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学習塾に顧問弁護士は必要か — 特商法・消費者契約法・講師労務

顧問弁護士・学習塾習い事

学習塾・習い事教室に顧問弁護士は必要か — 特商法・消費者契約法・講師労務

弁護士 吉津和輝(茨城県弁護士会所属)
弁護士 吉津和輝(よしつ かずき)
茨城県弁護士会所属|2018年12月弁護士登録(登録から約7年)
主な取扱分野:企業法務(顧問・労務・契約書・カスハラ対応)、家族法、交通事故、相続、刑事弁護

学習塾・習い事教室の経営者の方へ。「個人経営の小さな教室に顧問弁護士なんて大げさではないか」と感じる方も多いと思います。一方で学習塾・習い事教室は、特定商取引法・消費者契約法・労働法が重なる業態であり、小規模でも継続的に法令対応が必要な場面があります。守谷・取手・つくばみらい・柏エリアはTX沿線を中心にファミリー層が多く、個別指導塾・英会話・ピアノ・そろばん・プログラミング教室が多数集積しています。本記事では、弁護士の立場から、どんな場面で顧問弁護士に相談する価値があるかを率直に整理します。なお、「自分の教室に顧問契約そのものが必要かどうか」の判断軸については、別記事学習塾・習い事教室に顧問弁護士は本当に必要か — 個人経営・小規模教室の判断基準をあわせてご参照ください。

この記事の目次
  1. 学習塾・習い事教室で顧問弁護士に相談する場面
  2. 入会規約はネットの雛形で作ってしまってよいか
  3. 特定商取引法の書面交付義務は小さな教室にも関係あるか
  4. 中途解約・返金の違約金はいくらまで請求できるか
  5. ピアノ・スイミング等の習い事教室も特商法の対象か
  6. 講師(アルバイト含む)の労務管理で相談が多い論点
  7. 保護者からのクレーム・モンスターペアレント対応
Q学習塾・習い事教室で顧問弁護士に相談する場面はどんなものがありますか?
A
結論として、入会規約の整備、中途解約・返金対応、講師労務、保護者対応、生徒のけが対応、個人情報保護など、小規模でも継続的に法令対応が必要な場面が多い業態です。実務でよく見られる場面は次のとおりです。
① 入会規約・契約書・特定商取引法書面の整備
② 中途解約・返金トラブルへの対応
③ 月謝滞納への督促・契約解除
④ モンスターペアレント・保護者カスハラへの対応
⑤ 講師個人へのSNS誹謗中傷対応
⑥ 生徒のけが・事故対応、安全配慮義務
⑦ 講師・アルバイトの労務管理(雇用契約・業務委託契約・残業代)
⑧ 生徒情報の個人情報保護法対応
⑨ フランチャイズ契約(大手FC加盟教室の場合)
⑩ 多教室展開時の本部・教室間ルール整備
学習塾・習い事教室は、消費者保護法制(特定商取引法・消費者契約法)と労働法の両方が絡む業態で、小規模でも法令対応が必要な場面が定期的に発生します。個別の場面ごとにスポット相談を繰り返すよりも、継続的な相談窓口として顧問契約を置く方が、費用対効果・対応スピードの両面でメリットが出やすい傾向があります。
Q入会規約はネットの雛形で作ってしまってよいのでは?
A
結論として、雛形のまま使用することはおすすめできません。消費者契約法第10条により無効と判断される条項が紛れ込んでいることが少なくないためです。消費者契約法第10条は、消費者の権利を一方的に害する条項を無効とする規定です。
【根拠】消費者契約法(平成12年法律第61号)第10条
「消費者の不作為をもって当該消費者が新たな消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたものとみなす条項その他の法令中の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比して消費者の権利を制限し又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって、民法第一条第二項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものは、無効とする。」
ネット上の雛形は、特定商取引法・消費者契約法の改正や実務運用の変化に追随していないものが多く、特に返金・中途解約条項は古い基準のまま残っていることがあります。具体的に無効リスクが高い条項の例は次のとおりです。
⚠️ 以下のような条項は無効と判断される可能性があります
・「理由の如何を問わず返金しない」(特商法第49条・消費者契約法第9条に抵触する場面あり)
・高額な違約金条項(特商法第49条2項の上限規制・消費者契約法第9条に抵触する場面あり)
・「契約期間内は月謝全額支払義務」(特定継続的役務提供に該当する場合、特商法に抵触する場面あり)
・「教室側の判断で一方的に契約解除できる」(合理性を欠く場合、消費者契約法第10条違反の可能性)
入会規約を整備することで、中途解約・返金トラブルが発生した場面での結論が大きく変わります。関連する中途解約違約金の具体的な上限額については で解説しています。
Q特定商取引法の書面交付義務は、うちの小さな教室にも関係ありますか?
A
結論として、「契約期間が2か月を超え、かつ契約総額が5万円を超える」学習塾・家庭教師・語学教室は、特定商取引法上の特定継続的役務提供に該当し、概要書面・契約書面の交付義務、クーリング・オフ、中途解約権が適用されます。
【根拠】特定商取引に関する法律(昭和51年法律第57号)第41条第1項
「特定継続的役務提供」とは、特定継続的役務を「政令で定める期間を超える期間」にわたり提供することを約し、「政令で定める金額を超える金銭」を支払うことを約する契約を締結して行う役務の提供をいうと規定されています。
※ 学習塾の場合、政令で定める期間は2か月、金額は5万円です(特定商取引に関する法律施行令別表第4)。
【根拠】特定商取引に関する法律第42条
役務提供事業者は、特定継続的役務提供契約を締結しようとするときに概要書面、契約を締結したときに遅滞なく契約書面を交付しなければなりません。
具体的な適用判断のポイントは次のとおりです。
判断要素 内容
対象業種 学習塾、家庭教師、語学教室、パソコン教室など政令指定7業種
「学習塾」の定義 学校(幼稚園・大学を除く)の入試対策または補習のための学力の教授で、事業者の事業所等で提供されるもの
除外されるもの 幼稚園・小学校の「お受験」対策、浪人生のみを対象としたコース
期間要件 契約期間が2か月を超えるもの
金額要件 契約総額(授業料+入会金+教材費+施設利用料等)が5万円を超えるもの
月謝制でいつでも解約でき、前払いもなく、総額が5万円を超えない契約は対象外とされることが多いです。ただし、年間教材を一括購入させる形や、まとまった期間の授業料を前払いさせる形だと、実質的に2か月を超える契約と評価されて特商法の対象になる場面があります。契約設計の段階で整理しておくことをおすすめします。
Q中途解約・返金の違約金はいくらまで請求できますか?
A
結論として、特定商取引法上の特定継続的役務提供に該当する学習塾では、役務提供開始前は1万1000円、役務提供開始後は「提供済み授業料相当額+(2万円又は1か月分授業料のいずれか低い額)」が上限です(特商法第49条2項、同法施行令)。
【根拠】特定商取引に関する法律第49条第2項
中途解約に伴い事業者が請求し得る損害賠償額・違約金の上限を定めています。具体的な金額は同法施行令に委任されています。
学習塾の場合の具体的上限は次のとおりです(消費者庁「特定商取引法ガイド」より)。
解約時期 事業者が請求できる上限額
役務提供開始 11,000円
役務提供開始 既に提供した授業料相当額+「20,000円 又は 1か月分の授業料相当額のいずれか低い額」
⚠️ 既に上限を超える金額を受け取っている場合、事業者は差額を返還する義務があります。「入会金は一切返金しない」「契約期間内は月謝全額の支払義務がある」といった条項は、特商法第49条の規定に抵触する範囲で無効となる場面があります。
家庭教師の場合は、役務提供開始前の上限が20,000円、役務提供開始後の追加額が「5万円 又は 1か月分の授業料相当額のいずれか低い額」と、学習塾とは別の金額が定められています。自塾がどの類型に該当するかを含め、入会規約の条項と政令の金額を整合させておくことが重要です。
Qピアノ・スイミング・プログラミングなどの習い事教室も特商法の対象になりますか?
A
結論として、特商法の特定継続的役務提供の対象は、エステティック・美容医療・語学教室・家庭教師・学習塾・結婚相手紹介サービス・パソコン教室の7業種に限定されています(特定商取引に関する法律施行令別表第4)。これら以外のピアノ・スイミング・体操・武道・そろばん教室などは、特商法の特定継続的役務提供の規制は直接適用されません。
業種 特商法(特定継続的役務)の適用
学習塾(入試対策・補習) 適用あり(期間2か月超・金額5万円超の場合)
家庭教師 適用あり(同上)
語学教室(英会話等) 適用あり(同上)
パソコン教室 適用あり(同上)
ピアノ・音楽教室 特商法の特定継続的役務としては適用なし
スイミング・体操・武道 同上
そろばん・書道 同上
プログラミング教室 パソコン操作の技術と一体不可分でない限り、特定継続的役務には該当しないとされています(経済産業省の見解)
ただし、消費者契約法は「事業者と消費者との間で締結される契約(消費者契約)」すべてに適用されます(消費者契約法第2条)。したがって、ピアノ教室やスイミングスクールの入会規約であっても、消費者契約法第9条(損害賠償額の予定・違約金条項)や第10条(消費者の利益を一方的に害する条項)により無効とされる場面があります。「特商法の対象外だから規約は自由に決めてよい」というわけではない点に注意が必要です。
⚠️ 幼稚園・小学校の「お受験」対策を行う教室は、特商法上の「学習塾」「家庭教師」の定義から明示的に除外されています(特定商取引に関する法律施行令別表第4)。ただし、この除外は特商法の適用有無の話であり、消費者契約法は引き続き適用されます。
Q講師(アルバイト含む)の労務管理で相談が多い論点は何ですか?
A
結論として、授業準備時間の労働時間該当性、コマ給と最低賃金の関係、退職時トラブル、独立・引き抜きへの対応が相談の多い論点です。
【根拠】労働基準法(昭和22年法律第49号)第32条
使用者は、労働者に、休憩時間を除き1週間について40時間を超えて、労働させてはならないとされ、労働時間の定義と上限が規定されています。授業準備時間が使用者の指揮命令下にあれば労働時間に含まれます。
【根拠】最低賃金法(昭和34年法律第137号)第4条
使用者は、最低賃金の適用を受ける労働者に対し、その最低賃金額以上の賃金を支払わなければなりません。違反時は罰則の対象となる場面があります。
学習塾の労務で典型的な論点は次のとおりです。
① 授業準備時間の扱い:1コマあたりのコマ給を定めていても、授業準備・テキスト確認・採点の時間が使用者の指揮命令下で行われていれば労働時間として賃金支払義務が発生します
② コマ給の最低賃金換算:茨城県の最低賃金は毎年10月に改定されるため、コマ給を時間換算した額が最低賃金を下回っていないかの継続的な確認が必要です
③ 業務委託か雇用か:形式上は業務委託契約でも、実態として指揮命令下で勤務していれば労働者性が認められて労働法が適用されます(いわゆる偽装請負・労働者性の問題)
④ 退職時のトラブル:引き留め、未払い残業代請求、貸与物返却、守秘義務違反の主張
⑤ 独立・引き抜き:退職した講師が近隣で同業教室を開業し、生徒を引き抜いたケースへの対応(競業避止義務条項の有効性は限定的)
⚠️ 社会保険・労働保険の加入手続き、給与計算、年末調整等の詳しい実務は社会保険労務士・税理士の領域にあたります。社会保険労務士・税理士にご相談ください。弁護士の役割は、主に契約書・就業規則の作成、労使紛争への対応、退職トラブル・引き抜き対応などの法的紛争などです。
Q保護者からのクレーム・モンスターペアレント対応でも相談できますか?
A
結論として、保護者対応(カスハラ)も顧問弁護士の相談範囲に含まれます。令和7年改正の労働施策総合推進法により、令和8年(2026年)10月1日から事業主にカスタマーハラスメント防止の雇用管理上の措置義務が課されることが決まっており、中小規模の教室でも対応方針を事前に整えておくことが求められます。
【根拠】労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律(昭和41年法律第132号)の一部改正により、顧客等(カスタマー)からの著しい迷惑行為による労働者の就業環境の害の防止のため、事業主に雇用管理上の措置義務が課されることとなりました(令和8年10月1日施行予定)。
学習塾・習い事教室で相談が多いのは次のような場面です。
① 成績が上がらないことを理由とした返金要求・全額返還要求
② 長時間の電話・面談による拘束(深夜・休日含む)
③ SNS・口コミサイトでの教室・講師個人への誹謗中傷
④ 他の保護者・生徒の悪評を流布する行為
⑤ 退塾後の執拗な連絡・訪問
⑥ 生徒間トラブルを理由とした過度な責任追及
対応の基本方針は、業務妨害・名誉毀損・脅迫に該当しうる言動について記録を残すこと対応窓口を一本化すること書面(内容証明郵便を含む)での対応に切り替えるタイミングを判断することです。講師個人が矢面に立ち続けるのは避けるべきで、代理人弁護士を立てる場面の判断も含め、顧問契約があれば初動からサポートできます。
学習塾・習い事教室のカスハラ対応の具体的な進め方については、別記事「学習塾・習い事のカスハラ対応 — モンスターペアレント・退会返金・SNS誹謗中傷」もあわせてご参照ください。
守谷・取手・柏エリアの実情

TX(つくばエクスプレス)沿線の守谷・つくばみらい・柏たなか・柏の葉エリアは、都内勤務の共働き世帯が多く、小学校高学年から中学受験・高校受験を見据えた個別指導塾・進学塾の需要が高い地域です。また、ピアノ・スイミング・プログラミング・英会話など、未就学児から小学生向けの習い事教室も多数集積しています。TX沿線エリアは世帯年収が比較的高く、習い事への支出額が大きい一方で、保護者からのサービス要求水準も高い傾向があり、中途解約・返金対応や成績保証への要求について相談をお受けする場面があります。

入会規約の整備、中途解約・返金対応、講師労務、保護者トラブルなど、学習塾・習い事教室の法務についてお困りの方は、お気軽にご相談ください。状況をお聞きした上で、顧問契約・スポット相談・書面整備のいずれが適しているかを含めてご説明します。

弁護士 吉津和輝
茨城県弁護士会所属
📧 [email protected]
📞 050-3623-1320
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更新履歴
  • 令和8年(2026年)4月18日:初版公開。「顧問契約の必要性」については別記事に分割

本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別事案への法的アドバイスではありません。具体的なご相談は弁護士にお問い合わせください。なお、本記事の内容は令和8年(2026年)4月時点の情報に基づいています。法律・実務の取り扱いは今後変更される可能性があります。
公開日:2026年4月18日|最終更新日:2026年4月18日