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社長が死亡したら会社はどうなる? 自社株・個人保証・事業用不動産の落とし穴を弁護士が解説

相続・遺産分割/企業法務

社長が死亡したら会社はどうなる?
自社株・個人保証・事業用不動産の落とし穴を弁護士が解説

弁護士 吉津和輝(茨城県弁護士会所属)市川法律事務所に所属する弁護士です。

守谷市・つくばみらい市・常総市・取手市など茨城県南エリアには、創業者がほぼ単独で経営を担ってきた中小企業が数多くあります。社長の高齢化と後継者問題が現実味を帯びる中、社長の死亡という事態が起きると、自社株の相続、個人保証の承継、事業用不動産の名義、といった論点が一斉に表面化します。本記事では、ワンマン経営の会社で代表者の相続がなぜ深刻化するのか、事業承継の落とし穴の全体像をご説明します。

Qそもそも「ワンマン経営の会社の相続」では、何が起こるのですか。

A
会社の代表者が亡くなると、その方が個人として持っていた財産は、相続人に承継されます。これは民法の基本ルールです。問題は、ワンマン経営の会社では「社長個人の財産」と「会社の経営に必要な資産」が深く絡み合っていることが多い点にあります。
【根拠】民法(明治29年法律第89号)第896条本文:「相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する。」
具体的には、自社株、会社への貸付金、会社が使っている土地建物、金融機関に対する個人保証、社長名義で結ばれた取引契約など、会社の存続に直結する権利関係が一斉に相続の対象となります。これらが複数の相続人に分散したり、後継者ではない方の手に渡ったりすると、後継者が実質的に経営を続けられなくなる事態が起こり得ます。

Qなぜ、ワンマン経営の会社で特に問題が大きくなるのですか。

A
ワンマン経営の会社では、次のような特徴がしばしば見られます。
・株式の大半を社長個人が保有している
・取締役会や株主総会の議事録が形式的にしか作られていない
・経理上、社長と会社の貸し借りが長年積み上がっている
・会社の事業所(工場・店舗・事務所)の土地建物が社長個人名義
・主要取引先との関係が社長個人の信用で成り立っている
・後継者が決まっていない、または株式の承継方法が決まっていない
これらの「属人的な経営」は、社長が健在のうちは何の問題もなく回っていきます。しかし相続が起きた瞬間、会社の経営権・資産・契約関係が一斉に法的整理の対象となり、後継者と他の相続人との間で利害が衝突することがあります。組織的に運営されている会社よりも、ワンマン経営の会社の方が承継時の摩擦が大きくなりやすいのは、この構造的な理由によるものです。

Q自社株が複数の相続人に分かれると、何が困るのですか。

A
非上場会社の株式も、財産として相続の対象になります。遺言や遺産分割協議で特定の方(例えば後継者である長男)に株式を集中させない限り、自社株は相続人全員の共有状態になり、最終的には法定相続分に応じて各相続人に配分されることが原則です。 自社株が分散すると、後継者が会社の重要な意思決定をしようとしても、他の相続人(株主)の協力が得られず、株主総会の決議が成立しない、あるいは反対される事態が起こり得ます。後継者が経営の実権を握れないまま、親族間で長期の対立に発展することもあります。
譲渡制限株式(定款で「株式を譲渡するには会社の承認が必要」と定められている株式)については、相続によって会社にとって好ましくない方が株主になった場合に備えて、会社が相続人に対して株式の売渡しを請求できる旨を定款に定めることが認められています。
【根拠】会社法(平成17年法律第86号)第174条:「株式会社は、相続その他の一般承継により当該株式会社の株式(譲渡制限株式に限る。)を取得した者に対し、当該株式を当該株式会社に売り渡すことを請求することができる旨を定款で定めることができる。」
ただし、この制度は使い方を誤ると後継者自身が排除される事態(いわゆるクーデター的な利用)につながる可能性もあるため、定款を設計する段階で十分な検討が必要です。

Q会社が使っている土地や建物が「社長個人の名義」だった場合はどうなりますか。

A
茨城県南エリアでは、創業者が地元の地主であったり、創業時に自分の土地に工場・倉庫・店舗を建てたりしたために、会社が使用している不動産が法人名義ではなく社長個人の名義になっているケースが少なくありません。会社と社長個人との間で賃貸借契約が結ばれていることもあれば、契約書がそもそも存在しないことや、固定資産税相当額のみを支払う形式的な使用にとどまっていることもあります。 この状態で社長の相続が起こると、会社の事業所として使われている土地建物が、後継者ではない相続人の手に渡る可能性があります。その場合、新しい所有者から賃料の増額を求められたり、契約の見直しや明渡しを求められたりするリスクが生じます。
⚠️ つくばエクスプレス開業以降の地価上昇が続いた地域では、創業当時に比べて土地の評価額が大きく上がっていることがあります。土地の評価が高くなると、相続税の負担だけでなく、他の相続人から遺留分侵害額を請求される際の金額にも影響します。
【根拠】民法(明治29年法律第89号)第1042条第1項:「兄弟姉妹以外の相続人は、遺留分として、次条第一項に規定する遺留分を算定するための財産の価額に、次の各号に掲げる区分に応じてそれぞれ当該各号に定める割合を乗じた額を受ける。」
事業用不動産の問題は、ワンマン経営の会社の承継でとりわけ深刻になりやすい論点です。本シリーズの別の記事で詳しくご説明します。

Q社長が会社の借入金に「個人保証」をしていた場合はどうなりますか。

A
社長が亡くなった場合、この保証債務も原則として相続の対象となり、相続人が複数いる場合は法定相続分に応じて分割して承継されます。後継者となることを検討するのであれば、会社の経営を引き継ぐと同時に、先代社長の個人保証債務も相続によって承継されることを踏まえ、相続放棄をするかどうかを慎重に判断する必要があります。なお、後継者として経営を引き継ぐ場合、相続放棄は現実的に選択しにくい場面もあります。そのような場合でも、「経営者保証に関するガイドライン」に基づき、金融機関に対して保証の見直しや条件変更を申し入れる余地があります。ただし、ガイドラインに法的拘束力はなく、金融機関が応じるかどうかは個別の交渉次第となります。
保証債務を引き継ぎたくない相続人は、相続放棄を選択することも考えられます。ただし相続放棄は、自己のために相続が開始したことを知った時から3か月以内に家庭裁判所に申述する必要があり、放棄するとプラスの財産も承継できなくなる点に注意が必要です。

Qこうした問題は、社長が亡くなった後でも対応できますか。

A
相続が発生した後でも、遺産分割協議、会社による自己株式の取得、相続人間の代償金の支払い、不動産の集約や買取り、保証債務の整理など、取り得る対応はあります。ただし、生前の準備があったかどうかで、選択肢の幅と実現の難易度は大きく変わります。 生前に対応しておけば比較的スムーズに進められたはずのことが、相続後では関係者全員の合意を取りつけなければ進められなくなる、という場面は少なくありません。茨城県南の中小企業オーナーの方からご相談を受ける中で、もう少し早く動いていれば打てる手があった、と感じる事例もあります。 会社の規模や家族構成、事業の特性によって取るべき対策は異なりますので、状況をお聞きした上で、考えられる選択肢をご説明します。

Q社長がご健在のうちに弁護士に相談しておくと、何が変わりますか。

A
代表者がご健在で判断能力に問題がないうちであれば、相続発生後よりもはるかに幅広い選択肢を検討することができます。たとえば次のような準備が可能です。
・遺言書の作成による株式の集中承継
・定款の見直し(譲渡制限・相続人に対する売渡請求の定めなど)
・株主名簿の整備と、名義株問題の洗い出し
・株主総会・取締役会の議事録の整備
・個人保証の状況確認と、金融機関との協議
・事業用不動産の名義や契約関係の整理
・生前贈与や事業承継税制の検討(税務は税理士と連携)
これらはいずれも、相続発生後に関係者全員の合意を取りつけるよりも、社長ご自身が意思決定できるうちに手を打っておいた方が、進めやすい事項です。 事業承継の準備は、一度の相談で完結する類型ではなく、数か月から数年単位で少しずつ整えていく性質のものです。単発のご相談でもお受けしていますが、継続的にサポートが必要な場合は顧問契約という形で関わる方法もあります。どちらが無理のない形かは、会社の状況をお聞きした上でご一緒に検討できればと思います。

ワンマン経営の会社の事業承継や、代表者の相続に関するご相談をお受けしています。生前の準備段階でも、相続発生後のご相談でも、まずは状況をお聞きした上で、取り得る対応をご説明します。単発のご相談のほか、継続的なサポートが必要な場合の顧問契約についてもご案内できます。

弁護士 吉津和輝
茨城県弁護士会所属
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本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別事案への法的アドバイスではありません。具体的なご相談は弁護士にお問い合わせください。なお、本記事の内容は令和8年(2026年)4月時点の情報に基づいています。法律・実務の取り扱いは今後変更される可能性があります。