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試用期間中の本採用拒否が解雇無効と判断される境界線 — 茨城の中小企業向け

YOSHITSU LAW · COLUMN

試用期間中の本採用拒否が
解雇無効と判断される境界線
— 茨城の中小企業向け

三菱樹脂事件から読み解く実務の境界線
弁護士 吉津和輝 / 茨城県弁護士会所属
弁護士 吉津和輝(よしつ かずき)
茨城県弁護士会所属(登録番号57714)/2018年12月弁護士登録
主な取扱分野:企業法務・顧問弁護士・労務(使用者側)・就業規則整備・人事労務トラブル対応
中小企業経営者の方へ。「試用期間中なら辞めさせやすい」とよく耳にしますが、実際の裁判例の積み重ねを見ると、本採用拒否が無効と判断されるケースは少なくありません。本記事では、最高裁の三菱樹脂事件を出発点に、本採用拒否が認められる典型と、否定される典型を整理してご説明します。茨城県南部の中小企業の運用実態を踏まえた解説です。
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弁護士 吉津和輝(茨城県弁護士会所属)/〒302-0128 茨城県守谷市けやき台3-28-7
Q 試用期間中なら自由に本採用拒否できますか?
A
自由ではありません。「通常の解雇より広い範囲の自由」はあるものの、客観的に合理的な理由と社会通念上の相当性が要求されます。

試用期間中の労働契約は、最高裁が「解約権留保付労働契約」と位置づけています。会社は試用期間中に労働者の適格性を見極め、不適格と判断したら留保している解約権を行使できる、という構造です。

ただし、ここでいう解約権の行使は無制限ではありません。最高裁大法廷の三菱樹脂事件判決は、解約権留保の趣旨・目的に照らして、客観的に合理的な理由が存し社会通念上相当として是認されうる場合に限って認められるとしました。「広い範囲の自由」は、あくまで通常の解雇との比較で広いという意味であり、「無条件」ではないことに注意が必要です。

【根拠判例】三菱樹脂事件・最高裁大法廷判決 昭和48年12月12日
「留保解約権に基づく解雇は、これを通常の解雇と全く同一に論ずることはできず、前者については、後者の場合よりも広い範囲における解雇の自由が認められてしかるべきものといわなければならない」「留保解約権の行使は、上述した解約権留保の趣旨、目的に照らして、客観的に合理的な理由が存し社会通念上相当として是認されうる場合にのみ許される」
【根拠条文】労働契約法(平成19年法律第128号)第16条
「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする」
Q 本採用拒否が認められやすい理由は何ですか?
A
採用時には判明していなかった事実が試用期間中に明らかになり、引き続き雇用することが適当でないと客観的に評価できる場合です。

三菱樹脂事件判決は、留保解約権の趣旨を「採用当初は、その資質・性格・能力その他いわゆる管理職要員としての適格性などを判定する資料を十分に蒐集することができないため、後日における調査や観察に基づく最終的決定を留保する趣旨」と説明しています。

これを踏まえると、本採用拒否が認められやすい典型は次のような場合です:

  • 経歴詐称が発覚した(学歴・職歴・資格についての事実と異なる申告)
  • 採用時には伝えられていなかった重大な健康上の問題が判明し、業務遂行に支障がある
  • 試用期間中の勤務態度・能力に重大な問題があり、改善指導を行ったが改善されない
  • 業務上の指示に従わない、無断欠勤を繰り返す等の規律違反

重要なのは「採用時に知り得たか、それとも試用期間中に初めて判明したか」という点です。面接で確認できたはずの事情を理由にすると、通常の解雇基準で厳しく判断されることになり、本採用拒否は無効と判断されやすくなります。

Q 「採ってみたら合わなかった」は理由になりますか?
A
抽象的な「合わない」だけでは理由になりません。具体的な事実と、それに対する指導・改善機会の提供が必要です。

裁判で本採用拒否が無効と判断される典型的なパターンは、会社側が「思っていた人材ではなかった」「社風に合わない」「コミュニケーションが取りづらい」といった抽象的な評価しか示せず、客観的な事実の積み重ねを提示できなかったケースです。

裁判所が確認するのは、おおむね次の3点です:

1
問題事実の特定
試用期間中の問題行動・能力不足を具体的に特定できているか
2
指導機会の提供
会社が改善のための指導・教育機会を提供したか
3
改善経過の確認
それでも改善が見られなかった経過があるか

「合わない」「やる気がない」「協調性がない」といった主観的評価は、それを裏付ける具体的な事実・記録がなければ、本採用拒否の合理的理由とは認められません。中小企業では、試用期間中に明確な業務指示や評価記録がないまま「やはり厳しい」と判断するケースが見られますが、これは紛争化のリスクを高めます。

Q 試用期間中なら解雇予告は不要ですか?
A
入社後14日を超えると、試用期間中であっても解雇予告(30日前予告または30日分以上の予告手当)が必要になります。

労働基準法第21条但書第4号は、試用期間中の労働者であっても、入社から14日を超えて引き続き使用された場合には、解雇予告除外の対象から外れる旨を定めています。

【根拠条文】労働基準法(昭和22年法律第49号)第21条
「前条の規定は、左の各号の一に該当する労働者については適用しない。但し、……第四号に該当する者が十四日を超えて引き続き使用されるに至つた場合においては、この限りでない。……四 試の使用期間中の者」

ここでいう「14日」は、就業規則上の試用期間の長さに関係なく、入社後の経過日数で計算されます(昭和24年5月14日基収第1498号通達)。たとえば就業規則で試用期間を3か月と定めていても、入社15日目以降は通常の労働者と同様に労働基準法第20条の解雇予告手続が必要です。

なお、解雇予告を欠いた解雇でも、判例上、即時解雇としては効力を生じないが、使用者が即時解雇に固執する趣旨でない限り、通知後30日の経過または通知後の予告手当の支払いがあれば、そのいずれかのときから解雇の効力が生じるとされています(細谷服装事件・最二小判昭和35年3月11日民集14巻3号403頁)。ただし、これは「予告手続を怠っても結局解雇できる」という意味ではなく、解雇予告手当の支払い義務自体は残ります。

また、解雇予告手当の支払いと、本採用拒否そのものの有効性(労契法16条・三菱樹脂事件の基準)はまったく別の問題です。予告手当を払えば本採用拒否が当然に有効になるわけではありません。

本採用拒否ではなく退職勧奨で円満退職を目指す進め方については、別記事の「問題社員に退職勧奨するときの面談記録の残し方」もあわせてご参照ください。

Q 試用期間中にやっておくべき記録は何ですか?
A
①問題行動の具体的な事実、②それに対する指導の内容と日時、③改善が見られなかった経過、の3点です。

本採用拒否を争われた場合、客観的に合理的な理由があったことの立証は会社側の責任となります。「日々の様子を見ていれば分かる」というレベルの感覚的判断は、裁判で証拠として評価されにくくなります。記録がない出来事は、後で争点になったときに、会社側の主張を裏付ける材料が乏しくなりがちです。

実務的に最低限残しておくと有用な記録は次のとおりです:

  • 試用期間開始時の業務指示書・到達目標
  • 月次・週次の業務評価記録(数値・具体的事実中心)
  • 問題行動が発生した日時と内容のメモ
  • 上司から本人に対する指導・面談の記録(日時・参加者・内容・本人の反応)
  • 改善期限を区切った改善指示(書面で渡すと確実)
  • 本人からの返信・改善状況の経過

これらは「本採用拒否のための材料集め」というよりも、本人にも改善のチャンスを公平に与えるためのプロセスとして位置づけるのが実務的です。手続きが透明で誠実であるほど、紛争化のリスクは下がります。

Q 試用期間を延長して様子を見ることはできますか?
A
就業規則に延長条項があり、合理的な理由があれば延長できる場合があります。ただし、安易な延長は労働者に不利益を与えるため慎重に運用すべきです。

試用期間の延長は、就業規則に延長の根拠規定があり、かつ延長に合理的な理由がある場合に認められうるとされています。たとえば「適格性の判断に時間を要する場合、3か月を限度として試用期間を延長することがある」といった条項です。

しかし、延長を多用することにはリスクがあります:

  • 就業規則に延長条項がないまま延長すると、根拠を欠く措置として無効になりやすい
  • 延長理由が抽象的だと「会社が判断を先送りしただけ」と評価される
  • 何度も延長すると、試用期間制度そのものが形骸化していると判断されかねない
⚠️ 合理的な期間を超えた長期の試用期間は、公序良俗(民法90条)に反し無効とされた裁判例があります。延長期間は合理的な範囲にとどめるべきとされ、当初の試用期間を大幅に超える延長は、争われた場合にリスクが高くなります。

延長を選ぶ場合は、(a)就業規則の延長条項を確認し、(b)延長理由を書面で本人に通知し、(c)延長期間中の評価項目を明確にする、という3点を実務的に守るのが穏当です。延長すれば自動的に本採用拒否が容易になるわけではありません。

地域の実情:茨城県南部の中小企業の試用期間運用

守谷・取手・常総・つくばみらい・牛久・龍ケ崎・つくばといったTX沿線および常磐線沿線エリアでは、製造業・物流・小売・介護等の現場で、試用期間中の本採用拒否を巡る相談が一定数あります。中小企業では、人事評価制度が形式化されておらず、「日々の様子を見て判断する」という運用が一般的です。一方で、近年は労働組合への加入や弁護士相談を通じて、本人側から本採用拒否の有効性を争うケースも増えています。試用期間制度を機能させるには、就業規則の試用期間条項の整備と、試用期間中の評価記録の習慣化が現実的な対策です。

CONTACT

試用期間中の本採用拒否、解雇予告の手続き、就業規則の試用期間条項整備など、企業の労務トラブルに関するご相談を承っています。状況をお聞きしたうえで、本採用拒否を検討すべきか、別の対応(指導継続・配置転換等)が現実的かを含めて、ケースに応じた方針をご説明します。初回相談は面談またはZOOMでの対応となります。

弁護士 吉津和輝
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2026年5月15日:公開

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本記事は一般的な情報提供を目的とするものであり、個別具体的な事案への法的助言を行うものではありません。実際の判断にあたっては、必ず弁護士にご相談ください。