財産分与の際に相手方の暗号資産・仮想通貨(ビットコイン、イーサリアムなど)をどうやって調査するか 弁護士にできること。弁護士吉津和輝

 

離婚・男女問題

財産分与の際に相手方の暗号資産・仮想通貨(ビットコイン、イーサリアムなど)をどうやって調査するか
弁護士にできること

弁護士 吉津和輝(茨城県弁護士会所属)市川法律事務所に所属する弁護士です。

離婚の財産分与において、相手方が暗号資産(仮想通貨)を保有している可能性があるケースが増えています。現在はスマートフォンアプリで仮想通貨の取引が簡単にできてしまうので、配偶者に分からないまま取引ができてしまいます。暗号資産は預貯金や不動産と異なり紙ベースでの記録が残りにくいため、財産調査には一定の限界があります。もっとも、弁護士会照会や調査嘱託など弁護士だからこそ使える調査手段があり、個人で対応するよりも選択肢が広がります。弁護士が使える調査手段とその限界、財産分与における暗号資産の扱いを解説します。

Q暗号資産は離婚の財産分与の対象になりますか?
A
はい。婚姻中に形成された暗号資産は、財産分与の対象となる共有財産に含まれます(民法第768条)。ビットコイン・イーサリアム等のいずれの暗号資産も、婚姻中に取得・形成されたものであれば原則として財産分与の対象です。

もっとも、暗号資産は預貯金や不動産と異なり、通帳や登記簿のように目に見える形で記録が残らないため、相手方がどの取引所を利用しているか、どのくらいの残高があるかを把握することが難しいケースがあります。
【根拠】民法(明治29年法律第89号)第768条:離婚した場合における財産分与の規定。同条に基づき、家庭裁判所は婚姻中に取得・維持した財産を考慮して財産分与の内容を定めます。
Q調停の段階で相手方の暗号資産を調べる手段はありますか?
A
調停段階でも調査嘱託の申立ては手続き上可能であり、必要性が認められる場合には採用されることもあります。ただし調停は基本的に話し合いの手続きであるため、審判・訴訟段階と比べると活用される場面は限られます。また、弁護士会照会(弁護士法第23条の2)については、本人の同意がなくても照会自体は可能です(個人情報保護法第27条第1項第1号により「法令に基づく場合」として本人同意不要とされています)。ただし、相手方のプライバシー等の保護の観点から照会先が回答を拒否する場合があります。いずれも活用できる場面はありますが、一定の限界があることを踏まえた上で対応を検討することが重要です。

その他、調停段階で取り得る主な方法は以下のとおりです。
  • 相手方への財産開示の求め:調停の中で財産目録の提出を求めることができます。任意の対応になりますが、虚偽の申告をした場合は後の手続きで不利な事情として評価される可能性があります。
  • 確定申告書・銀行口座明細等の確認:暗号資産の売買益は雑所得として申告義務があります。確定申告書の雑所得欄への記載や、銀行口座の入出金明細における取引所への送金履歴が、暗号資産保有の手がかりになります。
  • 財産に関する情報開示命令の制度:2026年4月1日施行の改正により、調停手続においても財産情報の開示を命じることができる場合があります(家事事件手続法152条の2)。資産の状況に関する情報として暗号資産も含まれると解されています。
⚠️ 暗号資産は紙ベースでの記録が残りにくいため、相手方が保有を否定した場合、何らかの形跡(銀行の入出金記録・メール・郵便物など)がなければ、それ以上調査を進めることが難しい場面があります。「きっと持っているはずだ」という主張だけでは、調停・審判いずれにおいても対応が困難になることがあります。一定の根拠となる情報を把握した上で対応を検討することが重要です。
Q審判・訴訟になった場合はどのような調査手段がありますか?
A
審判・訴訟に移行した場合、裁判所を通じた「調査嘱託」(家事事件手続法第62条、民事訴訟法186条)を申し立てることが考えられます。裁判所が必要と認めた場合には、銀行や暗号資産取引所に対して口座情報・取引履歴等の報告を求めることができます。

ただし、調査嘱託は申し立てれば当然に認められるものではなく、必要性を示す事情を裁判所に示す必要があります。また、取引所が特定できていない場合に網羅的に全取引所を調査することは困難です。照会先が実際に回答するかどうかも個別の対応によります。
2026年(令和8年)4月1日に施行された家事事件手続法等の改正により、財産に関する情報開示命令の制度が設けられ、資産の状況に関する情報として暗号資産も含まれると解されています(家事事件手続法152条の2、人訴法34条の3第2項)。正当な理由なく開示しない場合のペナルティも規定されています。
【根拠】家事事件手続法第62条、民事訴訟法186条
Q個人ウォレットに移されてしまった場合は調べられますか?
A
個人ウォレット(ハードウェアウォレット・MetaMask等)に移されてしまった場合、取引所という第三者が介在しないため、調査嘱託の照会先が存在せず、直接の調査は困難になることがあります。
⚠️ 財産分与の協議・調停が始まる前に相手方が暗号資産を個人ウォレットへ移転・売却してしまうと、後から証拠を集めることが困難になります。早期に弁護士への相談の検討をお勧めします。
Q隠していた暗号資産が発見された場合、財産分与はどうなりますか?
A
相手方の暗号資産が発見された場合、その分を含めた財産分与の請求が可能です。婚姻中に夫婦共同の家計から支出して取得した暗号資産は共有財産として財産分与の対象となり、原則として2分の1の分与を請求できます(民法第768条)。

財産分与における暗号資産の扱いは以下のとおりです。
  • 対象財産の確定基準時:清算的財産分与の基準時は原則として別居時とされています。たとえば別居時に1BTCを保有していた場合、その1BTCが財産分与の対象となります。
  • 評価額の基準時:評価額は原則として離婚成立時の価格を基準とします。ただし暗号資産は価格変動が激しいため、調停・裁判において財産分与の内容が確定する時点に可能な限り近い時点の価格を用いることが実務上は一般的です。著しく不公平な場合には評価時期が修正される可能性もあり、絶対的なルールではありません。
  • 特有財産に該当する場合は対象外:婚姻前から保有していた暗号資産、婚姻後に相続・贈与により取得した暗号資産は特有財産となり、財産分与の対象になりません。また、運用者の特別な才覚によって利益がもたらされた場合に特有財産として扱われることがあります。ただしこれは例外的に認められるにすぎず、暗号資産については市場全体の上昇に伴う値上がりは才覚とは認められにくい傾向にあります。
なお、財産分与の請求期間は2026年4月1日以降に離婚した場合は5年以内に延長されています(改正民法)。ただしこの延長は2026年4月1日以降に離婚した場合に適用されるものであり、施行日前に離婚した場合には旧来の2年が適用されます。

「相手方が暗号資産を持っているようだが詳細がわからない」「財産分与の交渉前に暗号資産の実態を把握したい」「審判・訴訟での調査嘱託を検討したい」など、離婚・財産分与に関するご相談はお気軽にどうぞ。状況をお聞きした上でご説明します。

弁護士 吉津和輝
茨城県弁護士会所属
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本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別事案への法的アドバイスではありません。具体的なご相談は弁護士にお問い合わせください。なお、本記事の内容は2026年4月時点の情報に基づいています。暗号資産に関する法律・実務の取り扱いは今後変更される可能性があります。