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採用者社員の経歴詐称が発覚した時|弁護士吉津和輝

YOSHITSU LAW · COLUMN

採用した社員の経歴詐称が発覚したとき
— 守谷市の中小企業のための採用リスク対策

調査の限界と、解雇に進む前に確認すべきこと
弁護士 吉津和輝 / 茨城県弁護士会所属
弁護士 吉津和輝
弁護士 吉津和輝(よしつ かずき)
茨城県弁護士会所属(登録番号57714)/2018年12月弁護士登録(登録から約7年)
主な取扱分野:企業法務・労働問題(使用者側)・顧問契約・契約書チェック
守谷市やつくばみらい市など、つくばエクスプレス沿線で中小企業を経営されている方へ。人手不足のなかで採用を急いだ結果、入社後に「履歴書の経歴が事実と違っていた」と気づくことがあります。この記事では、経歴詐称が発覚したときにまず確認すべきこと、採用前の調査はどこまで許されるのか、そして解雇に進む際の落とし穴について、労働契約法・職業安定法の条文と最高裁判例をもとに整理します。
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弁護士 吉津和輝(茨城県弁護士会所属)/〒302-0128 茨城県守谷市けやき台3-28-7
01 なぜ採用トラブルが起きやすいのか

つくばエクスプレス沿線の守谷市・つくばみらい市周辺は、近年も人口が増え、物流倉庫・建設業・介護事業所・小売店など、幅広い業種の事業者が活動している地域です。一方で、こうした業種では慢性的な人手不足が続き、「とにかく早く一人ほしい」という事情から、履歴書や面接の内容を十分に確かめないまま採用に踏み切ってしまうことが少なくありません。

採用を急いだ結果、入社後しばらくして「履歴書に書かれた職歴が事実と違う」「持っているはずの資格がなかった」と気づくことがあります。経営者としては、不誠実な人をそのまま雇い続けたくないと感じ、すぐにでも辞めてもらいたいと考えるのは自然なことです。

しかし、経歴詐称が判明したからといって、ただちに解雇できるとは限りません。対応を誤ると、後から解雇が無効と判断され、会社に大きな金銭的負担が生じることもあります。以下では、よくある疑問をQ&A形式で整理していきます。

よくあるご質問

Q 採用した社員の経歴詐称が発覚しました。すぐに解雇できますか?
A
結論として、経歴詐称が判明しても、それだけで直ちに解雇できるとは限りません。まず事実を確認し、詐称の内容と程度を整理することが出発点になります。

経歴詐称とは、履歴書や採用面接において、学歴・職歴・資格・犯罪歴などの経歴について事実と異なる申告をすること、または真実の経歴を隠すことをいいます。

経歴詐称が発覚すると、信頼できないとして退職してもらいたいと考えるのは自然なことですが、解雇には法律上のハードルがあります。労働契約法第16条は、解雇は客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない場合は無効になると定めています。経歴詐称が軽微なものであったり、入社後の勤務に支障が生じていなかったりする場合には、解雇が無効と判断されることがあります。

【根拠】労働契約法(平成19年法律第128号)第16条:「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。」

まずは本人に事実を確認し、どのような経歴がどの程度詐称されていたのか、それが採用判断や入社後の業務にどう影響したのかを整理することが必要です。感情的に即時解雇に進むのではなく、順を追って判断することが、後のトラブルを避けることにつながります。

Q 経歴詐称を理由に懲戒解雇するには、何が必要ですか?
A
結論として、懲戒解雇には、就業規則に経歴詐称が懲戒事由として定められ、かつ懲戒の種類として懲戒解雇が規定されていることが前提になります。

解雇には、能力不足や勤務態度などを理由とする「普通解雇」と、企業秩序違反に対する制裁として行う「懲戒解雇」があります。経歴詐称を懲戒解雇の理由とする場合、まず確認すべきは就業規則の内容です。

懲戒処分は、あらかじめ就業規則に懲戒事由と懲戒の種類を定めておくことではじめて行えるものと考えられています。就業規則に経歴詐称に関する懲戒事由の定めがない、あるいは懲戒の種類として懲戒解雇が規定されていない場合には、経歴詐称を理由とする懲戒解雇は難しくなります。

また、就業規則に懲戒の定めがあるという形式的な前提を満たしていても、それだけで懲戒解雇が当然に有効になるわけではありません。労働契約法第15条は、懲戒が、その行為の性質・態様その他の事情に照らして客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められないときは、懲戒権の濫用として無効になると定めています。経歴詐称の内容が軽微であれば、懲戒解雇は重すぎるとして無効と判断されることもあります。

【根拠】労働契約法(平成19年法律第128号)第15条:「使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする。」
就業規則が未整備の事業所では、まず就業規則そのものを整え、懲戒事由を定めて従業員に周知しておくことが、その後の対応の基礎になります。常時10人以上の労働者を使用する事業場では、就業規則の作成・届出が労働基準法上求められています。

就業規則の作成・見直しについては、社会保険労務士にご相談いただける部分もあります。懲戒解雇の可否や手続きそのものについては、弁護士にご相談ください。

Q どの程度の経歴詐称なら「重要な経歴」にあたりますか?
A
結論として、「重要な経歴」とは、真実を知っていれば採用しなかった、または同じ条件では雇用しなかったといえる程度の経歴を指すと考えられています。

経歴詐称を理由とする懲戒解雇が認められるかどうかの判断では、詐称された経歴が「重要な経歴」にあたるかが大きなポイントになります。学歴・職歴・犯罪歴がこれにあたる場合が多いとされますが、すべての詐称が一律に重要というわけではありません。

経歴詐称をめぐっては、最高裁判所が、雇用関係は信頼関係に基礎を置く継続的な契約関係であり、使用者が必要かつ合理的な範囲で申告を求めた場合、労働者は信義則上、真実を告知すべき義務を負うという考え方を示しています(炭研精工事件・最高裁第一小法廷平成3年9月19日判決)。この事件では、最終学歴を偽った労働者に対する懲戒解雇が有効と判断されました。

重要な経歴にあたりやすい例
・最終学歴を偽る
・職務に直結する職歴・実務経験を偽る
・業務に必要な資格の有無を偽る
・採否や賃金に直接影響する経歴
重要とはいえないこともある例
・業務と直接関係しない資格の詐称
・求人で経験不問とした職種の職歴
・採否に影響しない軽微な記載の違い
・学歴不問の募集での学歴の詐称
— 経歴詐称の「重要性」は、採用判断への影響の大きさで判断される —

どちらにあたるかは、業種・職種、募集時にどのような条件を示していたか、入社後の業務にどう影響したかなど、個別の事情によって異なります。判断に迷う場合は、解雇に踏み切る前に弁護士にご相談ください。

Q 採用前に応募者の経歴を調べたいのですが、どこまで調査できますか?
A
結論として、求人者は求職者の個人情報を、その業務の目的の達成に必要な範囲内で収集・使用しなければならないとされています(職業安定法第5条の5)。

採用前に応募者の経歴を確認したいというのは、経営者として自然な要望です。もっとも、応募者の情報を集めることには法律上の枠があります。職業安定法第5条の5は、求人者が求職者の個人情報を収集・保管・使用するにあたっては、業務の目的の達成に必要な範囲内で行うことを求めています。

【根拠】職業安定法(昭和22年法律第141号)第5条の5第1項:求人者等は、求職者等の個人情報を「収集し、保管し、又は使用するに当たつては、その業務の目的の達成に必要な範囲内で(中略)当該目的を明らかにして」収集等を行わなければならない(ただし、本人の同意がある場合その他正当な事由がある場合を除く)。

具体的には、本人に無断で前職に問い合わせる、SNSや知人を通じて私生活を調べる、出身地や家族構成など業務と関係のない事項を尋ねるといった調査は、トラブルや紛争の原因になりやすい対応です。

⚠️ 応募者本人の同意なく前職への照会や身辺調査を行うと、後の紛争で会社側が不利な立場に立つことがあります。前職への照会は、本人の同意を得たうえで、業務に関係する範囲にとどめることが基本です。

採用面接では、業務に関係する経歴について本人に直接確認し、不自然な点があればその場で質問することが、無理のない確認方法です。どこまで尋ねてよいか判断に迷う場合は、採用フローの設計段階で弁護士に相談しておくと安心です。

Q 履歴書の賞罰欄に犯罪歴が書かれていなくても、経歴詐称になりますか?
A
結論として、履歴書の賞罰欄にいう「罰」は確定した有罪判決を意味すると解されており、起訴猶予や公判係属中の事件まで記載する義務はないとした最高裁判例があります。

賞罰欄が空欄であることをもって、すべて経歴詐称と扱うのは適切ではありません。前述の炭研精工事件において、最高裁判所は、履歴書の賞罰欄にいう「罰」とは一般的には確定した有罪判決を意味すると判断しました。

この考え方によれば、採用面接の時点でまだ判決が確定していない事件や、逮捕されたものの起訴猶予となった事件については、賞罰欄に記載がなくても事実に反するものではないと整理されます。また、刑の言渡しの効力が消滅した古い前科についても、その存在が労働力の評価に重大な影響を及ぼすといった特段の事情がない限り、原則として申告義務はないと考えられています。

犯罪歴の有無を採用判断で重視したい場合は、面接で業務との関係を踏まえて具体的に質問し、その回答内容で判断するという方法が考えられます。ただし、何をどこまで尋ねてよいかは、職種や業務内容によって異なります。

犯罪歴に関する取扱いはデリケートな問題であり、対応を誤るとプライバシーをめぐる紛争に発展することもあります。判断に迷う場合は弁護士にご相談ください。

Q 採用トラブルを防ぐために、ふだんからできることはありますか?
A
結論として、募集条件・採用基準を明確にし、就業規則を整備しておくことが、採用トラブルの予防につながります。

経歴詐称をめぐる紛争は、起きてしまってからの対応に手間と費用がかかります。日ごろから採用の入口を整えておくことが、結果的に負担を小さくします。

1
募集条件を明確にする
学歴や経験を重視するなら、募集時にその旨を明示する
2
運用を一致させる
示した条件と実際の採用基準が食い違わないようにする
3
就業規則を整える
懲戒事由を定め、従業員に周知しておく

特に、募集の段階で「学歴不問」「経験不問」としていた場合、後からその経歴の詐称を理由に重い処分を行うことは難しくなる傾向があります。重視したい経歴があるなら、募集時点で明示し、実際の採用運用とそろえておくことが大切です。

採用は、入口の設計と入社後の対応の両方が関わる場面です。一件ごとに迷いながら判断するよりも、就業規則や採用フローをあらかじめ整えておくこと、そして困ったときにすぐ相談できる体制を持っておくことが、安定した事業運営につながります。日常的な労務相談を継続して行える体制をお考えの方は、弁護士吉津和輝の顧問契約についてはこちらもご覧ください。

守谷・TX沿線エリアの採用事情について
守谷市・つくばみらい市・常総市を含むつくばエクスプレス沿線は、宅地開発が進む一方で、物流・建設・介護・小売など、人手を必要とする業種の事業者が多い地域です。求人を出しても応募が集まりにくく、採用を急がざるを得ない事業者も少なくありません。こうした環境では、履歴書や面接の確認が手薄になりやすく、入社後に経歴の食い違いが判明することがあります。採用の入口を整えておくことは、地域の労働市場の実情を踏まえても、事業を安定させるうえで意味のある備えだといえます。
CONTACT

採用した社員の経歴詐称や、解雇の可否についてお困りの際は、状況をお聞きしたうえで、取り得る対応をご説明します。対応を急ぐ前に、一度ご相談いただくことで、後の紛争を避けられる場合があります。初回相談は面談またはZOOMで承っています。

弁護士 吉津和輝
茨城県弁護士会所属/〒302-0128 茨城県守谷市けやき台3-28-7
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参考資料・情報源

労働契約法(e-Gov法令検索・デジタル庁)
職業安定法(e-Gov法令検索・デジタル庁)
・炭研精工事件(最高裁判所第一小法廷 平成3年9月19日判決)

更新履歴

2026年5月17日:記事を公開しました。

本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別事案への法的アドバイスではありません。具体的なご相談は弁護士にお問い合わせください。なお、本記事の内容は令和8年(2026年)5月時点の情報に基づいています。法律・実務の取り扱いは今後変更される可能性があります。
公開日:2026年5月17日|最終更新日:2026年5月17日