃貸借契約の解除は、まず相当の期間を定めて支払いを催告し、その期間内に支払いがないときに行うのが原則です(催告解除)。
【根拠】民法(明治29年法律第89号)第541条:「当事者の一方がその債務を履行しない場合において、相手方が相当の期間を定めてその履行の催告をし、その期間内に履行がないときは、相手方は、契約の解除をすることができる。ただし、その期間を経過した時における債務の不履行がその契約及び取引上の社会通念に照らして軽微であるときは、この限りでない。」
もっとも、賃貸借のような継続的な契約では、債務不履行があるというだけでは解除は認められず、当事者間の信頼関係を破壊する程度に至っていることが必要と考えられています(信頼関係破壊の法理)。家賃滞納の月数・期間、入居者の対応、滞納に至った経緯などを総合的に見て、解除できるかを判断することになります。 逆にいえば、1か月程度の滞納では、原則として信頼関係が破壊されたとはいえず、解除は認められにくいと考えられています。契約書に「滞納があれば無催告で解除できる」という特約があっても、わずかな滞納で無催告解除をすることは原則として認められません。
解除の意思表示は理屈上は口頭でも可能ですが、後の裁判で「いつ・どのような内容で催告・解除したか」を立証できるよう、配達証明付きの内容証明郵便を用いるのが実務上一般的です。
「3か月」はあくまで目安です。利用状況や過去の滞納歴など事情によって結論は変わり得るため、解除に踏み切るタイミングは個別に検討することをおすすめします。 |
| Q | 退去させるまでの手続きはどんな流れになりますか。 |
| A |
結論として、おおまかには「催告・契約解除 → 建物明渡訴訟 → 強制執行」という3つの段階を踏みます。任意に退去してもらえれば訴訟や強制執行は不要になります。
家賃滞納による建物明渡しは、次のような段階で進みます。各段階のどこかで入居者が任意に退去すれば、その先の手続きは不要になります。
— 家賃滞納による建物明渡しの3段階 —
第1段階の催告・契約解除では、相当の期間を定めて滞納家賃の支払いを求め、それでも支払いがなければ契約を解除します。Q2で述べたとおり、証拠を残すため内容証明郵便を用いるのが一般的です。 第2段階の建物明渡訴訟では、契約解除を理由に建物の明渡しを請求します。滞納家賃や、解除後の明渡しまでの賃料相当損害金も併せて請求するのが通常です。連帯保証人がついている場合は、保証人に対しても請求を検討します。入居者が裁判で争わなければ、訴状提出から比較的短期間で明渡しを命じる判決が出ることもあります。 第3段階の強制執行では、判決などの債務名義に基づき、裁判所の執行官に明渡しの強制執行を申し立てます。建物明渡しの強制執行は、執行官が債務者の占有を解いて債権者に占有を取得させる方法で行われ、実務上は「明渡しの催告」と「断行」の2段階で進むのが一般的です。
【根拠】民事執行法(昭和54年法律第4号)第168条第1項:不動産等の引渡し又は明渡しの強制執行は、執行官が債務者の不動産等に対する占有を解いて債権者にその占有を取得させる方法により行う旨を定めています。
入居者の占有を第三者に移されると強制執行ができなくなるおそれがある場合には、訴訟提起の前後に「占有移転禁止の仮処分」という保全手続きを検討することがあります。これにより、訴訟中に占有者が入れ替わっても、判決に基づいて明渡しの強制執行ができるようになります。 なお、判決前の段階でも、入居者が任意に退去し滞納の解消や明渡しに応じる内容で裁判上の和解が成立することは少なくありません。和解で解決すれば、強制執行の費用や手間を抑えられる場合があります。 |
| Q | 守谷市内の物件だと、どの裁判所に訴えることになりますか。 |
| A |
結論として、建物明渡訴訟は物件の所在地を管轄する裁判所に提起することができます。建物明渡しは「不動産に関する訴訟」にあたるため、訴額が140万円以下であっても、地方裁判所に提起することができます。守谷市内の物件であれば、地方裁判所は水戸地方裁判所龍ケ崎支部、簡易裁判所は取手簡易裁判所です。
訴えは、被告となる入居者の住所地を管轄する裁判所に提起できるのが原則です。これに加えて、不動産に関する訴えは、その不動産の所在地を管轄する裁判所にも提起できるとされています。建物明渡訴訟もこれにあたるため、物件所在地の裁判所に提起することができます。家賃滞納の事案では、入居者がその物件に居住していることが多く、その場合は住所地と物件所在地が一致します。
【根拠】民事訴訟法(平成8年法律第109号)第5条第12号は、不動産に関する訴えについて、不動産の所在地を管轄する裁判所に提起することができる旨を定めています。
地方裁判所と簡易裁判所のどちらになるかは、原則として訴額(請求する経済的利益の額)で分かれ、訴額が140万円を超える事件は地方裁判所、140万円以下の事件は簡易裁判所の管轄です。建物明渡しでは建物の価額をもとに訴額を算定するため、計算の結果140万円以下になることもあります。 ただし、建物明渡訴訟のような「不動産に関する訴訟」には特則があります。訴額が140万円以下であっても、簡易裁判所だけでなく地方裁判所にも提起できるとされており、どちらに提起するかを選べます。
【根拠】裁判所法(昭和22年法律第59号)第24条第1号は、地方裁判所が「不動産に関する訴訟」について、訴額が140万円を超えない請求であっても第一審の裁判権を有する旨を定めています。建物の引渡し・明渡しを求める訴訟はこの「不動産に関する訴訟」に含まれます。
建物明渡しは強制執行まで見据えた手続きになり得るため、訴額が140万円以下の事案でも、あえて地方裁判所を選ぶという判断があり得ます。なお、簡易裁判所に提起した不動産に関する訴訟について、被告が本案の弁論をする前に地方裁判所への移送を申し立てた場合、簡易裁判所はその事件を地方裁判所に移送することになります。
守谷市は、水戸地方裁判所・水戸家庭裁判所では龍ケ崎支部の管轄区域に含まれます。一方、簡易裁判所については、守谷市・取手市・北相馬郡利根町は取手簡易裁判所の管轄です(龍ケ崎簡易裁判所ではない点に注意が必要です)。
TX沿線・常磐線沿線の近隣エリアでは管轄が分かれます。取手市の物件も守谷市と同じく水戸地裁龍ケ崎支部・取手簡裁の管轄ですが、常総市は水戸地裁下妻支部・下妻簡易裁判所、つくばみらい市・つくば市は水戸地裁土浦支部・土浦簡易裁判所の管轄区域です。どの裁判所になるかは物件の所在地ごとに確認が必要です。 守谷市・つくばみらい市・常総市はTXや常磐線の沿線開発で賃貸物件が多いエリアで、入居者の入れ替わりも活発です。複数の市にまたがって物件をお持ちの場合、訴訟ごとに管轄裁判所が異なることがあるため、提訴前の確認が重要になります。 |
| Q | 解決までどのくらい時間と費用がかかりますか。 |
| A |
結論として、期間も費用も事案により幅があります。入居者が争わない事案では訴訟提起から判決まで数か月程度のこともありますが、争われたり強制執行まで進んだりすると、より長くなります。
期間については、入居者が裁判で争うかどうかで大きく変わります。入居者が出頭せず争わない事案では、訴状提出から判決まで2か月程度で進むこともあります。一方、入居者が弁護士をつけて争う場合や、判決後も退去せず強制執行が必要になる場合は、解決まで半年以上かかることもあります。 費用については、主に次のようなものがかかります。いずれも事案や物件の規模によって変動します。
・裁判所に納める印紙代・郵券(切手)代
・占有移転禁止の仮処分を行う場合の担保金(保証金)。裁判所の判断で供託が求められ、勝訴確定後などに取り戻せます ・強制執行まで進んだ場合の予納金や、荷物の搬出・保管にかかる費用 ・弁護士に依頼する場合の弁護士費用 強制執行では、室内に残された荷物の搬出・保管・処分の費用がオーナー側の負担になることがあり、規模によってはまとまった金額になります。裁判上の和解で「入居者が残置物の所有権を放棄して明け渡す」といった内容にできれば、こうした費用を抑えられる場合があります。
⚠️ 滞納家賃や賃料相当損害金について判決を得ても、入居者に資力がなければ実際の回収は難しい場面があります。明渡しと金銭回収は別の問題として、回収の見込みも含めて方針を検討する必要があります。
具体的な費用は、物件の規模・滞納額・連帯保証人や家賃保証会社の有無などによって異なります。ご相談の際に、見通しと費用の目安を個別にご説明します。 |
| Q | 入居者が夜逃げして連絡がつきません。荷物だけ残っています。処分していいですか。 |
| A |
結論として、連絡がつかなくても、入居者の荷物を勝手に処分することは原則として認められません。室内に荷物が残っているうちは、その入居者の占有が続いていると評価され得るためです。
入居者と連絡がつかず、長期間不在のように見えても、室内に家財が残っている状態では、入居者がその建物を占有していると評価されることがあります。この状態でオーナーが無断で室内に立ち入り荷物を処分すれば、Q1で述べた違法な自力救済と判断されるおそれがあります。 「無断で1か月以上不在のときは契約を解除でき、残置物を処分できる」といった条項が契約書にあっても、それだけで無断処分が適法になるわけではありません。実際に、こうした条項に基づいて家財を搬出・処分した行為が違法な自力救済とされた裁判例があります。 入居者が行方不明で訴状を直接届けられない場合でも、訴訟自体は進められる仕組みがあります。所在の調査を行ったうえで、最終的には「公示送達」という方法で訴訟手続きを進め、判決を得て強制執行で明渡しと残置物の処理を行うのが、適法かつ確実な進め方です。
夜逃げが疑われる場合でも、まずは室内の状況や郵便物の状況などを記録し、入居者の所在調査を行うことが出発点になります。自分で処分してしまう前に、早めに弁護士へご相談ください。
行方不明の入居者への対応は、通常の明渡しより手続きが複雑になりがちです。連絡が取れなくなった段階で方針を相談しておくと、その後の進め方を整理しやすくなります。 |
守谷市はつくばエクスプレス開業以降、子育て世帯を中心に人口が伸び、アパート・マンションの供給も増えました。一方で、入居者の入れ替わりが活発なエリアでは、家賃滞納や、滞納したまま連絡が取れなくなる事案も起こり得ます。守谷・取手・つくばみらい・常総といったエリアで賃貸物件をお持ちの大家・オーナーの方は、滞納が長期化する前の段階で、解除や明渡しの方針を整理しておくことをおすすめします。
家賃滞納・建物明渡しは、対応が遅れるほど滞納額がふくらみ、空室にして貸し直すこともできません。鍵交換などの実力行使はかえって大家側のリスクになります。状況をお聞きしたうえで、解除のタイミングや手続きの見通しをご説明します。賃貸物件のオーナー・大家の方は、お気軽にご相談ください。
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裁判例検索(最高裁判所第三小法廷 昭和40年12月7日判決・占有回収等請求事件/事件番号 昭和38年(オ)第1236号・民集19巻9号2101頁)
・裁判所ウェブサイト 茨城県内の管轄区域表
2026年5月19日 記事を公開
本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別事案への法的アドバイスではありません。具体的なご相談は弁護士にお問い合わせください。なお、本記事の内容は令和8年(2026年)5月時点の情報に基づいています。法律・実務の取り扱いは今後変更される可能性があります。
公開日:2026年5月19日|最終更新日:2026年5月19日
