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従業員の横領・犯罪が発覚したら 会社はどう動くべきか

【企業法務・労働問題】

従業員の横領・犯罪が発覚したら
会社はどう動くべきか

弁護士 吉津和輝(茨城県弁護士会所属)市川法律事務所に所属する弁護士です。

「経理担当者が会社のお金を使い込んでいたらしい」「営業が売上金を横領していた」「レジから現金がなくなっていた。」——こうした相談は、従業員が数名規模の中小企業や個人事業主からも少なくありません。守谷・取手・常総市など茨城南部の事業者からも、こうした相談が寄せられることがあります。発覚後の初動を誤ると、証拠が消えたり、法的手続きで不利になったりすることがあります。この記事では、会社(使用者側)がとるべき対応の流れを解説します。

Q横領が疑われます。まず何をすればよいですか?
A

最初にすべきことは証拠の確保と保全です。問題の従業員を呼んで問い詰める前に、以下の資料を手元に集めてください。

  • 通帳・入出金明細(コピーまたは電子保存)
  • 領収書・経費精算書・伝票類
  • 監視カメラ映像(上書きされる前に保存)
  • 勤怠記録・メール・チャット履歴

先に本人を問い詰めてしまうと、証拠を隠滅されたり、退職して連絡が取れなくなったりするリスクがあります。

⚠️ 問い詰める前に証拠を確保するのが原則です。根拠なく問い詰めたりしてしまうと逆にパワーハラスメントなどと主張されてしまうリスクもありますので注意が必要です。
Q横領した従業員を解雇することはできますか?
A

横領・犯罪行為を理由とする懲戒解雇が認められる場合があります。ただし、いくつかの前提条件があります。

まず、就業規則に懲戒解雇事由として横領や犯罪行為に関する規定があることが重要です。また、解雇は「客観的に合理的な理由」があり「社会通念上相当」と認められる必要があります。

【根拠】労働契約法(平成19年法律第128号)第16条(解雇):「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。」
横領金額や行為の悪質性・反復性・会社への影響の大きさなどが、懲戒解雇の相当性の判断に影響します。解雇手続きの前に弁護士に確認することをお勧めします。
Q警察に告訴することはできますか?どんな罪になりますか?
A

被害を受けた会社(代表者)は、犯罪被害者として告訴することができます。

【根拠】刑事訴訟法(昭和23年法律第131号)第230条:「犯罪により害を被つた者は、告訴をすることができる。」

業務上横領だと思っても、従業員の行為がどの罪に当たるかは、行為の態様によって異なります。例えば従業員の行為が、業務上横領罪・窃盗罪・詐欺罪などの複数の罪に該当する場合もあります。

業務上横領罪・窃盗罪・詐欺罪はいずれも親告罪ではありません。そのため、告訴がなくても捜査は行われますが、被害者として告訴状を提出することで、捜査機関への申告意思が明確になります。
Q横領された金額を取り戻すことはできますか?
A

民事上の損害賠償請求を行うことができます。不法行為に基づく損害賠償(民法709条)として、横領・犯罪行為によって生じた損害の賠償を求めることができます。

【根拠】民法(明治29年法律第89号)第709条(不法行為による損害賠償):「故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。」

ただし、損害賠償請求権があることと、実際に回収できることは別問題です。横領を繰り返していた従業員が手元に財産を残していることは多くなく、資力がない場合は一括回収が難しいのが実情です。

回収方法は相手方の資力・財産状況によって変わります。主な選択肢は以下のとおりですが、どれが現実的かは個別の状況次第です。

  • 示談による分割払い合意:資力がない場合は現実的な選択肢。返済額・期限・不払い時の扱いを合意書に明記する。
  • 訴訟による損害賠償請求:判決を得ても相手に財産がなければ回収は困難。
  • 仮差押えによる財産保全:相手方に財産がある場合、訴訟前に差し押さえることで回収の実効性を確保できる場合がある。
「いくら請求できるか」よりも「実際にいくら回収できるか」を見据えた方針を立てることが重要です。状況をお聞きした上でご説明します。
Q刑事告訴すると、会社側にも何か影響がありますか?
A

刑事告訴・被害届を提出すると、捜査機関から会社の経理書類や帳簿の提出を求められたり、関係者が事情聴取を受けたりすることがあります。社内の管理体制についても捜査の過程で明らかになる場合があります。

また、刑事手続きと民事上の損害賠償請求は別の手続きです。刑事事件で有罪判決が出ても、自動的に損害が回収されるわけではありません。民事訴訟や示談交渉を並行して進める必要があります。

「刑事告訴をするか」「示談で解決するか」「民事訴訟を提起するか」は、被害額・証拠の状況・相手方の資力・会社の対外的な影響などを踏まえて判断する必要があります。方針は弁護士と相談しながら決めることをお勧めします。
Q「大事にしたくない」と思っているのですが、それでも弁護士に相談すべきですか?
A

「従業員だし穏便に済ませたい」「金額が少ないから…」と感じる経営者の方は多いです。

ただ、弁護士に相談すること自体が「告訴しなければならない」ということにはなりません。相談の目的は、選択肢を整理し、どの対応が自社にとって現実的かを判断することです。

特に、示談書の作成は慎重に行う必要があります。不適切な内容の示談書を締結してしまうと、後から追加の請求や対応が難しくなる場合があります。早い段階での相談が、対応の幅を広げることにつながります。

被害が発覚した時点で、横領や犯罪行為には公訴時効があります。時間の経過とともに選択肢が狭まることもありますので、早めの相談をお勧めします。
Q横領した分を給与から天引きして返させることはできますか?
A

会社が一方的に賃金から控除(天引き)することは、労働基準法24条(全額払い原則)に違反する可能性があります。会社側が「横領したんだから当然だ」と感じても、法律上は別の問題として扱われます。

【根拠】労働基準法(昭和22年法律第49号)第24条第1項:「賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。」(ただし書き以下略)

賃金から控除するためには、従業員が自らの自由な意思で同意した書面(合意書)が必要です。この合意書を作成する際の注意点は以下のとおりです。

  • 返済総額・返済方法(毎月いくら控除するか)を明確にする
  • 「懲戒解雇にする」などと告げて署名させた場合、後から「強制された」として無効を主張される可能性がある
  • 控除額が賃金の大部分を占める場合、実質的な強制とみなされるリスクがある
⚠️ 「後でいつでも請求できる」と考えて放置していると、退職されて行方をくらまされたり、時効で請求権を失う可能性があります。横領による損害賠償請求権は、不法行為に基づくものとして「損害及び加害者を知った時から3年」または「不法行為時から20年」で時効消滅します(民法724条)。発覚してから3年が経過する前に、合意書の作成や訴訟提起など、何らかの法的手続きをとることが重要です。
【根拠】民法(明治29年法律第89号)第724条(不法行為による損害賠償請求権の消滅時効):「不法行為による損害賠償の請求権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。一 被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から三年間行使しないとき。二 不法行為の時から二十年間行使しないとき。」
Q横領した従業員本人から「弁護してほしい」と言われました。引き受けてもらえますか?
A

この質問は、実際に起こりやすい場面です。会社から相談を受けた後に、当該従業員から「自分の弁護もお願いしたい」と連絡が来ることがあります。

結論から言うと、同一事件で会社側(被害者)からすでに相談・依頼を受けている弁護士が、加害者である従業員側を弁護することはできません。これは弁護士倫理(弁護士職務基本規程)上の利益相反にあたります。

【根拠】弁護士職務基本規程(日本弁護士連合会会規)は、依頼者の利益が相反する事件の受任を禁じています。また、弁護士法(昭和24年法律第205号)第25条第3号は、弁護士が「受任している事件の相手方からの依頼による他の事件」については職務を行えないと定めています。

横領・犯罪が疑われる従業員の方が弁護士に依頼する場合は、会社側とは別の、利害関係のない弁護士に相談する必要があります。逮捕・勾留された場合は、資力によっては国選弁護人の選任を請求することもできます。

一方で、従業員側の立場から見ると、早期に弁護士に相談することで、会社との示談交渉や捜査段階での対応について適切なアドバイスを受けることができます。会社に示談(損害弁償)の意思を示すことが、刑事処分の判断に影響することがあります。

従業員の横領・犯罪行為への対応は、証拠の状況・被害額・相手方の資力・会社の方針によって、最適な手順が異なります。「まず何をすべきか」という段階からお気軽にご相談ください。状況をお聞きした上でご説明します。

弁護士 吉津和輝
茨城県弁護士会所属
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本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別事案への法的アドバイスではありません。具体的なご相談は弁護士にお問い合わせください。なお、本記事の内容は令和7年(2025年)4月時点の情報に基づいています。法律・実務の取り扱いは今後変更される可能性があります。