会社売却・M&Aの秘密保持契約と基本合意書
— サインする前に確認したい法的拘束力
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| Q | 会社を売却するとき、なぜ最初に秘密保持契約(NDA)を結ぶのですか? |
| A |
結論として、M&Aでは「会社を譲ることを検討している」という事実そのものが重要な秘密情報だからです。
秘密保持契約(NDA)とは、相手に開示する情報を目的外に使ったり、第三者に漏らしたりしないことを約束させる契約のことです。M&Aの交渉を始める際、買い手候補に詳しい情報を渡す前の最初の段階で締結するのが原則です。 売却を検討している事実が従業員・取引先・金融機関に漏れると、「この会社は大丈夫なのか」という不安から、従業員の退職や取引の見直しにつながり、会社の価値そのものを下げてしまうおそれがあります。だからこそ、M&AのNDAでは、財務情報や取引先情報だけでなく、交渉の存在自体を秘密情報に含めることが重要になります。 また、交渉が途中で破談になる可能性は常にあります。その場合に、開示した情報だけが相手の手元に残り、別の目的に流用されることを防ぐという意味もあります。
— 図1:中小企業のM&Aの一般的な流れ(案件により異なります) —
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| Q | 秘密保持契約(NDA)では、どこを確認すればよいですか? |
| A |
結論として、「①何が秘密か」「②誰になら開示できるか」「③いつまで守るか」「④終わったらどうするか」の4点が基本の確認ポイントです。
① 秘密情報の範囲:M&A交渉の存在自体が含まれているかを確認します。あわせて、すでに公知になっている情報や、受け取る前から知っていた情報などは秘密情報の例外とされるのが通常です。 ② 開示できる相手の範囲:検討に必要な範囲の役員・従業員や、弁護士・税理士等の専門家には開示できるとする例外を設けるのが一般的です。誰にも相談できない建付けになっていないかを確認します。 ③ 有効期間:無期限ではなく、一定の期間(数年程度)を定める例が多くみられます。情報を出す側である売り手としては、短すぎないかという視点で確認します。 ④ 資料の返還・破棄:交渉が終了した場合に、開示した資料やデータを返還・破棄させる条項があるかを確認します。秘密保持義務の期間が切れた後も資料だけ相手の手元に残る、という事態を避けるためです。
⚠️ 売り手は「情報を出す側」です。買い手側で用意された書面は、開示する側の保護が手薄になっている場合があります。自社が開示する情報の性質に合わせて修正を求めることも検討してください。
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| Q | 基本合意書(LOI・MOU)とは何ですか?最終契約とどう違いますか? |
| A |
結論として、基本合意書とは、最終契約の前に、その時点での当事者の了解事項を確認するために交わす中間的な書面のことです。
英語の名称から、LOI(Letter of Intent)やMOU(Memorandum of Understanding)と呼ばれることもあります。案件によって内容は様々ですが、譲渡価格の目安やスキーム(株式譲渡か事業譲渡か等)、今後の日程、独占交渉権、デューデリジェンス(買収監査)への協力などが定められるのが一般的です。 最終契約との大きな違いは、基本合意書に書かれた取引条件は、あくまでその時点での仮の合意だという点です。その後のデューデリジェンスで会社の実態を調査した結果や、最終契約に向けた交渉によって、条件が変わることが前提とされています。
「基本合意書」という名称でなく「覚書」「意向表明書」等の名称が使われることもあります。重要なのは名称ではなく、書面の中身にどのような義務が書かれているかです。
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| Q | 基本合意書にサインすると、もう価格や条件は変えられないのですか? |
| A |
結論として、価格などの取引条件には法的拘束力を持たせない建付けが多い一方、独占交渉や秘密保持などの手続的な条項には拘束力を持たせるのが一般的です。
基本合意書の最大の注意点は、同じ1通の書面の中に「拘束力のない部分」と「違反すれば責任が生じ得る部分」が混在していることです。「まだ本契約ではないから大丈夫」と思ってサインすると、気づかないうちに義務だけを負っていた、ということが起こり得ます。
— 図2:基本合意書における法的拘束力の一般的な整理(案件により異なります) —
拘束力のある条項に違反した場合には、債務不履行による損害賠償(民法第415条)の問題となる場面があります。
【根拠】民法(明治29年法律第89号)第415条第1項:「債務者がその債務の本旨に従った履行をしないとき又は債務の履行が不能であるときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。ただし、その債務の不履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。」
また、拘束力がないとされる条件であっても、一度書面に記載した以上、合理的な理由なく覆そうとすれば、交渉が決裂した際に責任の有無をめぐる紛争が生じる場面もあり得ます。「どうせ拘束力はないから」と安易に数字を書き込むことは避け、どの条項に拘束力があるのかを書面上で必ず確認してください。 |
| Q | 独占交渉権とは何ですか?売り手はどこに注意すべきですか? |
| A |
結論として、独占交渉権とは、一定期間、売り手が他の買い手候補と交渉しないことを約束する条項のことで、売り手にとっては「期間の長さ」が最大の注意点です。
買い手は、デューデリジェンスなどに時間と費用をかけて案件を検討します。その途中で売り手が他の候補に乗り換えてしまうと投じた費用が無駄になるため、買い手が独占交渉権を求めるのは自然なことです。 一方、売り手にとって独占交渉権は、その期間中、より良い条件を提示してくれるかもしれない他の候補と話す機会を失うことを意味します。確認すべきポイントは次の2点です。 ① 期間を必要な範囲に限定する:実務では3か月から6か月程度にとどめる例が多いとされています。検討に必要な期間を超える長期の設定になっていないかを確認します。 ② 禁止される行為の範囲を明確にする:「交渉」だけが禁止されるのか、他の候補からの問い合わせに応答すること自体が禁止されるのか等、義務の範囲が曖昧だと後の紛争のもとになります。 |
| Q | 仲介会社から渡されたひな形に、そのままサインしてよいですか? |
| A |
結論として、署名の前に、売り手側の立場で内容を確認することをおすすめします。
ひな形は一般的な内容をまとめたものであり、自社の状況(開示する情報の性質、希望する条件、従業員や取引先への影響)に合っているとは限りません。また、M&Aの仲介者は、売り手と買い手の双方の間に立って取引の成立を支援する立場です。売り手自身の利益という観点からの確認は、別途行っておく必要があります。 この点、中小企業庁が公表している「中小M&Aガイドライン(第3版)」(令和6年8月)も、契約締結の場面における弁護士の関与や、セカンド・オピニオンの活用に言及しています。 秘密保持契約や基本合意書は、サインした後から「やはり修正したい」と言っても応じてもらえるとは限りません。サイン前の段階でご相談いただければ、修正交渉の余地を残したまま対応を検討できます。契約書のチェックは単発のご依頼のほか、顧問契約の中で継続的に対応することも可能です。
譲渡対価にかかる税金の取扱い(株式譲渡か事業譲渡かによる課税関係の違い等)については、税理士にご相談ください。
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会社の売却・第三者への事業承継は、多くの経営者にとって一生に一度の取引です。秘密保持契約・基本合意書の段階から弁護士が関与することで、最終契約に向けた交渉を有利な形で進めやすくなります。書面にサインする前に、まずは状況をお聞かせください。内容を確認したうえで、考えられる対応をご説明します。
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・e-Gov法令検索(デジタル庁)
・民法(明治29年法律第89号)
・中小M&Aガイドライン(第3版)(中小企業庁・令和6年8月)
2026年6月13日:記事公開
本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別事案への法的アドバイスではありません。具体的なご相談は弁護士にお問い合わせください。なお、本記事の内容は令和8年(2026年)6月時点の情報に基づいています。法律・実務の取り扱いは今後変更される可能性があります。
公開日:2026年6月13日/最終更新日:2026年6月13日
