退職代行から連絡が来た朝にやってはいけない3つのこと
— 会社側の対応を弁護士が解説(守谷・取手・つくばみらい)
主な取扱分野:企業法務・顧問弁護士・労務(使用者側)・退職トラブル対応・就業規則整備
| Q | 朝に退職代行から電話が来ました。本人に直接電話で確認していいですか? |
| A |
原則として、本人への直接連絡は控えてください。通知書面に「本人への連絡をお控えください」と書かれているのが通常で、これを無視して連絡を重ねると別のトラブルに発展します。
退職代行とは、退職を希望する従業員本人に代わって、勤務先に退職の意思表示や事務的な連絡の取次ぎを行うサービスです。利用の動機は様々で、「上司に直接話しにくい」という心理的理由のものから、職場のハラスメント・長時間労働への不満が背景にあるもの、無断欠勤を続けた末に体裁を整えるための利用まで含まれます。 業者・弁護士からの最初の通知には、ほぼ例外なく「以後の事務連絡は当方宛にしてください。本人への直接連絡はお控えください」という文言が入っています。これを無視して本人に電話・LINE・自宅訪問を繰り返すと、退職妨害・パワーハラスメントの主張、場合によっては名誉毀損・プライバシー侵害として法的に争点化される起点になります。 「本当に本人の意思か確認したい」という気持ちは理解できますが、その確認は退職代行業者または受任弁護士を通じて、委任状(本人の署名・捺印付き)の送付を求める形で行うのが正しい方法です。
⚠️ 同僚・上司・人事担当者にも「本人への私的連絡を控えるよう」周知してください。社員1人の独断連絡が、会社全体の対応を不利にする場面があります。
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| Q | 連絡してきたのが「業者」なのか「弁護士」なのかで対応は変わりますか? |
| A |
相手が誰かによって対応の枠組みが大きく変わります。最初に必ず受任者の属性(民間業者/労働組合/弁護士)を確認してください。
退職代行の運営主体は3類型に分けられます。それぞれ法的にできることが違います。
— 図:退職代行の3類型と会社側の対応の違い —
弁護士法72条は、弁護士・弁護士法人でない者が、報酬を得る目的で訴訟事件・その他一般の法律事件に関して鑑定・代理・仲裁・和解その他の法律事務を取り扱い、または周旋することを業とすることを禁じています。「事件性」の解釈には議論がありますが、民間業者が「有給は20日全部消化させてもらいます」「未払残業代の支払いも併せて要求します」といった交渉に及ぶ場合、弁護士法72条に抵触する場面があります。
【根拠】弁護士法(昭和24年法律第205号)第72条「弁護士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で訴訟事件、非訟事件及び審査請求、再調査の請求、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることができない。ただし、この法律又は他の法律に別段の定めがある場合は、この限りでない。」
民間業者から「交渉」が持ち込まれた場合の基本対応は、「退職の意思表示は受領しますが、退職条件についての交渉は本人または代理人弁護士・労働組合とでないと応じられません」と返すことです。事務的な連絡(退職届の送付・離職票の送付先確認・貸与物返却等)の窓口として業者を利用するのは構いません。一方、退職日・有給・賃金等の条件交渉は、業者ではなく本人または弁護士・労働組合と直接行うべきです。 |
| Q | 退職代行の連絡を無視したり、退職届を受け取らないという対応はできますか? |
| A |
無視・受領拒否はおすすめできません。期間の定めのない雇用契約では、民法627条1項により解約申入れから2週間で雇用契約は終了し、無視によって退職の効力を阻止することはできません。
「直接話を聞いていないから無効だ」「退職届を受け取らなければ辞めさせなくて済む」という発想は、結論から言えば誤りです。退職の意思表示は、第三者を介して行われた場合でも、会社に到達した時点で効力が生じます。電話・メール・書面いずれの形式であっても、内容が会社に伝わっていれば法的効果は変わりません。
【根拠】民法(明治29年法律第89号)第627条1項「当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の申入れの日から二週間を経過することによって終了する。」
会社側が連絡を無視し続けると、本人側は弁護士に依頼して内容証明郵便で再通知を出し、未払賃金や慰謝料の請求まで含めた労働紛争に発展するのが典型パターンです。「無視したら相手も諦めるだろう」というのは、現在の労働市場では通用しません。
— 図:初動でやってはいけない3つのことと正しい対応 —
受領した事実は記録に残しつつ、感情論を排除して事務的に返答することが、結果として会社の負担を最も軽くする方法です。 |
| Q | 退職日まで2週間あるのに、残った有給を全部消化したいと言われました。拒否できますか? |
| A |
退職予定者の有給取得に対する時季変更権の行使は、原則として困難です。残日数分の取得を認めざるを得ない場面が多いといえます。
使用者には、労働者の有給取得が「事業の正常な運営を妨げる場合」に限り、他の時季に与えることができる時季変更権が認められています(労働基準法39条5項ただし書)。
【根拠】労働基準法(昭和22年法律第49号)第39条5項「使用者は、前各項の規定による有給休暇を労働者の請求する時季に与えなければならない。ただし、請求された時季に有給休暇を与えることが事業の正常な運営を妨げる場合においては、他の時季にこれを与えることができる。」
もっとも、時季変更権はあくまで「他の時季に変更する」ための権利です。退職日以降には労働日が存在しないため、変更先がなく、行使する物理的余地がありません。退職代行を使った退職では、本人が即日から出社しないケースも多いため、結果として残有給日数分の消化を認めざるを得ない場面が大半です。 「引継ぎが必要だから時季変更権を行使する」という対応も、事業運営上やむを得ない事情が客観的に存在し、かつその必要性が極めて高い場合に限り認められた裁判例があるにとどまります。一般的な引継ぎを理由とする時季変更権行使は、後の労働紛争で否定される可能性が高いと考えてください。
【補足】どうしても引継ぎが必要な場合は、(時季変更権の行使ではなく)退職日の繰下げを本人と合意できないか、本人または代理権のある弁護士・労働組合を通じて協議する方が現実的です。
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| Q | 無断欠勤・引継ぎ放棄のいわゆる「バックレ型」だった場合、損害賠償請求はできますか? |
| A |
退職代行を使ったこと自体を理由とする損害賠償請求は基本的に認められません。ただし、無断欠勤・引継ぎ放棄により会社に具体的な損害が生じ、立証できる場合には、賠償が認められた裁判例があります。
退職の自由は民法627条で保障されており、代行業者を通じて退職の意思を伝えることそれ自体は違法ではありません。「業務に穴が開いた」「採用コストがかかった」という抽象的な不利益では、損害賠償請求の根拠としては足りません。 もっとも、退職代行の利用には、ハラスメント等を背景に正当な権利行使として用いるパターンと、無断欠勤を続けた末に逃げ道として用いるいわゆる「バックレ型」のパターンがあり、後者では会社側に具体的な損害が生じることがあります。たとえば、特定の従業員が常駐することを前提とした取引先との契約があり、その従業員が突然出社しなくなったために契約を失った、といったケースです。
裁判例:ケイズインターナショナル事件(東京地判平成4年9月30日労判616号10頁・事件番号
平成3年(ワ)第5341号)インテリアデザイン会社が、取引先A社との契約のため新たに採用した従業員が入社後ほどなく病気を理由に欠勤・退職し、その結果A社との契約が解約された事案。会社側が念書で200万円の支払いの約束を取り付けたうえで提訴した。裁判所は会社の損害発生を認めつつ、信義則を適用して請求額の3分の1にあたる70万円の支払いを命じた。引継ぎ放棄等により会社に具体的損害が発生した場合、賠償が一部認められ得ることを示した裁判例として参照される。
このようなケースで損害賠償を検討する場合は、(1)無断欠勤・引継ぎ放棄等の事実、(2)それによって発生した具体的損害(失った契約・追加で支払った外注費等)、(3)両者の因果関係を、書面・取引履歴で立証できる形で記録しておく必要があります。「迷惑を被った」という心情だけでは認容に至りません。
⚠️ 通知段階で「損害賠償請求するぞ」と本人や代行業者に告げる対応は、退職妨害・脅迫等の主張を呼ぶ起点になります。請求の可否は、雇用関係の整理(退職届・有給・離職票・貸与物返還)を先に終えてから、別フェーズで冷静に検討するのが実務的です。
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| Q | 退職代行への対応が落ち着いた後、会社として何をすべきですか? |
| A |
就業規則・労務管理体制の見直しが重要です。退職代行が選ばれる理由は様々で、会社側の職場環境に課題があるケースもあれば、従業員側に問題があるケースもあるため、双方の場面を想定した規程整備が有効です。
従業員が退職代行を選ぶ理由は、ハラスメントや長時間労働への不満が背景にあるパターンから、無断欠勤を続けた末に逃げ道として利用するパターンまで様々です。同じ状況が続けば、次の従業員も同じ手段を選ぶ可能性があります。 対応が終わった後に整備しておくと、次回以降の混乱を減らせる項目には次のようなものがあります。
1.
退職手続規程の明確化退職届の様式・提出方法・受領後の流れ・本人不在時の連絡方法を就業規則に明記
2.
無断欠勤時の取扱い無断欠勤が一定日数続いた場合の連絡手順・自然退職の取扱い・損害発生時の記録方法を規定化
3. 貸与物返還ルール制服・PC・社員証・健康保険証等の返還方法、不返還時の取扱い
4. 引継ぎ義務の規定引継ぎの範囲・方法・期限を就業規則で具体化
5. 未払賃金・残業代の精算ルール退職時の精算プロセスを明確に
6. 有給残日数の管理常に最新の残日数を本人と会社が把握できる仕組み
7.
ハラスメント相談窓口退職を言い出せない原因がハラスメントの場合の予防策として、相談窓口を整備
退職代行を一度経験した会社は、「もう一度同じことが起きたとき、どう動くか」のチェックリストを社内で持っておくと、初動の判断が速くなります。社労士の領域は社労士に、税務は税理士に、就業規則の法的整合性や労働紛争の防止は弁護士に、と役割を分けて整備するのが効率的です。 |
守谷・取手・つくばみらい・常総・牛久・龍ケ崎・つくばといったTX沿線および常磐線沿線エリアでは、シフト勤務型の小売・飲食、ロードサイド型の店舗、訪問介護事業所、運送・倉庫業の現場で、退職代行からの連絡が増えています。本人が遠方の都内事業者に依頼するケースも多く、経営者は朝の電話で初めて事態を知ります。即日から出社しなくなり、貸与物の返還や引継ぎに支障が出ることもあれば、本人側にハラスメント等の正当な不満があるケースもあり、初動の段階で原因を即断するのは難しい場面が多いといえます。労務管理の文書化(タイムカード・勤怠表・給与明細)と就業規則の現代化は、どちらの場合にも備える基本工事になります。
退職代行から連絡が入った直後の対応、就業規則の点検、未払賃金・有給の精算プロセス整備、無断欠勤・引継ぎ放棄に関する損害賠償の検討など、企業の労務トラブルに関するご相談を承っています。状況をお聞きしたうえで、書面のやり取りの仕方、本人連絡の可否、相手方の属性(業者か弁護士か)に応じた対応方針をご説明します。初回相談は面談またはZOOMでの対応となります。
📞 050-3623-1320
守谷市・取手市・常総市・つくばみらい市・龍ケ崎市・牛久市・つくば市・土浦市・野田市・我孫子市・北柏をはじめ、茨城県南部・千葉県北西部の中小企業の経営者・人事担当者からの退職トラブル・労務全般のご相談もお受けしています。弁護士 吉津和輝(茨城県弁護士会所属)までお気軽にどうぞ。
・民法(明治29年法律第89号)|e-Gov法令検索
・弁護士法(昭和24年法律第205号)|e-Gov法令検索
・労働基準法(昭和22年法律第49号)|e-Gov法令検索
・隣接士業・非弁活動・非弁提携対策(日本弁護士連合会)
2026年5月10日:初稿公開(民法627条・弁護士法72条・労働基準法39条をe-Gov法令検索および複数の弁護士事務所サイトで確認。ケイズインターナショナル事件は複数の弁護士事務所サイト・労働判例616号10頁で確認)
本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別事案への法的アドバイスではありません。具体的なご相談は弁護士にお問い合わせください。なお、本記事の内容は【令和8年(2026年)5月】時点の情報に基づいています。法律・実務の取り扱いは今後変更される可能性があります。
公開日:2026年5月10日|最終更新日:2026年5月10日
