学習塾の残業代問題 — コマ給と授業外労働の取扱い|守谷・取手・つくばみらいの経営者向け
学習塾オーナー・教室長の方へ。講師から残業代を請求されたとき、コマ給制度のままでは反論しきれない場面があります。授業外の準備時間や生徒キャンセル時の取扱いを、守谷・取手・つくばみらいで対応する弁護士の視点から整理しました。
- コマ給制でも残業代の支払義務はあるのか
- 授業前の準備や授業後の報告書作成は労働時間か
- 生徒キャンセル時の休業手当の要否
- 残業代請求は何年分まで遡って支払うのか
- 業務委託契約の講師に残業代支払義務はあるか
- 残業代請求への対応で最初に確認すべきこと
コマ給とは、1コマ(例えば授業90分)単位で賃金を定める出来高給的な制度を指します。学習塾の現場では「コマ給に授業準備や報告書作成も含まれている」という運用がされがちですが、コマ給制であっても労働基準法は適用されます。法定労働時間を超えて労働者を労働させるには、労働者の過半数代表との間で時間外労働協定(36協定)を締結し、所轄労働基準監督署に届け出ることが前提となり、その上で時間外労働には労働基準法第37条に基づく割増賃金の支払いが必要です。
厚生労働省管轄の神奈川労働局が公表している学習塾向けパンフレットでは、コマ給を採用する場合の留意点として、(1)従事すべき業務が具体的に明示されていること、(2)コマ給に含まれる業務が明示されていること、(3)従事すべきそれぞれの業務に対する時間単価が明示されていること、(4)時間単価の異なる業務ごとに労働時間が把握されていることが挙げられています(同パンフレットは神奈川県の学習塾を直接の対象としたものですが、コマ給制を採用する事業者一般に参考となります)。これらが満たされていないと、講師側から「コマ給は授業実施分の対価にすぎず、授業外労働分の賃金は別途未払いだ」と主張される余地が生じます。
労働時間とは、判例上、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間を指します。授業の実施そのものだけでなく、それに付随する業務(教材準備・採点・報告書作成・保護者対応・ミーティング・清掃等)を業務として指示し、または事実上義務付けている場合、その時間は労働時間として算入されるのが原則です。
厚生労働省管轄の神奈川労働局が公表している学習塾事業者向けパンフレットでも、自己申告による労働時間管理を行っていたものの、授業後の報告書作成やミーティング参加の時間が実績として記録されておらず、入退館記録と実績記録の時間に相違があった事例が、監督指導の対象として紹介されています。同パンフレットは、賃金及び法定労働時間を超える時間外労働に対する時間外割増賃金が支払われていなかった事案として整理しています。
個別指導塾では、生徒側の都合で授業がキャンセルになることが少なくありません。このとき、講師がすでに出勤して別の業務を行うことができる状態にあった場合や、当日のごく直前にキャンセル連絡があった場合は、使用者側の責に帰すべき事由による休業として整理される余地があります。
「使用者の責に帰すべき事由」は、講師(労働者)側の責任ではない事情で就業できない場合を広く指すと解されており、塾側で代替授業や代替業務を割り当てるかどうかの運用が判断に影響します。代替業務に就かせる、または振替授業を確保することで、休業手当の支払いを回避できる場合もあります。
2020年(令和2年)4月1日施行の改正により、賃金請求権の消滅時効は2年から5年に延長されましたが、企業実務への影響を考慮した経過措置として、当分の間3年とされています。請求された時点から3年遡って未払賃金がある場合、その全額が請求対象となります。なお、本記事執筆時点(2026年5月)で経過措置の撤廃が議論されており、将来的に時効期間が5年に変更される可能性があります。
さらに、労働者が訴訟を提起した場合、裁判所は使用者に対し、未払割増賃金等と同額の付加金の支払いを命じることがあります。付加金の請求期間も同じく当分の間3年です(労働基準法第114条・附則第143条第2項)。
請求日から遡って3年分の賃金台帳・出勤簿を確認
授業時間・授業外業務・休憩時間の整理。タイムカードと実態の乖離も確認
時間単価への換算、深夜・休日労働の有無、付加金リスクの評価
支払額の算定・反論可能な部分の整理・交渉or訴訟・審判対応の選択
業務委託契約か雇用契約かは、契約書のタイトルではなく実態で判断されます。労働者性の判断要素として、(1)仕事の依頼に対する諾否の自由の有無、(2)業務遂行上の指揮監督の有無、(3)時間的・場所的拘束性、(4)代替性の有無、(5)報酬の労務対償性、(6)機械・器具を自前で用意しているか、(7)報酬額が同種の業務をする労働者と比較して高いか、等が一般に挙げられます。
学習塾の講師の場合、塾が用意する教室で、塾が指定する時間に、塾が定めるカリキュラムに沿って授業を行うのが通常であり、これらの要素から労働者性が肯定されやすい類型といえます。実態として時間割が固定され、授業内容や報酬体系を塾側が一方的に決定し、講師側が依頼を断りにくい関係にあると評価される場合、業務委託の形をとっていても労働法上の保護の対象となる余地があります。契約書の名称ではなく、こうした実態に基づいて判断される点に注意が必要です。
労働条件通知書で業務範囲やコマ給に含まれる業務が明示されていない場合、講師側から「授業外の業務時間は別途支払われるべきだ」という主張を受けたときに、反論材料が乏しくなります。また、労働時間の記録が不十分であると、講師側の自己申告ベースで労働時間が認定されるリスクが生じます。
労働基準法第108条は賃金台帳の調製義務を定めており、同法第109条は労働関係に関する重要書類の保存義務を定めています。同法附則第143条第1項により当分の間3年の保存義務とされている書類について、保存がされていない場合は法令違反となるほか、訴訟においては使用者側に有利な反証材料を欠くことになり、講師側の主張する労働時間や業務内容に沿った認定がなされやすくなります。
労働条件通知書/雇用契約書/業務委託契約書/就業規則/賃金規程の有無と内容を確認
入退館記録/タイムカード/シフト表/授業実績/LINE・メールの送受信履歴
授業以外で講師に課している業務(報告書・採点・ミーティング等)の整理と、それぞれの所要時間の見積り
支払うべき部分・反論できる部分の切り分け/早期の弁護士相談で交渉と訴訟対応の選択
関連する論点については、従業員から残業代を請求された。会社はどう対応すべきかもご参照ください。学習塾を含む小規模事業者向けの顧問弁護士の役割については学習塾・習い事教室に顧問は必要かでも整理しています。
つくばエクスプレス(TX)沿線の守谷・つくばみらい・取手は、子育て世帯が多く流入してきたエリアであり、駅前や郊外モール内に学習塾・個別指導塾が密集しています。守谷駅周辺やアクロスモール守谷、みらい平駅周辺、取手駅前には、大手フランチャイズ系の個別指導塾と地域密着型の中小塾が並立しており、講師確保が経営課題となる場面も少なくありません。学生アルバイト講師、社会人非常勤講師、業務委託講師など雇用形態が混在しやすく、コマ単位の労務管理が中心となるため、授業外業務の取扱いを巡るトラブルが顕在化しやすい環境にあります。なお、本記事の対象エリアにおける事業所の労働基準監督署の管轄は次のとおりです。守谷市・常総市・つくばみらい市・坂東市は常総労働基準監督署。取手市・龍ケ崎市・牛久市は龍ヶ崎労働基準監督署。つくば市・土浦市は土浦労働基準監督署。
講師から残業代を請求された場合、初動の対応で支払額が大きく変わることがあります。コマ給制度の見直し、労働条件通知書や就業規則の整備、業務委託契約の妥当性検討など、紛争前の段階で整理しておくべき論点も少なくありません。状況をお聞きした上でご説明します。守谷・取手・つくばみらい・柏など、TX沿線・茨城県南部・千葉県北西部の学習塾オーナーの方、お気軽にお問い合わせください。
📞 050-3623-1320
守谷市・取手市・常総市・つくばみらい市・龍ケ崎市・牛久市・つくば市・土浦市・野田市・我孫子市・柏市(北柏地区を含む)をはじめ、茨城県南部・千葉県北西部の学習塾・個別指導塾・予備校・習い事教室の経営者・教室長の方からの労務トラブル(残業代請求・コマ給見直し・労働条件通知書整備・業務委託契約の妥当性検討等)に関するご相談もお受けしています。弁護士 吉津和輝(茨城県弁護士会所属)までお気軽にどうぞ。
・e-Gov法令検索 — 労働基準法(昭和22年法律第49号)
・学習塾の講師等を使用される事業者の皆様へ(神奈川労働局)
・未払賃金が請求できる期間などが延長されています(厚生労働省)
・労働基準監督署の管轄地域と所在地(茨城労働局)
2026年5月5日:初版公開
本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別事案への法的アドバイスではありません。具体的なご相談は弁護士にお問い合わせください。なお、本記事の内容は令和8年(2026年)5月時点の情報に基づいています。法律・実務の取扱いは今後変更される可能性があります。
公開日:2026年5月5日|最終更新日:2026年5月5日
