合意なき共同親権は可能か
「合意なき共同親権」は可能か — 審判・訴訟での裁判所の判断枠組み(民法819条5項・7項)
主な取扱分野:家族法(離婚・親権・面会交流)、相続、刑事弁護、企業法務
令和8年4月1日に施行された改正民法により、離婚後の親権について、父母双方を親権者とする「共同親権」を選択できる制度が導入されました。父母の合意が形成されない場合に、家庭裁判所が「合意なき共同親権」を認める余地はあるのでしょうか。本記事では、家事調停・審判・離婚訴訟で裁判所が判断する枠組みを、民法第819条第5項の審判フローと同条第7項の総合考慮・必要的単独親権事由の二段構造から、法務省Q&A資料を踏まえ、守谷市・取手市・つくばみらい市・常総市など茨城県南部・千葉県北西部の地域実情を含めて、茨城県弁護士会所属の弁護士が中立に解説します。
改正民法により、協議離婚の際は、父母の協議でその双方又は一方を親権者と定めることになりました(民法第819条第1項)。協議離婚の場合、親権者についての合意がなければ離婚届は受理されません(民法第765条第1項第2号)。もっとも、改正法では、親権者の指定を求める家事審判又は家事調停の申立てがされていることを認めた上で、親権者を定めないまま離婚届を受理することも可能となっています(同号)。
協議が調わないとき又は協議をすることができないときは、家庭裁判所が、父又は母の請求によって、協議に代わる審判をすることができます(民法第819条第5項)。親権者の指定は家事事件手続法上の別表第二事件(同表第八項)に当たり、調停と審判のいずれも申立てが可能です。もっとも、別表第二事件については、いきなり審判を申し立てた場合でも家庭裁判所が職権で調停に付することができ(同法第274条第1項、付調停)、実務上は、まず家事調停で話し合いを試み、調停で合意に至らなかった場合に審判に移行する流れが一般的です。
第1項、第3項又は前項の協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、家庭裁判所は、父又は母の請求によって、協議に代わる審判をすることができる。
民法第819条第7項は、家庭裁判所が父母の双方を親権者と定めるかその一方を親権者と定めるかを判断する際の枠組みを定めています。前段で「総合考慮」の枠組みを示し、後段で「必要的単独親権事由」を規定する二段構造となっています。
裁判所は、第2項又は前二項の裁判において、父母の双方を親権者と定めるかその一方を親権者と定めるかを判断するに当たっては、子の利益のため、父母と子との関係、父と母との関係その他一切の事情を考慮しなければならない。
条文に明示された考慮要素は、(1)子の利益、(2)父母と子との関係、(3)父と母との関係、(4)その他一切の事情の4つです。法務省が令和7年6月30日に取りまとめたQ&A形式の解説資料(民法編)は、この点について、裁判所は、子の利益のため、父母と子の関係、父と母との関係その他一切の事情を考慮して実質的・総合的に判断すべきこととしている、としています。同資料は、特に父母の意見対立が見られる場合について、父母の協議が調わない理由等の事情を考慮して、父母が共同して親権を行うことが困難であるかという観点からも検討されることとなる、と整理しています。
具体的にどのような事情が考慮されるかについて、立法経緯及び法務省Q&A資料の整理を踏まえると、おおむね次のような事項が想定されます。
これらは個別の事案ごとに比重が異なり、特定の要素だけで結論が決まるわけではありません。家庭裁判所は、これら全体を総合的に評価したうえで、子の利益にとって共同親権と単独親権のいずれが適切かを判断します。
民法第819条第7項後段は、総合考慮の例外として、家庭裁判所が必ず単独親権としなければならない事由を規定しています。これを「必要的単独親権事由」と呼びます。
この場合において、次の各号のいずれかに該当するときその他の父母の双方を親権者と定めることにより子の利益を害すると認められるときは、父母の一方を親権者と定めなければならない。
一 父又は母が子の心身に害悪を及ぼすおそれがあると認められるとき。
二 父母の一方が他の一方から身体に対する暴力その他の心身に有害な影響を及ぼす言動(次項において「暴力等」という。)を受けるおそれの有無、第1項、第3項又は第4項の協議が調わない理由その他の事情を考慮して、父母が共同して親権を行うことが困難であると認められるとき。
第1号は、子に対する虐待等が問題となる場面です。第2号は、父母間の関係性に着目したもので、DVや、その他の事情により共同行使が困難な場合を対象としています。法務省Q&A資料は、第2号の「身体に対する暴力その他の心身に有害な影響を及ぼす言動」について重要な解釈を示しています。
新民法第819条第7項第2号は、父母の一方が他の一方から身体に対する暴力その他の心身に有害な影響を及ぼす言動を受けるおそれの有無のほか、父母間に協議が調わない理由その他の事情を考慮して、「父母が共同して親権を行うことが困難と認められるとき」に、裁判所が必ず単独親権としなければならないこととしている。したがって、身体的DVだけでなく、精神的DV、経済的DV、性的DV等によって、父母が互いに話し合うことができない状態にある場合等、親権の共同行使が困難な場合も、この要件に当てはまることがあると考えられるとされています。
つまり、第7項第2号の「暴力等」は身体的な暴力に限られず、精神的DV(モラルハラスメント、暴言、人格否定等)、経済的DV(生活費を渡さない、経済的支配等)、性的DV(性的同意のない行為、性的強要等)も含まれ得ます。
また、法務省Q&A資料は、第7項第1号及び第2号は例示であり、これらに該当しない場合でも、裁判所は「父母の双方を親権者と定めることにより子の利益を害すると認められるとき」は、単独親権者としなければならない、としています。さらに、このような事情がない場合でも、裁判所は、子の利益のため、単独親権の定めをすることができるとされています。
この点について、法務省Q&A資料は重要な整理を示しています。
合意が形成されていないことのみをもって一律に単独親権とすることは、子の利益に反する結果となりかねない。そのため、新民法第819条第7項は、裁判所は、単独親権とするか共同親権とするかの判断に当たっては、子の利益のため、父母と子の関係、父と母との関係その他一切の事情を考慮して実質的・総合的に判断すべきこととしている。この際には、父母の協議が調わない理由等の事情を考慮して、父母が共同して親権を行うことが困難であるかという観点からも検討されることとなる、とされています。
つまり、「片方の親が反対している」という事実そのものは結論を直接決定するものではなく、その反対の背景にどのような事情があるか(DVへの不安なのか、養育方針の対立なのか、生活拠点の遠さなのか等)が検討されることになります。
同資料はあわせて、裁判所の調停手続においては、父母の葛藤を低下させ、子の利益に目を向けてもらうための取組も実施されており、高葛藤であったり、容易に合意ができない状態にあったりした父母であっても、調停手続の過程で感情的な対立が解消され、親権の共同行使に向けた合意形成に至るケースもあり得ると整理しています。
したがって、父母の一方が共同親権に反対している場合、その反対の理由が次のいずれに該当するかが重要な分岐点となります。
離婚に関する事件は、調停前置主義により、原則としてまず家事調停を経ることが求められます(家事事件手続法第257条第1項)。調停で離婚そのものまたは親権者の指定について合意に至らない場合、調停は不成立となり、離婚を求める当事者は人事訴訟(離婚訴訟)を提起することになります。
裁判上の離婚の場合には、裁判所は、父母の双方又は一方を親権者と定める。
離婚訴訟における親権者の指定は、家事事件手続法上の家事審判の対象となる事項のうち離婚に伴って判断される事項として、人事訴訟法上、裁判所が職権で判断しなければならない事項とされています。当事者の申立てがなくても裁判所は親権者を定めなければなりません。
離婚訴訟では、子の監護に関する処分(親子交流や養育費等)、財産分与、年金分割等について、当事者の申立てに基づいて裁判所が判断する「附帯処分」の制度があります(人事訴訟法第32条第1項)。親権者の指定は同項の附帯処分には含まれず、同条第3項に基づき裁判所が判断する事項です。離婚判決をする際には、当事者の申立てがなくても裁判所が職権で親権者を定めなければなりません。実務上は、当事者から「親権者を自身に指定するよう求める」「父母双方を親権者と定めるよう求める」といった主張がなされ、裁判所はこれを参考に職権を行使します(職権発動を促す主張)。
離婚訴訟においても、親権者を共同親権とするか単独親権とするかの判断基準は、民法第819条第7項に定める総合考慮(前段)と必要的単独親権事由(後段)の二段構造に従います。家事審判で同条が適用される場面と判断枠組みは共通です。
離婚訴訟の中で「合意なき共同親権」を裁判所に認めさせるには、民法第819条第7項前段の総合考慮の枠組みにおいて、(1)父母と子との関係、(2)父と母との関係、(3)その他一切の事情について、共同親権が子の利益に資することを基礎づける主張・立証を行うことになります。同時に、第7項後段(特に第2号)に該当する事情がないことも、相手方の主張に応じて反論していく必要があります。
家事審判(民法第819条第5項)と離婚訴訟(同条第2項)は、いずれも家庭裁判所が親権者を定める手続ですが、その入口と性質が異なります。実務的には、次の3つの場面に分けて整理するとわかりやすいです。
場面Bで離婚訴訟を提起できるのは、民法第770条第1項各号の離婚事由(不貞行為、悪意の遺棄、3年以上の生死不明、その他婚姻を継続し難い重大な事由)が認められる場合に限られます。離婚自体は相手方が合意している場合、訴訟を提起しても請求認容判決にならず、訴訟ルートを取る実益は通常ありません。
改正前は、親権者を協議で定めなければ離婚届は受理されませんでした。改正法では、親権者の指定を求める家事審判又は家事調停の申立てがされていることを認めれば、離婚届を先行受理できるルートが新設されました(民法第765条第1項第2号)。これにより、離婚自体は早期に成立させたいが親権者の指定で時間がかかりそうな場合に、離婚と親権者指定の手続を分離して進めることが可能になっています。
ただし、利用にあたっては手続上の制約も設けられているため、事前に弁護士にご相談されることをお勧めします。
このように、調停・審判・訴訟のいずれのルートを取るかは、離婚自体の争いの有無、離婚事由の存在、当事者の事情の急迫性等を総合的に踏まえて選択します。判断基準として適用されるのはいずれのルートでも民法第819条第7項であり、結論の傾向は手続の種類によって変わるものではありません。
場面Aは「離婚自体について真に合意があり、親権者の指定だけが残った争点」という限定的な場面です。実務上多いのは、「離婚すること自体には異論はないが、養育費・財産分与・親子交流などの条件が決まらないなら離婚に応じない」というケースです。この場合、表面的には離婚に合意しているように見えても、条件次第で離婚を撤回するスタンスをとっている以上、離婚自体について実質的に合意がない状態と評価されます。
その結果、家事調停(離婚調停)が不成立となれば、離婚を求める当事者は離婚訴訟(場面B)を提起することになります。離婚訴訟においては、養育費・財産分与・年金分割等は附帯処分(人事訴訟法第32条第1項)として、親権者の指定は同条第3項に基づき職権で、それぞれ判決と同時に判断されることとなります。
逆に、養育費・財産分与等の離婚条件全般について真に合意ができており、親権者の指定だけが残った争点である場合は、場面Aとして家事調停・親権者指定の家事審判で解決を図ることになります。
家事事件手続法第167条は、親権に関する審判事件は、子の住所地を管轄する家庭裁判所の管轄に属すると規定しています。父・母の住所地は管轄に含まれず、もっとも、実務上、子はいずれかの父母と同居していますので、結果的に子と同居している親の住所地を管轄する裁判所が窓口となるケースが多いといえます。
親権に関する審判事件は、子(父又は母を同じくする数人の子についての親権者の指定若しくは変更、親権行使者の指定又は第三者が子に与えた財産の管理に関する処分の申立てに係るものにあっては、そのうちの一人)の住所地を管轄する家庭裁判所の管轄に属する。
離婚調停と併せて親権者の指定について話し合う場合は、家事調停の管轄により、相手方の住所地を管轄する家庭裁判所、又は当事者が合意で定めた家庭裁判所に申し立てます(家事事件手続法第245条第1項)。
離婚訴訟と併せて争う場合は、人事訴訟の管轄に従い、当事者の普通裁判籍の所在地を管轄する家庭裁判所に提起します(人事訴訟法第4条第1項)。
・水戸家庭裁判所龍ケ崎支部:守谷市・取手市・龍ケ崎市・牛久市・稲敷市・稲敷郡河内町・北相馬郡利根町
・水戸家庭裁判所土浦支部:つくばみらい市・つくば市・土浦市・かすみがうら市・石岡市・稲敷郡阿見町・美浦村・小美玉市(旧玉里村)
・水戸家庭裁判所下妻支部:常総市・下妻市・坂東市・結城市・筑西市・古河市・結城郡八千代町・猿島郡五霞町・境町・桜川市(旧岩瀬町を除く)
※具体的な管轄は、申立て前に裁判所ウェブサイトで必ず再確認してください。
なお、子が千葉県内(柏市・我孫子市・野田市など)に住んでいる場合は、千葉家庭裁判所松戸支部又は千葉家庭裁判所が管轄となるケースがあります。離婚調停を経由する場合と、親権者指定単独で申し立てる場合とで管轄基準が異なる点にも注意が必要です。
令和6年改正法は遡及適用されないため、施行日(令和8年4月1日)前に離婚しているご家庭では、その時点では単独親権の制度しかありませんでしたので、現在も単独親権者が定められた状態となっています。改正法の施行によって自動的に共同親権に切り替わることはありません。
もっとも、施行日後は、子の利益のため必要があると認められるときに、家庭裁判所への親権者変更の申立てが可能です。
子の利益のため必要があると認めるときは、家庭裁判所は、子又はその親族の請求によって、親権者を変更することができる。
親権者変更の判断は、第7項の枠組み(前段の総合考慮・後段の必要的単独親権事由)によります。さらに、改正法は、協議離婚により定められた親権者を変更する場合の特別な考慮要素として、第8項を新設しています。
第6項の場合において、家庭裁判所は、父母の協議により定められた親権者を変更することが子の利益のため必要であるか否かを判断するに当たっては、当該協議の経過、その後の事情の変更その他の事情を考慮するものとする。この場合において、当該協議の経過を考慮するに当たっては、父母の一方から他の一方への暴力等の有無、家事事件手続法による調停の有無又は裁判外紛争解決手続(裁判外紛争解決手続の利用の促進に関する法律(平成16年法律第151号)第1条に規定する裁判外紛争解決手続をいう。)の利用の有無、協議の結果についての公正証書の作成の有無その他の事情をも勘案するものとする。
つまり、第8項により、離婚時の協議の経過(DV等の有無、調停・ADRの利用、公正証書化の有無等)が変更判断の考慮要素として明記されています。離婚時の合意プロセスの公正さが、後の変更判断にも反映される枠組みです。
親権者変更については、別途詳しく解説した記事もありますので、あわせてご参照ください。
つくばエクスプレス沿線は、東京方面への通勤と地元での子育てを両立する世帯が多いエリアです。離婚時に父母の生活拠点が大きく離れるケース(例えば、一方が東京都内に転居し、他方が地元に残る等)も少なくなく、共同親権を選択するか単独親権とするかの判断にあたっては、生活拠点の地理的関係や、子の進学・医療等に関する重要事項を父母でどのように協議していくかが、現実的な検討課題となります。協議が調わない場合の家裁手続も、子の住所地によって申立先が異なります。離婚に伴う親権の協議でお悩みの方は、早い段階で弁護士にご相談ください。
協議離婚で親権の話し合いがつかず、家庭裁判所での手続を検討されている方、「合意なき共同親権」が認められるかどうかでお悩みの方は、状況をお聞きした上で、家裁の判断枠組みに照らした見通しをご説明します。守谷・取手・つくばみらい・常総をはじめとする茨城県南部・千葉県北西部の方からのご相談を承っています。
📞 050-3623-1320
守谷市・取手市・常総市・つくばみらい市・龍ケ崎市・牛久市・つくば市・土浦市・野田市・我孫子市・北柏をはじめ、茨城県南部・千葉県北西部における離婚・親権・面会交流・養育費に関するご相談をお受けしています。弁護士 吉津和輝(茨城県弁護士会所属)までお気軽にどうぞ。
・民法(明治29年法律第89号)|e-Gov法令検索(デジタル庁)
・家事事件手続法(平成23年法律第52号)|e-Gov法令検索(デジタル庁)
・Q&A形式の解説資料(民法編)|法務省(令和7年6月30日取りまとめ、令和8年3月23日最新改訂)
・民法等の一部を改正する法律(父母の離婚後等の子の養育に関する見直し)について|法務省
・裁判所ウェブサイト(管轄の確認)
2026年5月9日:初版公開
本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別事案への法的アドバイスではありません。具体的なご相談は弁護士にお問い合わせください。なお、本記事の内容は令和8年(2026年)5月時点の情報に基づいています。法律・実務の取り扱いは今後変更される可能性があります。
公開日:2026年5月9日|最終更新日:2026年5月9日
